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オールタイムベストアルバム②【ストーン・ローゼズ/マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン】

 2枚目と3枚目を同じ記事で並べなければならないのは、僕にとってこの2枚が音楽における"ドラッグカルチャー"を体現するアルバムだから。
 ドラッグカルチャーの始まりは1967年夏にアメリカで沸き起こったサマー・オブ・ラブ。ドラッグ・セックス・ロックンロールを掲げ、幾多の若者たちがヒッピーという奇行に走り、日本やイギリスまで飛び火した。
 ボブ・ディランがおり、ジミヘンがおり、ビートルズがおり、ピンク・フロイドがおり、つまりは音楽の黄金時代だった。サイケデリック・ロックが流行り、ミュージシャンは我先にLSDをキメて生じたイメージを音楽に昇華しようとした。ビートルズは「Lucy In The Sky With Diamonds」という曲を作った。

 しかしドラッグの本物の快楽を音楽で初めて表現せしめたのはストーン・ローゼズであり、またドラッグ中毒の内的な状態、内向的な統一感はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインが初めて音楽にした。

ストーン・ローゼズ

 時は1988年。エクスタシー(MDMA)がヨーロッパ中に広まり、イギリスの音楽シーンにおいてセカンド・サマー・オブ・ラブが勃興した。アシッド・ハウスといったテクノ、ハウスなどのダンスミュージックをかけて踊るレイヴと呼ばれるパーティーが毎夜開催され、若者たちのバカ騒ぎが繰り返された。そんな中、イギリスのマンチェスターにて、ロックの方面でダンスミュージックの要素を取り込んだ音楽性を持つバンドが出現する。ニュー・オーダーがいて、ハッピー・マンデーズがいて、そしてストーン・ローゼズがいた。このあたりは映画「24アワー・パーティー・ピープル」に詳しい。

 さて2枚目。僕はこのアルバムを「悟り」のようなものだと思っている。快楽を突き抜けてしまうと、その向こうには何も広がっていないということ。人気のない真夏の海水浴場、焼け付くような太陽の光が一身に降り注ぎ乱反射で目がチカチカし、人だって殺せそうな感覚、そんなイメージ。「I Wanna Be Adored(俺は崇拝されたい)」、そんなようなことしか思い浮かばない。これは仏教用語の「空(くう)」のことなのかもしれない。仏教では快楽を滅却した果てに「空」は理解できると考えるが、同じく突き抜けた快楽も「空」となる。

 ストーン・ローゼズの影響下にオアシスとブラーがあり、つまりブリットポップというジャンルはこのバンドなくして現れなかったわけだが、ブリットポップも今や時代遅れ、グランジとともに90年代の遺物と化し、同様にストーン・ローゼズも忘れられつつある。しかし同じく90年代、ストーン・ローゼズのあとでアイルランドの怪物バンドが怪物アルバムをリリースする。

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン

 マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは1984年、アイルランドのダブリンで結成された。ストーン・ローゼズがアルバムを二枚しか出していないのに対して、こちらもフルアルバムを三枚、EPを数枚出している程度で作品数が少ない。
 とんでもない時間(2年半)、とんでもない資金(27万ポンド)をつぎ込んで作られたこの「ラヴレス」はそれに見合ってしまうほどの傑作となり、間違いなく90年代を代表するアルバムとなった。

 ストーン・ローゼズがネアカ、陽キャの音楽だとすれば、マイブラはネクラ、陰キャの音楽であり、それは彼らのやる音楽がシューゲイザー(靴を見つめる人)であることからもわかるし、それが時代を超えて今でも評価され続ける理由になるというか、若者の共感力に訴えるところなのかもしれない。
 「ラヴレス」にあるのはある種の内向さだ。甘いメロディと甘い囁きを、絶えず後ろで流れ続けるフィードバックノイズとともに聞く人を包み込んで、分厚い壁のように閉じ込めてしまう。しかし聞く人を外界から守ってくれる壁でもある。学校なんて行きたくない、だとか、どうせ誰にも愛されない、だとかそんなことを考えながら、例えば「When You Sleep」を流してみて、真っ暗な部屋のすみでヘッドフォン握りしめてうんうんと唸っているような、ネクラで陰キャな感じなのだ。
 それでも「Soon」などはドラムなどが明らかにストーン・ローゼズのものだし、同じ血が、同じドラッグの快楽の血が流れているのがわかる。

 20世紀のサブカルチャーをドラッグと切り離して考える事は不可能である。ドラッグとはまずクライムであり反体制であり、次に快楽であり、宗教性、神秘性を持ち、アーティストたちの霊感となる。音楽においてドラッグの快楽を再現しリピートできるものに変え、21世紀にまで受け継がれる彼らの功績はすさまじいものだ。何よりも、ドラッグと違って聞き続けても死んでしまうことがない点が素晴らしい。

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