見出し画像

『書く仕事がしたい』から考える、フリーランスの働き方。

ライター、ナレーター、アーティスト…表現する仕事は全般的に、その本質が見えにくい傾向にある。どの案件でいくらもらえるのか、どうやって仕事を受注するのか、家庭との両立は出来るのか。そんなミステリアスなベールを1枚剥がしてくれる本が、2021年10月に出版された『書く仕事がしたい』だった。

「仕事の取り方から、お金の話まで、すべてシェアします」と帯に書かれている通り、ライター・佐藤友美さんが今まで培われた超具体的な実践ノウハウがびっちり詰まった一冊。そんな本を読み進めると、意外なことに佐藤さんの仕事の進め方や営業手法が、かなりナレーターと共通することに気づいた。

今回は書籍『書く仕事がしたい』を土台に据えながら、フリーのライターでありシングルマザーである著者の佐藤友美さんに、母として、フリーランスとしての働き方を伺った。

佐藤友美(さとう・ゆみ)/ライター・コラムニスト。日本初のヘアライターとして、ベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)をはじめ、数々の著作を上梓。美容業界や一般読者から人気の存在として、テレビやラジオにも多数出演している。「生まれてはじめて1冊読み切った」と読者から感想が続々届く「わかりやすい文章」を書くライターとして知られる。


佐藤友美さんのプロフィールを教えてください

新卒の頃はテレビの制作会社でADとして働いていました。台本やパンフレット等書く仕事をしたいと思って入ったんですが、残念ながら私の実力不足であまり上手くできなくて。3年目に「今からちゃんともう1回書く仕事を目指そう」と思って、制作会社を辞めてフリーランスのライターになりました。

小説家になろう、と思ったことは一回もありません。小説家は才能が必要で、小説とライターって全然別の職業かなって子どもの頃から思っていたので。お友達の小説家の方はすごく素敵だし、憧れるんですけど、やっぱりそこは全然違う才能かなと思います。

ADを辞めてフリーランスになってからは、知り合いの編集者さんや紹介していただいた方をたどって、まずファッション誌のライターになりました。そこで一番興味を持てたのが髪の毛、ヘアだったんです。すごく楽しくて。

ヘアページは雑誌の中で数少ない、素人さんが来るページなんです。プロのモデルではなく、いわゆる読者モデルさんが来てくださって、髪を切ったり、カラーをしたりする。読者が変身する一番わかりやすいページだったんですよね。なので、そこで読者さんと絡むのが楽しかったし、大胆に変身させる美容師さんのお仕事が面白いなって思ったので、1年経ったくらいから「ヘア以外のお仕事は受けません!」って周りに言って、名刺にも「ヘアライター」って書きました。

それは強みや得意というより、色々なお仕事をやらせていただいた中で「髪の毛や美容師さんが好きだな、テンション上がるな」って思ったから仕事を絞らせてもらった。ヘアだけで約5年経験を積んでから、自分の専門分野って言えるようになったかな。

今はコラムや連載を3割くらい、単発の仕事を7割くらいの比率で、ライター・コラムニスト・エッセイストとして活動しています。

ヘアライターとして、撮影現場で
テレビにて著書『髪のこと、これで、ぜんぶ。』 『女の運命は髪で変わる』紹介&出演時


フリーランスで働く素晴らしさ、気にしていること

「収入の不安定さ(一定しないこと)」と「自由」をバーターして、「自由」が勝つ人は、フリーに向いていると思う。

『書く仕事がしたい』p73より引用


私がフリーランスでいて楽だと思うのは、人間関係を長いスパンで考えなくていいこと。会社員だったら苦手な上司が職場にいてもなかなか居場所は変えられない。だけどフリーランスって、良くも悪くも1本ずつプロジェクトでアサインされるので、お互い気に入らなかったら二度と会わなくて済む。だから逆に言うと「アウトプットを良くするためにとことん話し合いましょう」ってこともすごくやりやすくて。

人間関係がアップデートされても良い、っていうところが私はすっごく気が楽です。色々なところでミスをしたり喧嘩をしたり、って意味じゃないんですが、細かいことでくよくよする人間なので。「この人どう思ったかな」っていうのを気にする暇がないくらいの勢いでいろんな人と日々どんどん向き合わなきゃいけない。それがフリーランスで一番自分に向いているなって思うところです。気持ちが切り替えられる。

