オールタイムベストアルバム③【Love Song/麻枝准/Key】
オールタイムベストアルバム全4枚、最後のアルバム。タイトルは③だけどこれが最後です。(最初はCD解説だったのに、結局Key・麻枝准解説になってしまいました)
Love Song
作詞・作曲はすべてKeyの麻枝准、ボーカルはすべてeufoniusのriyaとなっている。2005年のアルバム。KeyといえばCLANNADやAIRなどの人気作品を作ったゲームブランドであり、麻枝准はKeyでシナリオライターや作詞・作曲を担当した重要人物であり、麻枝准が発見したともいえるriyaはeufoniusで「true tears」の「リフレクティア」や「ノエイン もうひとりの君へ」の「Idea」を歌っている。
カバーデザインは安倍吉俊。「All You Need Is Kill」や滝本竜彦の「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」「NHKにようこそ!」などの表紙絵、アニメ「serial experiments lain」のキャラデザを手掛けたイラストレーター。後述する「灰羽連盟」の原作、キャラデザを務めた人である。
CDのライナーノーツは全ぺージに安倍吉俊の絵が載っていて、麻枝准が曲を手掛けているおかげでKeyっぽい曲が詰まっている。
このアルバムには、これ以降に麻枝准によってアレンジされた曲がいくつかある。例えば「走る」は「リトルバスターズ!エクスタシー」のBGMになっていたり、「僕らの恋」は「神様になった日」のPVで使われていたり(はじめて聞いたときにはぞわっとした)、「折れない翼」はKeyとは別の「5~ファイブ~」というゲームの「永遠」でアレンジされたり(そしてこのゲームのOPである『風の理』はのちに『Code Blue』という神曲になる)(今調べると『ヘブンバーンズバレット』の『Light Years』という曲も『折れない翼』のアレンジだ・・・やったことはないがマジか・・・)、「Love Song」は「智代アフター」のBGMになったりしている。
また、「灰色の羽根」はおそらくアニメ「灰羽連盟」からで、歌詞がその世界観と似ている。
このアルバムの魅力は、ポップで青春っぽくファンタジーなラノベっぽいラブストーリーを普遍化した世界観だと思う。
そして、麻枝准の作る世界観は村上春樹の世界観である。
春樹チルドレン
よく新海誠監督が村上春樹作品から影響を受けた春樹チルドレンと言われるが、僕は麻枝准をそうだと言われた方がしっくりくる。
Keyの作品、特に初期のKanon、AIR、 CLANNADを考えてみよう。プレイヤーは、病気で苦しめられていたり、人知れず魔物と闘っていたり、すでにこの世にいなかったりする女の子との恋愛、二人の人生を眺める。決して一人の運命の相手を見つけるのではない。何度でも周回し、あらゆる運命を見届ける。CLANNADにおける幻想世界の謎の少女とガラクタの人形がその運命の普遍性を象徴し、プレイヤーの視点は世界を俯瞰する。そしてこの視点が、村上春樹の「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」と同じものになるのだ。
この世界には無数の男女がいて、出会いの形も無数にあり、無数の恋がある。それでいて一人一人の個性にたいした差はない。それゆえに情熱的な恋はあっても運命的な恋はほとんどない。しかし、それがAIRのように遥か昔から形を変え時を超えて繰り返された恋であり、また別の場所で、別の世界線で別の自分が紡ぎ出した恋と同じ種類のものであること、その普遍性が人間にとって運命的なものであることに気付いた瞬間、その恋が特別な意味を持ったもののように思われてくるのだ。
Keyと村上春樹に共通するものがもう一個あって、それはファンタジックな世界観である。前述の「灰羽連盟」は村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」と設定が似ており、また両者のネタバレに繋がるため詳しくは言及しないが、「神様になった日」との関連もある。そしてAIR、 CLANNADなどに見られるファンタジックな要素。
このアルバムにもファンタジックな要素があり、それが少年と少女、男と女の恋愛を普遍化する作用を持っている。この作品はコンセプトアルバムになっていて、僕のKeyの大好きなところがたくさん詰まっている。
おおざっぱに言えばこんな内容。少年が少女の背中を追いかけて、彼女なしではいられないと言って、君のためにはすべてを壊すと言って、世界を転々とし、どの曲の物語も悲しい終わり方をする。
少年はそんな夢ばかりを様々な曲の中で追っていく。自分を愛することができない故に、悲しい終わり方しかできないのかもしれない。でも最後の二曲、「そして物語が終わる」と「Love Song」ではそこにちょっとした兆しが見え、何らかの解決があるのかもしれない。だけどアルバム未聴の人のためにここではそのことについて述べない。
このアルバムは2005年のもので、この前にKanon、AIR、 CLANNADがあり、この後にリトルバスターズ!、Rewriteがあるのだが、それについてもここでは述べない。麻枝准にとっての何かしらの転回点がここ、2005年にあるのかもしれないが、そのことを語るのは僕の範疇ではない。ただ好きなアルバムと、好きなゲームについてちょっとおしゃべりするだけに留めておきたいと思います。