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非常時と向き合うデザイン

京都工芸繊維大学 デザイン・建築学系 教授 櫛 勝彦

このnoteでは、2021年7月にYRK& / UCI Lab.と京都工芸繊維大学 櫛研究室の共同研究として開始した「避難所の衛生ストレス解決」プロジェクトの様子を、様々なメンバーの目線と言葉を通じてお伝えしていきます。第2回は、櫛先生に避難所の問題解決というテーマが「デザイン」とどのような関わりがあるのかについて執筆いただきました。

「避難所の衛生ストレス解決プロジェクト公式サイト

一般的な「デザイン」の役割

我々の身の回りには、様々なサービスや製品が、時代の技術により存在し、生活ニーズに応えながら、安全で、快適な生活を支えてくれています。
一般的な話として、デザインは、そういったモノ・サービスの機能・技術を生活者が使えるように、ヒトの身体や認知の特性に近づける役割を持ち、例えば、カラダに合ったサイズやカタチにする、分かりやすい情報として視覚化する、はたまた企業理念をブランドとして伝達するなど、つまり、技術や思想を、見てさわれるようにすることで、ヒトが使える・扱える「インタフェース」として創造し、提供する仕事です。

捉え難くなった現実や状況から、いかに問題を取り出すか

ただ一方、一定の安定が保証され、社会が成熟するなかで、生活のニーズ自体が意識されにくい状況が「今」と言えます。

あらゆるものごとが、言葉として定義され、概念として共有されています。社会通念、常識、あるいは行動様式といったステレオタイプ化された認識の下では、言葉にならない違和感、ストレスを、我々は自覚することがなかなか難しい、といったことが近年の状況なのではないでしょうか。
こういった傾向は、SNSがコミュニケーション・メディアのマジョリティとなるネット社会のおいて、さらに尖鋭化されようとしています。

そういった現代の生活の中で、生活者個人とそのコミュニティに関わる、捉えにくい現実を、生活問題、社会問題として認識し、その解決を可能とする技術開発を促し、そして、有効なモノ・サービスとして実体化していかなければならないと考えます。

先に、デザインの仕事は、「見えるさわれるインタフェース」の創造にあると言いましたが、その見える化・さわれる化のためのスキルは、潜在ニーズの発見と定義にも同様に応用できます。むしろ、これからは、問題の発見自体にデザインの大きな役割があると考えます。別の言い方をすれば、状況のリ・フレーミングが最初の目的と言えます。

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プレ・プロジェクト 2021.01.13「共創デザインアプローチ」より一部抜粋

「衛生ストレス」問題としての解決

避難所での生活は、日常とは異なる過酷な状況にならざるを得ないものです。つまり、生きていく上での様々な問題が一見顕在化している現場とも言えます。
ゆえに、我々はそこでの物理的に欠けた部分を埋め合わせる努力をします。例えば、危険の除去、栄養の確保、衛生の維持を成し遂げる努力です。
それは、非常時における間違いないファーストプライオリティですが、このプロジェクトでは、さらに一歩進めて、避難生活者本人がその場では、明確に意識できないストレスの問題にまで踏み込みたいと考えています。

我慢しなければならない、目を伏せなければならない、といった非常時における強い心理的抑制によって、様々なストレスを、おそらく自ら無視し、他者からも見過ごされてしまう状況があるのではないでしょうか。

ストレスは心の問題ですので、避難生活経験者や支援者の記憶の物語を、当事者の皆さんと共に、辿るプロセスが必要と考えています。これまでパイロット的に大学授業として東日本大震災での避難生活者、九州熊本での洪水被害の支援者などに、オンラインでのインタビューを実施し、ニュースなどでは知り得なかった多くのストレスの存在を感じることができました。
そして、実は、現場において、それらストレスが心の奥底に負の記憶として堆積されるだけでなく、時には、自らの工夫で乗り越えたというポジティブな物語として記憶されることもある、ことがわかりました。

このプロジェクトでは、さらに深く、より多くの人たちの物語を収集し、衛生問題の具体的解決を、「衛生ストレス」問題の解決に昇華させるようなことを目指したいと考えています。

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2021.07.06 「避難所の衛生ストレス」解決プロジェクト キックオフミーティング風景

UCI Lab. 所長 渡辺 隆史氏による「これからの避難所に、私たちは何ができるか」はこちら

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