収入に関して言うと、フリーランスは頑張れば頑張るほど稼げるのが良いと思っています。それに、取引先が多いということは、一社に依存しないということでもありますよね。むしろ今は会社員よりもリスク低いのではないかと思っています。フリーなら定年もないですし。フリーランスなら、収入のリスクヘッジができる。

唯一心配な面を言うなら、やっぱり病気かな。倒れてしまうと仕事ができなくなるので、しょっちゅう人間ドックを受けるようにしていて、しょっちゅう引っかかるんでけど(笑)。私は体が弱いので、あんまり仕事を詰め込みすぎないようにしてるし、遊ぶようにしてるし、ストレス溜めないように気をつけている。部屋の掃除は苦手なんですけど、いつ倒れてもいつでも引き継げるように仕事の資料の整理は物凄く綺麗に整頓してます。

中国での講演会の様子


子どもを持った母親として

現在私はシングルマザーで、小学4年生の息子がいます。都内に住んでいて、小学校に入る前は保育園、小学校に入ってからは学童保育に子どもを預け、その保育時間を超えるときには実家の母やシッターさんに頼んで仕事をしてきました。

『書く仕事がしたい』p83・84より引用


子どもがいることが、仕事においてディスアドバンデージにはならないと思っています。自分自身も、表現できる感情が増えたとも感じます。私はあまり詳しくないですが、ナレーターさんや声優さんのお仕事でも、表現が豊かな方とそうじゃない方がいるのかしら?と思うんですけども。それって子育てに限らず、嬉しいことも悲しいことも腹立つこともいっぱい経験していることで豊かな表現に繋がるのかなって思うから。もちろん、経験をしていなければ表現できないとは思いませんが、いろんな経験をすることで、想像力が増すんじゃないかな。

個人的な見解ですが、子育てに関するネガティブな情報ばかりがニュースになっている気がしていて。それってレアだからニュースになってるところもあると思うんですよ。「子育てがつらい、大変」っていう声をよく耳にするのは、それを発する人たちの声が大きく聞こえる部分もあるかなと思っています。

私自身が大変だったのは、出産してから2年ぐらいは頻繁にミルクをあげなきゃいけないので睡眠をしっかり取るのが難しくなったこと。あとは、赤ちゃんを抱っこするのでピンヒールが履けなくなくなったりもしました。でもそれも2〜3年の間くらい。子どもが生まれたらできなくなると思っていたことで、本当にできなくなったことは少なかったなと感じます。

当の親たちは子どもを産んで、もちろん大変なことはあるけど、幸せや楽しさを感じている人が多いと思うんです。でもそういう気持ちをわざわざブログで書いたりエッセイで書いたりする人がいないから、子育てを楽しむ人の声って中々届かない。私はできれば子育ての楽しいところをエッセイですくいあげたいと思って「ママはキミと一緒にオトナになる」を書かせてもらっています。

これから子どもが欲しい人が世の中のネガティブな情報だけに振り回されないといいなって思います。

お金は健康であってその気になれば、いつでも、どんな手段でも稼げると思います。だけど、子どもを産むのにはある程度のリミットがありますよね。だから、いずれ子どもが欲しいという人は、復帰して楽しく働いている人の話も聞いてみたらいいんじゃないかなと感じます。

テレビ出演時、息子さんとの1枚


子育てと仕事のバランス感

稼いだお金が、ざくざくシッター代に消えていく話をすると、「え?何のために働いているの?」と言われることもあります。でもそう言われるたびに、「プラマイゼロで実入りゼロ」なことと、「働かないので収入ゼロ」は全然意味が違うと思っていました。

『書く仕事がしたい』p84より引用


これは個人差があると思うし、人それぞれのタイミングがあると思うのですけれど、私の場合は産後2ヶ月ぐらいから週3日くらいのペースでライター復帰。子育て1年目は、仕事6、子育て4とか。7:3くらいの比率だったかな。

保育園に預けるまでは、例えばシッターさんに午後1時から夜8時まで来てもらって、その時間は仕事だけする、みたいなこともありました。プラマイゼロじゃない?と言われることもあったけれど、シッターさんの時給よりも自分の時給の方が高ければプラスになると考えて。とくにレギュラーの仕事はお休みしないように調整しました。

