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これからの避難所に、私たちは何ができるか―「避難所の衛生ストレス」解決プロジェクト開始への想い ―

UCI Lab. 所長 渡辺 隆史

はじめに

まず、先月の熱海での土石流災害ならびに今月に入り現在も続いている台風や記録的大雨で被害に遭われた方に、心よりお見舞い申し上げます。

このnoteでは、2021年7月にYRK& / UCI Lab.と京都工芸繊維大学 櫛研究室の共同研究として開始した「避難所の衛生ストレス解決」プロジェクトの様子を、様々なメンバーの目線と言葉を通じてお伝えしていきます。

「避難所の衛生ストレス解決プロジェクト公式サイト

第1回はUCI Lab.の渡辺から、プロジェクトを立ち上げた背景や全体像、テーマへの想いなどを綴ってみたいと思います。


プロジェクト発足の背景

私たちがこのプロジェクトを開始した背景や目的についてご説明するために、まず次の2つのエピソードをご紹介させてください。どちらも、このプロジェクトの準備として昨年行っていた聞き取りで伺った話です。

東日本大震災の避難所での話
Oさんは、2011年当時南三陸町で中学生でした。登米市での避難所生活は仮設住宅に移るまで3ヶ月続いたそうです。その途中で避難所を引っ越すことがあり、その際ノロウィルスに集団感染。移転先で前日に小さなお子さんが体育館で走り回って嘔吐したのをきちんと処理できていなかったのが原因だろうとのこと。
私にとってその事実以上に衝撃的だったのは、(今回質問されるまで)当時は当たり前でしょうがないと思っていたという彼の発言。避難所という空間が特殊な緊張状態であることが感じられます。 
 九州のコロナ禍での災害支援の現場で
昨年7月の福岡県での豪雨災害で、炊き出し支援〜集いの場づくりを運営されていたIさん。新型コロナウィルス対策で、それまで東北や熊本のボランティアで経験されていた現場とは大きく異なる運営を強いられたそうです。
アルコールでの消毒といったオペレーションだけではなく、避難された方の緊張状態をほぐすサロン的なもの(お茶っこなどと言います)の運営は断念されたとのこと。
炊き出しも共に食事をして交流することに意味があると言いますが、昨年はやむなく、電話予約制で予め人数分パックしたものを取りに来てもらい、帰ってから食べてもらう方法で実施したそうです。

こうした想像しただけで胸がギュッと締め付けられるようなエピソードを聞いて、私たちは、避難所の衛生にまつわる問題をデザインと技術によって解決したいと考え、このプロジェクトを立ち上げました。


「避難所の衛生ストレス」とは

このプロジェクトの準備段階では、OさんとIさんを含めた5名の方にオンラインでインタビューさせていただきました。そのお話と行政や団体等の資料に基づき作成したのが、以下の「避難所での困りごとMAP」です。
このマップでは、インタビューで明らかになった衛生関連の困りごと50個を、個人内と対人間と対環境の3つの領域に分けて、さらに時間経過による変化とともに整理しています。

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こうした困りごとの中から貢献できるエリアを探っていく過程で、私たちは衛生問題が精神衛生に及ぼす影響に注目しました。それは、日常生活では普通にできていた衛生習慣ができなくなる/後回しになる辛さであり、緊急事態にもかかわらず接触を伴う対人支援がままならない、ひと同士で交流ができないといったストレスです。
反対に、これらの問題が解決できた小さな成功体験の記憶は、その後の精神衛生にとてもポジティブな効果がありそうだということもわかってきました。

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私たちはこうした避難所生活や運営における衛生問題に関連した心理的負荷を「衛生ストレス」と名付けて、今回のプロジェクトで取り組むテーマに設定しました。

それどころじゃない。でも、それも大切。

それは、アルコール除菌の徹底やソーシャルディスタンスの確保といった生命の安全を確保するための基本に加えて、避難所でのQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)を少しでも向上させたいという想いから生まれたテーマであり、私たちの役割だと思っています。
避難生活が長期化することも多くある中、避難所にもキモチを整える場所や時間が必要なはず。私たちは誰でも、明日にでも、避難所生活を強いられる可能性があるのです。

プロジェクトの概要

避難所のような状況でも、カラダだけでなくココロにも衛生的な環境をデザインしたい。そのために必要なのは、現場の声や状況を踏まえて、緊急事態できちんと使えるようにデザインすること、安心して機能するエビデンスのある技術を用いることだと思います。

そのため、本プロジェクトは、私が所属するイノベーション・エージェントのUCI Lab.と、デザイン学が専門の京都工芸繊維大学の櫛勝彦教授の研究室の皆さん、さらに避難所などの防災の現場に詳しい宮本裕子さんなどによる「ひとごこちデザインラボ」を結成。さらに技術面でのサポートにパナソニック様に参加いただいて行います。

図3

既にプロジェクトは、先月7月6日にキックオフミーティングを行いスタートしています。
その後、本来であれば8月上旬に東北などの被災地でのフィールドワークを行う予定でしたが、第5波の感染拡大に伴い、オンラインでの聞き取りなどを8月中に実施する予定です。


このプロジェクトを立ち上げるきっかけになった状況に今もなお翻弄されているわけですが、だからこそ、今できるやり方で柔軟にプロジェクトを進めて、できるだけ早く現場できちんと役に立つ何かを、当事者の皆さんと共に創っていきたいと思います。

図4

よりひらかれた共創デザインに向けて

プロジェクトでは、フィールドワークなど様々な方に現場での経験やアドバイスをお伺いしながら進めます。
それとともに、試行錯誤のデザイン過程自体を公開して、より多くの皆さんと対話的に進めたいと思っています。今後のプロセスで、何かしらの参加をお願いすることが出てくるかもしれません。
まだスタートしたばかりですが、現場から離れず丁寧に取り組んでいきたいと思いますので、是非あたたかい応援をよろしくお願いいたします。

京都工芸繊維大学 櫛先生による「避難所の問題解決とデザインの関わり」についてはこちら

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