今年聴いたもの2020年+観たもの

毎年恒例の年末ブログ記事、今年はnoteでまとめました。


Omega / Immanuel Wilkins
Blue Note Records 2020-08-07


一番今年らしいというか、時代が変わったなと強く思った新譜でした。アルト・サックスといえば、華やかでスピード感に溢れ、バンドを引っ張っていく唯一無二の花形楽器です。楽器が千切れそうなぐらいの息のスピードとパワー、アンサンブル力も当然大事ではありますが、アルトという楽器はちょっと特別でそれに勝るスター性が必要とされているポジションだと思います。勿論パーカーという始祖があったからこその価値観で、その影響からは逃れられません。
このイマニュエル・ウィルキンスは、アルトの新人22歳ですが、最初に聴いたその音の手触りがとにかく良いと思いました。ソフトだけど、リー・コニッツやポール・デスモントみたいなソフトとは全然違って聞こえて、ハードにアンサンブルするためのイメージとヴィジョンが見えている感じというか、それでいて圧倒的に手触りはブラックなんですよ。この年齢でデビュー戦でこのヴィジョンを世の中に向けてプレゼンできるというのは、シーンや教育も含めた全体の成熟というか、ジャズがバトルという時代は決定的に終わったかなと、最初からアンサンブルのためにインティメイトでリッチな音を目指し、全ての技術的なことはできて当たり前、理解していて当たり前というところから、アンサンブルの成熟を目指すものになったのだなと、強く思った一枚です。
そしてこの作品はBLM運動と連動し黒人差別をテーマに扱うもので、非常に社会的な自覚に満ち溢れ、社会的なメッセージをテーマにした名盤の歴史を思い出すと同時に、ジャズが非常にソーシャルなものだということを認識させられた作品でもありました。精神的に受け継がれているのは、何もアルバムのテーマや触れ込みだけではなく、音楽そのものに横溢しています。本当に素晴らしく、ライブで聴いてみたいです。


Essais vol.3 / Pierre de Bethmann
ALEA 2020-03-02

90年代のプリズムから大好きな、ピエール・ド・ベスマンの新譜です。(最近、日本のクレジットがベトマンになっているようですが、どちらが近いか不明)
今年は『Essais vol.4』も出しており、2枚もトリオの新譜が聴けて本当に嬉しい。vol.3の方が好きなのでこちらをご紹介、快作がきました。私はベスマンの、70%ぐらいで出し切らずに止めているピアノ音の像が好きなんですよ。その余力の部分に、知性と底の見えなさがあって、もっと知りたい、聴きたい、と思います。ベスマンの場合は、弾こうと思ったら本当にどこまでも弾けるし攻撃的になれるのに、やらない余裕をいつも感じるのが本当に格好良い。ピアノを弾くと、知的さと隠しもった鋭利な爪が見え隠れして「絶対この人やばい」と思っちゃうんですけど、エレピを弾いている時は特に気持ち良く踊れるような演奏も多くて、このソリッドとポップな両面があるから好きなんですよね。ヨーロッパではEssaisシリーズ4枚組のパッケージがリリースされているようで欲しいんですが、まだ輸入がないみたいです。


Frame / Enrico Pieranunzi 
SOLID/CAM JAZZ 2020-02-19


期待していたホルヘ・ロッシとのトリオ作『Common View』同発ぐらいのタイミングでのソロ・アルバムでしたが、トリオよりソロのこちらの方が良かったです。散文的なものですが、最近こってりしたコンポジションのアルバムが多かったので、久々にこの方面のピエラヌンツィを聴けて良かったです。こちらもピエラヌンツィの魅力の大きな一面だと思います。画家の名前のついた曲が並び、おそらくそこから得られた印象で即興をしているのでしょうね。今年はコロナ禍でホーム・コンサートの配信も見ることができて、長年ファンをやっていますが、貴重な体験ができました。ご自宅のピアノはブリュートナー、非常にブリリアントな楽器からインスピレーションを受けていたということがわかり、ピアノ環境は作曲に影響しないわけがないですから、知れてご自宅での演奏が聴けて面白かったです。


Stations / Viktria Tolstoy
Act 2020-01-31


ヴィクトリア・トルストイはずっと好きで新譜は必ず聴いていますが、今年のものはニルス・ラングレンのプロデュースによるものみたいです。ラーシュ・ダニエルソンがやっていた時期よりも明るくてフォーキーで自然に歌っていて、とても良いです。


Quadra / Sepultura
ワードレコーズ 2020-02-07

文句なしに格好良かったですね。ベテランバンドが熟成されて、暴力性が研ぎ澄まされて、スラッシュだしプログレッシブだし、でもやっぱセパルトゥラらしいトライバルなサウンドはガッツリあって、とりあえずドチャクソ格好良くて、今年メタルではこれが一番好きでしたしよく聴きました。語彙不足になるぐらい、カッコイイの一言でした。


日本のヘビーメタル / THE冠
ハイパーデスラーレコード 2020-04-29


コロナ初期にキャンセルばかりで弱っていた時期に、レビューを書く関係でリリースより少し先に聴かせてもらって、1曲目で泣きました。冠さんの音楽は、本当に背中を押してくれますし、技術的に高度なのとエンタメと人情がすごいパワーでブレンドされていて、この時期にこのアルバムを聴けて良かった一枚です。


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自分のリリースは、下記2作でした。この状況の中でリリースできたこと、本当に感謝しております。

Faces / 東かおる & 西山瞳
Meantone Records 2020-09-23

Vibrant / 西山瞳
Meantone Records 2020-06-10 ※サブスクなし



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映画は、例年なら月6-10本観てるんですけど、こんな状況なので例年の10分の1以下しか鑑賞していません。
ですので、ベスト10を選ぶのも難しいのですが、1位は決まっています。

『ハスラーズ』

私のオールタイム・ベストになる一本がきたかも。
この予告では、女性が連帯して一発かますみたいな感じですが、楽しいだけでなく観た後に残るものはヘヴィで、本当にどすんときました。表面的なノリはオーシャンズ8みたいな感じに見えますが、男性優位社会で搾取される側が搾取し返すという、社会システムの現実を非常にシビアに描いていて、スコセッシ映画の女性版みたいな感じです。女性たちの着るもの、メイク、髪のお手入れなども状況で変わっていくのが本当に生々しい。でも、どんな状況でもリアルな美しさが溢れていて、生命力が溢れる女性たちが美しかったです。

そしてとにかくジェニファー・ロペスが最高でした。音楽も最高で、最強クオリティのシスターフッド映画を観れて、本当にこの映画は今年抜群のベストでした。


『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』

コロナ前に観ました。戦車映画ですが、戦車の砲弾視点の映像とか、とにかく戦車の戦闘が面白いし格好良い。同時期に観た『1917』も面白かったですが、エンタメとして何回も観たいのはこちら。


『彼らは生きていた』

言葉がなかったです。映画の力というものをとても感じました。


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今年はコロナで自宅にいることが圧倒的に多かったので、ドラマも沢山見ました。
『コブラ会』、『マンダロリアン』、『ザ・ボーイズ』、『クイーンズ・ギャンビット』など、面白く楽しみました。
鬼滅の刃も全部アニメをNetflixで観て、映画館に行きました。

来年はもう少し多く映画館に行けたらいいなと思っています。




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