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[DX事例92]AIが創薬の合成レシピを解析_塩野義製薬株式会社

ITコンサル×パートナーCFOのタナショーです。

このnoteではDX事例やIT活用事例の紹介を通して、経営者の方がITを身近に感じたり面白いと思ってもらえることで、企業の成長に役立つ情報をお届けしていきます。

今回は製薬業界からです。国内大手の製薬企業である塩野義製薬株式会社の創薬DXです。


AIが化合物の合成レシピを解析! 塩野義製薬のDX事例

塩野義製薬は明治11年に創業しており140年以上の歴史があります。創業当時から新薬開発・創薬メインの創薬型製薬企業となります。
そんな塩野義製薬ですが、創薬プロセスの効率化や新しいビジネスモデルの開発にDX活用を行っていますので紹介していきます。


①見つけ出した化合物のレシピをAIが解析「逆合成解析 AI創薬モジュール」

タナショーのアステラス製薬の記事でも紹介していますが、創薬業界において創薬プロセスの一つである「スクリーニング」はAIが活発に利用されています。病気の原因となる標的分子にうまく適合する化合物を探すプロセスが「スクリーニング」ですが、今回のDX事例はその後のプロセスです。今回のご紹介は「適合する化合物の合成経路を解析するAI(逆合成解析AI)」となります。
合成経路というのは、目的の化合物を作るためにどのような合成をしていけばいいのかという合成ルートやレシピのことを指します。

従来、この合成経路の解析は有識者が行っていましたが「知識と経験に左右され属人的になってしまうこと」「合成可能性の判断及び合成経路の検討に時間を要する」という課題があり、生産性が低い状態でした。

塩野義製薬は株式会社Elixと共同開発を行うことで、この逆合成解析AIの開発を進めており2023年中の正式リリースを目指して活動しています。

ネットdeカガク「逆合成解析の考え方・やり方」より抜粋


目標となる化合物を作り出すためには、材料情報だけでは不十分です。化合物を作り出すために合成を複数回繰り返すことになるため、合成に伴う温度条件や触媒条件なども様々です。そもそも合成ルートの選択肢自体が膨大な数となるため、最適な合成経路を考えることはとても困難です。さらにAIが解析するための十分な量の学習データが不足している状態でした。
塩野義製薬は自社が保有する莫大な化合物データを下敷きに、株式会社Elixが持つ逆合成解析モジュール「Elix SynthesizeTM」と組み合わせることで高精度かつ高速で、創薬研究に向けた実用可能な逆合成解析モデルの検証を開始しています。

現在も逆合成解析モデルはいくつか存在するようですが、現場で利用可能な精度には至っていないようです。塩野義製薬は強豪の数が少なく現場のニーズも高いと見て開発を急いでいるとのことです。


経営戦略とDXの関連性について

塩野義製薬は中期経営計画である「2030年 Visionと新中期経営計画 (21年3月期 - 25年3月期)」にて、医薬品の開発販売だけではなく、ヘルスケア分野における顧客や社会の困りごとを解決する「ヘルスケアサービスのプロバイダー」を目指すことを発表しています。塩野義製薬は Haas(Healthcare as a Service)という名称を使い、新しいサービスによる価値提供を目指します。

塩野義製薬株式会社「統合報告書2021」より抜粋

Haasの事例となりますが、2020年7月には中国市場においてAIを駆使したヘルスケアプラットフォームを持つ「平安PINGAN」グループとの合弁会社も設立しています。
中国平安PINGANが展開する「平安好医生(Good Doctor)」は独自のAI ベースの医療システムを活用し、365日24時間体制でのオンライン診断や処方箋の発行や、医薬品の照会・配送等の幅広いサービスを持つ中国最大のヘルスケアプラットフォームです。

今回「平安好医生(Good Doctor)」プラットフォームに対して、塩野義製薬の製品を提供することから協業はスタートしています。塩野義製薬は今後、平安好医生(Good Doctor)から得られる膨大な診療データや行動パターンであるリアルワールドデータRWDを収集し、AI創薬やヘルスケアソリューションの創出に活用するとのことです。

塩野義製薬株式会社「統合報告書2020」より抜粋

製薬業界は「商品である医薬品の特許期間が切れてしまう」という問題を常に抱えています。主力の商品であったとしても特許期間が切れてしまえばジェネリック医薬品などの競合が発生し、売上が大きく減少してしまいます。この如何ともしがたい問題がある限り製薬業界は持続可能なビジネスモデルがしづらい状態です。

塩野義製薬はこれまでの創薬型製薬企業として培った強みと多様なパートナーの強みを掛け合わせることで、より多くの方の課題を解決し持続可能なビジネスモデルへの転換をしようと活動しています。


まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は創薬という有識者が行っていた業務をAIで効率化した取り組みでした。
記事冒頭でも「スクリーニング」という業務プロセスをAIで改善する事例が増えたと触れました。複数ある業務プロセスの一部を効率化するだけでもIT活用の意義はありますが、やはり一連の業務プロセスを一気通貫で効率化するのが重要です。
ボトルネックが原因で全体の生産性が改善されないように、IT化も一部だけを改善しても効果は低いものです。
自分達が行う業務全体を改善できないか、ITやDXを行うことで業務プロセスが刷新されるような活用方法がないか。ぜひ大きな視点でDX活用を考えていただければと思います♪
タナショー


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参考にさせていただいた情報
塩野義製薬株式会社「2030年 Visionと新中期経営計画 (21年3月期 - 25年3月期)」
https://www.shionogi.com/content/dam/shionogi/jp/investors/ir-library/presentation-materials/fy2020/p200601sts.pdf
株式会社Elix「Elix、実用的な逆合成解析の検証に向け、Elix Synthesize TM(AI創薬モジュール)を用いて塩野義製薬株式会社と共同研究を開始」
https://www.elix-inc.com/jp/news/newsrelease/1438/
日経XTECH「「薬のレシピ」解析で創薬を効率化、AIスタートアップが塩野義と検証へ」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/06644/
ネットdeカガク「逆合成解析の考え方・やり方」
https://netdekagaku.com/retrosynthesis/

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