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AI搭載によるドローン活用の拡大

2023年は、G7広島サミットで生成AIが議題に取り上げられるなど、日本にとっての「AI元年」と呼べる年となった。世界中を見ても、ChatGPTやstable diffusionといった生成AIを個人でも利用出る環境が広まり、日本でも多くの人が利用するようになった。

ハードウェアを見ても、IntelやAMDは自社CPUにNPU(AIや機械学習プログラムで使用される最も一般的なアルゴリズムであるニューラルネットワークで使用されるタイプの計算に特化したプロセッサー)を搭載し、個人レベルでもAI利用をサポートしている。

最近発表されたPCは「AI PC」と呼称されたりと、世の中は「AI」という単語で溢れた年となった。AIは分析・予測を得意とするが、必ずしも高い精度で実現できるわけではない。それは、「AIモデル(機械学習モデル)」の品質が、AIの精度を左右するためだ。

機械学習における「モデル」とは、「入力の段階でインプットしたデータをもとに、AIが機械学習をする作業」を意味する。私たち人間は「経験を通じて学習していく」ことで成長するのに対して、AIは経験の代わりにAIモデルを通して成長すると考えればいい。AIモデルがなければ、データに対する着眼ポイントや出力に向けた判断などを、人間が全てコンピューターへ指示しなければならなくなり、人工知能と呼べるものにはならない。

AIと聞くと、「高速で処理をする万能型なシステム」を思い浮かべる人も多いが、人間と同じく学習は必要で、学習内容により精度は変わる。ChatGPTのGPTとはOpenAIが発表した大規模言語モデルを表すが、GPT-3、GPT-3.5、GPT-4と更新される度に精度が上がったことを見れば、AIにおけるモデルがどれほどAIの性能に影響を与えるかが分かる。つまり、AIにどのようなモデルを学習されるかが重要で、「どのような場面で活用するか」を考えた上で、適切なモデルを学習させれば、人工知能の名に恥じない活躍をするのだ。

AIの活用として、最近目にすることが増えたものとしてAI搭載ドローンがある。ドローンそのものの性能も向上し、山間部や遠隔地での安定した利用ができるようになり、ハード面でできることが増えたが、これまでは人間が操縦することが当たり前だった。ところがAI搭載ドローンの登場で、AIを活用してドローンを制御し、様々な業務に応用できるようになった。

ドローンに搭載されたAIの仕組みとしては、データ収集、データ解析、アクション決定の3段階がある。ドローンは内蔵されたカメラやセンサーを使用して周囲の環境からデータを収集する。収集したデータはドローン内にプログラミングされたAIシステムによって解析され、現在の状況を理解するのに使われる。最後は解析結果を基に、ドローンは次に取るべきアクションを自ら決定して実行に移る。過去のデータから学習して新しい状況に適応する能力を持つため、ドローンは稼働するほどより正確で効率的な判断を下せようになる。こういった自己学習を行う能力により、人間がアクセスしにくい場所での作業や、高度な精度が求められるタスクといった多岐にわたる応用が可能となるのが、ドローンにAIを搭載する最大の利点といえる。

農業において、上空から撮影した画像をディープラーニングで分析して病害虫を検知し、必要な場所にのみ必要な量の農薬を散布したり、収集したデータを米の生育予測にも応用し、生産性と品質の向上を実現することがすでに行われている。セキュリティ業界ではセコムが提供するセキュリティドローンは、AIを駆使して自律的に飛行を行い、異常を検知した際には即座に中央監視センターへ通報する機能を備えている。特に、夜間や人の立ち入りが難しい場所での監視に優れており、従来の固定式カメラや人間の警備員ではカバーできなかった盲点を補い、死角を大幅に減少させることができるようになった。

災害時においては、迅速な展開能力と広範囲をカバーできる特性を活かし、道路が寸断されたり、通信インフラが損傷した場合でも、ドローンは被災地の様子をリアルタイムで撮影して、被害状況を迅速に把握することができる。現在では積載量が最大200kgとなる大型ドローンの開発も進んでおり、救援物資の運搬ができるので、陸路の状況に依存せず安定的に避難所へ物資を搬入できることは被災者支援の観点からも大きな発展といえる。AIがドローンに搭載されるということは、ドローンに操縦者が乗り込んで運転しているようなものだ。その場で判断し、行動に起こすことができるのだから、遠隔操作をしていたドローンでは難しかった場面でもドローンを投入できる。

AI搭載ドローンを考える時、一つの映画をいつも思い出す。
1966年9月23日公開の「ミクロの決死圏」だ。「アメリカ亡命の直後に襲撃され脳内出血となり、外科手術が不可能となった要人を救うため、米政府は医療チームを潜水艦ごとミクロ化し、体内に送り込んで手術する作戦を決行する」というストーリーで、血管内に潜水服を着た医師が浮かびながら手術を行うシーンはSFそのものだ。人体の中に医師が入ることができれば、目視で患部を診察でき、直接処置ができるのだから、一つの理想型ともいえる。

映画から60年余り経った現代ではVRを利用して患者の人体に入り、医療に活用する試みが行われているのだから、SFも荒唐無稽とはいえない。人が空を飛び現地に向かい、その場で判断、行動ができれば、かなりのことが効率的に行われると昔の人は思ったはずだ。ヘリが利用されるようになったのは正にこの理想からだが、ヘリでは周囲の影響が大きすぎるので、利用範囲に限界がある。もっと小型で小回りがきくドローンの出現は、ヘリ活用の限界を突破してくれる。

ドローンにAIが搭載されることで、ミクロの決死圏同様に不可能と思われたことが実現したのだ。科学とは人間の理想を実現するための技術だ。どこに原石が落ちているか分からない。ドローンが出現した時には玩具だと蔑み、AIが出現した時にはシンギュラリティを危険視した人が多くいた。リスクヘッジは大切だと思うが、科学の妨げをするのではなく、「どのようにすれば活用できるか」と前向きな考えで科学の進歩を見守りたい。

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