でもベビーカー押しながら公園に行って書く、3〜4時間子どもが昼寝中に書く、みたいなこともよくあって。必ずしも毎日シッターさんがいたわけじゃなかったかな。

私は仕事とプライベートの境目がなくて、ズブズブなんですよ。シームレス。はっきりと仕事を区切ることはそこまで無くって。今は子どもの夏休み中ですが、書いてる途中で子どもから「一緒にテニスゲームしようぜ」とか言われると、15分間だけ一緒に汗だくになってやって、シャワーを浴びてまた書く。子どもと旅行に行ったらそれを原稿に書いてお金をもらったりしている。プライベートが仕事に生きることもあるし、仕事場で会った先生に教わったことをプライベートで試してみたらうまくいった、とか。やっぱりズブズブなんです。

これは、職場復帰したママたちが口をそろえて言うことなんだけど、24時間、言葉が通じない赤ん坊の相手をするよりも、8時間なり5時間なり会社に行く方がもう全然、全っ然、楽。これは、100人中100人言いますね。働いている母親は、子育てに専念している母親をどれだけ尊敬しているか!そういうことも、生んだ後に初めてわかりました。

仕事を頑張っている人ほど、子育ての方が仕事以上に楽しいっていう方は多いし、私もそうです。もちろんライターの仕事はとても楽しいけど、子育てプロジェクトはもっと面白いかも。思い通りにならないところがイイのかな。1人の生物と共に成長していくっていう時間ってなかなかないし、この歳になって自分の価値観がガラッと変わることってほとんどないんですよね。でも子どもといると、固定観念がガラガラと崩れていく。

子どもが欲しくない人に「子どもはいいよ」と押し付けるつもりは全くありません。でももし子どもが欲しいけれど、キャリアのことで生むタイミングに悩んでいる人がいたら、わりと何とかなるよってことを伝えたいです。

24時間言葉が通じない赤子と過ごすことよりハードな仕事はあまりないと思う。週に1〜2日、言葉が通じる大人と会話するだけでも精神状態はだいぶ安定しました。

『書く仕事がしたい』p298より引用


レギュラー案件を決める営業ノウハウ

いまでも毎月のように持ち込みしていますし、これまで私がライティングした書籍61冊のうち、29冊は持ち込み企画です。いま連載しているコラムも、7本中3本は自分から提案しにいったものです。

『書く仕事がしたい』p11より引用


私は売り込みをすごくたくさんしてます。今まで61冊のライターをしてきましたが、その内の29冊は持ち込み企画です。

売れてる人がさらにどんどん売れていく理由って、現場で次の仕事の種を置いてきているんじゃないかと思うんですよね。だから売れるんだと思う。私もそれを意識しています。

次の仕事を置いてくるっていうのは、企画立案ほど大げさではないことが多いです。「先日すごく面白い人と会って本になりそうなんだけど、もし興味あったらご連絡ください」「美容師さんたちに取材したら、次に流行るカラーは〇〇らしいですよ」みたいな、エレベータートークくらいの軽さ。でもそれきっかけで次の仕事に繋がるケースが結構あります。自分がこれをレギュラーにしていきたいと思った現場では、意図的に次につながるようなネタを置いていきます。

自分の中で企画やアイデアが生まれたら、どんな出版社や編集部が通りやすいかを考えて持っていく。ふわっとおしゃべりして実らなかったことは山ほどあるけど、企画書にして持っていった書籍で通らなかったのは2冊だけ。で、これまでに29冊が出版されてます。

企画書はただのたたき台なので、その内容にこだわりすぎるのではなく、「どうしたら会議に通せますかね」っていう話し方をするかな。書籍って絶対企画書通りにはならないものなんです。あくまでたたき台として「こんなことを考えてるんですけど、これって御社でどんな感じだったら企画会議に通ったりご興味を持ってもらったりします?そもそもご興味ありますか?」という聞き方をします。「無い」と言われたらその場で別の企画にするし。「興味がある」と言われたら、編集さんの方向性を聞いて、臨機応変に変える。だから事前に切り口を3つくらい持っておいて、いくつか提示するやり方をしてますね。

もし、運とご縁の神様がいるとしたら、その神様が現れるのを待っているのではなく、その神様に毎日アピールしまくって、目の前を何度も通ってもらう。何度も通ってもらえば、前髪をつかむチャンスだって増える。それが、私の物書き人生です。

