見出し画像

[DX事例73]AIとロボットで創薬の研究スピードを大幅に加速_アステラス製薬株式会社

ITコンサル×パートナーCFOのタナショーです。

このnoteではDX事例やIT活用事例の紹介を通して、経営者の方がITを身近に感じたり面白いと思ってもらえることで、企業の成長に役立つ情報をお届けしていきます。


今回は製薬業界からです。国内の大手製薬メーカーの1社である「アステラス製薬株式会社」のAIとロボットを使ったDXです。


AIとロボットで創薬のプロセスを超効率化! アステラス製薬のDX事例

アステラス製薬は製薬メーカーとなります。製薬メーカーは「創薬」と呼ばれる医薬品の開発を行っていて、創薬には動物実験・治験や承認申請という多くのプロセスが必要となります。1つの創薬を行うために10年以上の開発期間がかかることも普通であり、多大なコストや期間を短縮するための効率化が重視される業界でもあります。
そんな創薬を効率化するために行ったアステラス製薬のDX事例をご紹介します。


①1~2年かかるスクリーニング業務が1~2週間に短縮!「超大規模バーチャルスクリーニング」

スクリーニングとは創薬で初期に実施するプロセスです。病気の原因となる標的分子にうまく適合する化合物を見つける作業をスクリーニングと言います。

アステラス製薬は従来、自社が保有する百万レベルの候補化合物(ライブラリー)を評価し、適合しやすい化合物を見つけるスクリーニングを行ってきました。自社の保有サーバーを使っていましたが、それでも1〜2年程度かかることもあったためAIによる効率化に取り組んでいます。
そんなアステラス製薬はAmazon Web Services(AWS)のクラウド基盤と人工知能(AI)を組み合わせた超大規模バーチャルスクリーニングを開発しました。

アステラス製薬株式会社「アステラス製薬のデジタルトランスフォーメーション」より抜粋

超大規模バーチャルスクリーニングの特徴として、アステラスが保有する百万レベルの候補化合物だけでなく、理論上合成できる化合物も含めて評価することで数億レベルの化合物の評価が可能なことにあります。
さらに計算スピードも高速化されており、1〜2年かかっていたスクリーニングが最短1〜2週間まで短縮されるとのことで、創薬プロセスの大幅短縮に貢献できると報じています。


②ロボットが手作業の創薬研究を高速化「Mahol-A-Ba(まほらば)」

創薬プロセスの効率化としてロボットを使った取り組みもありますのでご紹介します。
京都大学の山中教授により発見されたiPS細胞(多能性幹細胞)ですが、創薬への活用が期待されるとのことで、製薬業界ではiPS細胞の研究が盛んに行われています。
アステラス製薬もiPS細胞の研究を行っていますが、その際には研究者が手ずからの合成作業を行うこともあり、熟練者の操作が必要となっていました。
そこで、アステラス製薬はこのiPS細胞の研究にロボットとAIを導入しました。

アステラス製薬株式会社「アステラス製薬のデジタルトランスフォーメーション」より抜粋

Mahol-A-Ba(まほらば)と称されたこのシステムは、「匠の腕」ロボットと「匠の眼」ロボット、そしてAIで構成されています。
匠の腕ロボットでは、前述の熟練者によるiPS細胞の培養操作等を高精度に再現し、かつ高速に実施します。また、匠の眼ロボットでは、「細胞アッセイ」と呼ばれる細胞の活性や反応を評価・測定する業務を自動で行うことが可能となります。

アステラス製薬はこれらの取り組みにより、細胞培養と細胞アッセイを高速で繰り返すことで従来の作業の100~1000倍規模の大規模実験が可能となったとのことです。


経営戦略とDXの関連性について

アステラス製薬は2022年1月に発表した「アステラス製薬のデジタルトランスフォーメーション」にて、目指すべき目標としてデータに基づく経営(データドリブン経営)を実現するためにDXを推し進めると発表しています。

アステラス製薬株式会社「アステラス製薬のデジタルトランスフォーメーション」より抜粋


製薬業界は、創薬研究から開発販売までバリューチェーン全体で膨大なデータを扱います。このデータを統合的に蓄積し、データドリブン経営を行うことが他社との差別化につながるとして、デジタル技術による改革を推し進めようとしています。

アステラス製薬株式会社「アステラス製薬のデジタルトランスフォーメーション」より抜粋


アステラスはDigital×Dataを組み合わせ、自社が持つナレッジを加え競合優位性を獲得すること。人とデジタルが適材適所で最適な業務を行うことで、DXビジョンでもある「デジタル革新を加速して科学の進歩を患者さんの価値に変える、ワールドクラスのIntelligent Enterpriseとなる」ことを掲げ活動を続けています。


まとめ

いかがでしたでしょうか?
中外製薬の記事でも紹介しましたが、アステラス製薬は創薬という年単位で時間がかかる研究開発プロセスに対して、IT活用で劇的な効率化を行いました。時間がかかる業務を短縮するというITの面目躍如となる事例でしたね。

こういったITによる効率化はすべてをITや機械が代替するのではなく、人が行うべき業務とITが行う業務をどう分担するかを考えることが重要です。人とIT、それぞれが能力を発揮しやすい業務は何かを考え、バランスの良い業務効率化を実現していきましょう♪
タナショー

参考にさせていただいた情報
アステラス製薬株式会社HP
https://www.astellas.com/jp/
アステラス製薬株式会社「アステラス製薬のデジタルトランスフォーメーション」
https://www.astellas.com/system/files/media_briefing_jp_20220121.pdf
アステラス製薬株式会社「経営計画2021」
https://www.astellas.com/system/files/210526_astellas_csp2021_external_jp2.pdf
MONOist「DXを推進するアステラス製薬、「人とデジタルのベストミックス」で差別化図る」
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2201/24/news054.html
ZDNet Japan「データ駆動型経営で膨大な開発コストを削減--アステラス製薬のDX戦略」
https://japan.zdnet.com/article/35182514/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?