ショートストーリー>『時計仕掛けの箱庭』
ある日アリスは、街の外れに古い雑貨屋を見つけました。
カチコチ、と、時計の音が響き、沢山の雑貨がひしめき合うように置いてあります。小さな店内はまるで宝箱のようでした。
(こんな素敵なお店があったなんて…)
アリスは心躍らせながら一つ一つの雑貨を眺めていると、小さな箱庭を見つけました。そのとても美しい箱庭に、アリスは一目で虜になってしまいました。
ゆっくりとその箱を手にして、ふーっと優しく息を吐き埃を払うと、小さな家々を覗きました。なんと家々の中にも、きちんと細かい装飾がされてあるのです。キッチンを見ていた時、ポーンポーンと小さく、時計の音が聞こえました。箱の壁に、小さな時計が掛けられていて、その時計が鳴ったのです。
するとどういうことでしょう。
街だった家々の風景が、海辺の風景へと変化したのです。
その美しさといったらありませんでした。
「お婆さん、この箱庭はおいくらですか?」
アリスがそう尋ねると、
「それはガラクタだから持って帰っていいよ。」
と言われました。不思議に思ったアリスはそんなはずがないことを何度も言ってお金を払おうとしましたが、お婆さんはいらないの一点張り。仕方なくお婆さんの言う通り、そのまま持って帰ることにしました。
☆☆☆
それから一週間経った頃、アリスがいつものように学校から帰り箱庭を覗くと、なんと、新しいエレメンツが増えていることに気が付きました。時計が鳴ると、家々から人が現れるのです。
アリスは驚きました。
けれど見ている内に、人達にもきちんと感情があって、笑ったり怒ったり泣いたりしながら暮らしていることに気づいたのです。
アリスはふと、プレゼントを送ろう!と思いつきました。
(きっと喜んでくれるわ。そうだ、手紙を書こうかしら。)
こんにちは
私はアリスと言います。
いつも皆さんには癒されています。
皆さんは、なにか欲しいものはありますか?もしもあったら差し上げたいと思うのですが。例えば、私が今欲しいものはおばあちゃんが作ってくれたバタークッキーです。
小さく小さくそう書くと、アリスは青い屋根の家の前へ置きました。
そして、眠くなって、そのまま机にうつ伏せて眠ってしまいました。
☆☆☆
「アリス―!」
母の呼ぶ声で目が覚めると、アリスは目を擦りながらキッチンへと向かいました。
「あら、寝てたのアリス。さっきね、おばあちゃんから荷物が届いたのよ。クッキー。バタークッキーよ。あなた、食べたいって言ってたわよね。良かったわね。」
「え…。本当!?わあ嬉しいわ!食べたいって思ってたの!」
さくさくとクッキーを頬張りながら、アリスは思いました。
もしかして、箱庭の人が願いを叶えてくれたんじゃないかしら。
……………まさかね。
そうしてアリスは今度、
みなさんこんにちは。
みなさんは、叶えたい夢はありますか?
私は、今度学校で絵のコンクールがあるんだけど、一番良い賞をもらえたら素敵だな、って思ってるの。もし返事ができるなら…欲しいと思います。
という手紙を置きました。
箱庭の住人はしっかり受け取っているようで、次の日には手紙は消えていました。
そして、アリスは絵画のコンクールで、最優秀賞をとりました。
(凄い!! 本当に、箱庭の人たちは願いを叶えてくれるんだわ!!)
アリスは感動して、それから何度も手紙を送りました。
けれど、返事が来ることは一度もありませんでしたし、アリスが覗いていることに気づく様子もありませんでした。ただただ、願いだけが叶うのです。
☆☆☆
ー3ヶ月後ー
「アリス、君ってほんとうに凄いよ!スーパーウーマンだね!学年でなんでもトップとっちゃうし、すごい人気者になっちゃって!一体どんな勉強のしかたしてるのか、僕にも教えてほし…」
「ジョン!」
「どうしたんだい?アリス、急に大声上げて…。」
「………私ね………。」
アリスは全ての事の経緯を親友のジョンに話しました。
雑貨屋で見つけた、時計仕掛けの箱庭の事、どんどん人が増えていったこと、願いを書いた手紙を入れると、それが必ず叶うこと……。
そして、
「最近ね、夢を見たの。とても怖い夢よ。夢の中で私、箱庭の中に迷い込んでしまったんだ。でも、そこはもう昔の箱庭じゃなくて…。」
「どういうことだ?」
「夢の中で見た箱庭は荒廃していて、住人たちはみんな死んでいた。時計の針は逆回りしていて、不気味な音が響いていたんだ。」
「でも、それってただの夢だろ?」
「目を覚ましたとき、実際に箱庭が荒れ果てていて、中からは血のような赤い液体が漏れていたの。そして、住人たちは箱庭の中でまるで幽霊のように現れては消えていくんだ。」
「まさか! おい、それって冗談じゃないよね?君がそんな夢を見たからって、現実で本当に箱庭が…。」
アリスは不安げな笑みを浮かべながら言いました。
「箱庭は私の願いを叶えた代わりに、何かを要求してきたみたい。彼らが幸せになれば、私には幸せが訪れる。でも、それがどれだけの代償を伴うのか…!」
「そんなこと…。」
「箱庭は私の中に何かを植えつけてしまったんだ。これから先、どんな結末が待っているのか…分からない。」
アリスは震えながらそう言うと、両手で顔を覆い泣き始めてしまいました。
ジョンはごくりと唾を飲み込んでからつぶやきました。
「それは…君にとって、永遠の悪夢かもしれないね。」
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