『書く仕事がしたい』p11より引用


パラレルキャリア研究所代表の慶野英里名さんと「書く仕事」についてのトークイベントにて


健やかにフリーランスとして働くために

睡眠は大事。それから自分が元気になる特効薬をいくつか持っておくといいのと、自分が元気じゃないときにどういう状態になるかも知っておくといいですね。例えば私はメンタルの調子が悪いと、ものすごい眠くなるんですよ。14時間睡眠とかになっちゃう。そういうときって本当に疲れているんですが、その時の私の中での処方箋があります。朝7時の段階で家を出ちゃって、友達のライターさんを誘ってコワーキングスペースで書く。お喋りするわけじゃないんだけど、隣に友達がいる状態で書いて、ランチのときだけちょっと喋る。あとは今すごく活躍している人と一緒にご飯を食べて、自分の話をせずに相手の話をいっぱい聞いて元気になるとか。

自分がどういうことで浮上するか、処方箋をいくつか持っておくといいかな。人によっては次の仕事を詰め込むのが処方箋になる人、ゆっくり休んで山や海に行ったら元気になる人、とか色々な浮上の仕方がある。私は内省的なタイプじゃなくて、外から刺激を受けて元気になるタイプなので、基本的には人に会いに行く。早めに自分の取扱説明書を持つことが、フリーランスは良いと思います。処方箋は1つじゃなくて、2〜3つあるといいかも。1時間コース、3時間コース、1日コースとか。

あと私は、懇意にしている占い師さんが2人いる。占いをしてもらうというより、友達に相談する感覚で話を聞いてもらうのがメイン。1時間の時間を買わせてもらって、全部吐き出す感覚かな。年に3〜4回くらいだと思う。子どもと喧嘩しちゃったんですよ、とかをカッコつけずに喋れるのが有難いんですよね。友達に対しては、どちらかというとたくさん聞いたり教えてもらったりすることが多いから。

やっぱりメンタルが一番大事。身体、メンタル、仕事はその次。全体的に健康じゃないと意味がないから。どんなに好きな仕事だって、自分が幸せになるためにしているんだからね。

良く書こうと思えば思うほど、私は、私の生きている世界を、好きになります。
私が、この仕事が好きな理由はここにあります。
Love the life you live, Live the life you love.

『書く仕事がしたい』p325より引用

(左から)著者・佐藤友美さん、担当編集者・りり子さんこと田中里枝さん



今回の記事では佐藤友美さんのフリーランスとして、母親としての働き方や考えを伺った。著書『書く仕事がしたい』では、より具体的なタイムスケジュールや取引先との付き合い方、もちろんより伝わりやすい「書く」ためのテクニックも網羅されている。

日常的に言葉に関わる方、フリーランスで表現の仕事をする方、本を読むのが好きな方。そんな方には特に「刺さる」一冊だと思う。ぜひ多くの方に読んでいただき、課題解決の糸口や不安を軽減する一助としてほしい。


これからも「HITOCOE」ではナレーターに特化した上質な記事を連載予定です。
今回の記事を気に入っていただけたら、スキやフォロー、サポート(投げ銭)を頂けると幸いです。いただいたサポートは、今後の活動費として役立たせていただきます!


ライター/コラムニスト・佐藤友美

テレビ制作会社勤務を経て、ライターに転向。日本初のヘアライターとして、ベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)をはじめ、数々の著作を上梓。美容業界や一般読者から人気の存在として、テレビやラジオにも多数出演している。ビジネス書、実用書、自己啓発書などの執筆・構成を手掛ける書籍ライターとしても活躍の場を広げ、約50冊の書籍の執筆に関わっている。

近年はコラムニスト/エッセイストとして、『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館「kufura」)、『ドラマな日常、日常にドラマ』(東洋経済オンライン)、『本という贅沢。』(朝日新聞社「telling,」)、『さとゆみの「ドラマな女たち」ヘア&メイクcheck』(講談社「mimollet」)、『大人のヘア問題、白黒つけます』(扶桑社「ESSE online」)、『50歳を迎え討つ』(大和書房)などの連載を持つ。

○公式ホームページ:佐藤友美(さとゆみ)オフィシャルサイト
○Twitterアカウント:@SATOYUMI_0225
○note:ライター佐藤友美(さとゆみ)

ライター・日良方かな(ひらかた・かな)

都内FMラジオ局&Voicy「毎日新聞ニュース」パーソナリティー。ナレーターとして自宅に「だんぼっち」改造の録音ブースを完備し宅録にも対応。だんぼっち組立の様子をブログにしたところGoogle検索「だんぼっち 照明」で1位を連続獲得。「ハンドメイド」に特化したポッドキャストを毎月配信中。

○ホームページ:「宅録ナレーター 日良方かな」
○Twitter:@hirakata_kana
○ポッドキャスト:「日良方かなのハンドメイド工房」


いいなと思ったら応援しよう!