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未発売映画劇場「サント対ドラキュラ&狼男」

サント映画完全チェック第39弾。今回はメキシコで1973年7月に公開された「Santo y Blue Demon contra Drácula y el hombre lobo」 英題は「Santo and Blue Demon vs. Dracula and the Wolf Man」

タイトルからもわかるように、前回に引き続いてサントは盟友ブルー・デモンとのコンビ、対するのはドラキュラ&狼男のコンビ。おお、豪華なタッグマッチではないですか。

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という具合に盛り上がりそうなところですが、残念ながら、いささか新鮮味に欠ける感じ。

ブルー・デモンとのコンビは2作連続とあって、最初のころのようなプレミア感はもう感じられません。

ドラキュラとは「サント対ドラキュラの秘宝」で対決済みだし、類似品の吸血鬼が登場する「サント対女吸血鬼軍団」「サント対ブラコラ男爵」「サント対女吸血鬼の復讐」さらには「サント対モンスター軍団」まで含めると、もはや手垢まみれとはいわないまでも、新鮮さがないのはやむを得ません。ついでにいうなら狼男も、「モンスター軍団」に出ていたし。

というわけで、例によって鑑賞前の期待値はけっして高くなかったのですが、その「期待」を裏切らないのはさすがにサント映画。タイトルから想像できるストーリーを、1ミリたりとも上回らない出来ばえでした。

悪の首領の手によって復活したドラキュラと狼男だが、首領の思惑とは別に世界征服を企てる。その邪魔になるのはスーパーヒーローのサントとブルー・デモン。そこでドラキュラの犠牲となった人々を部下にして、ふたりに戦いを挑んでくるのだが……

見るからに平々凡々なストーリーでしょ。話は盛り上がらないまま予想通りの展開で進み、容易に想像がつく結末を迎えます。

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という具合に書くと、ショボい映画としか思えないでしょうが、じつはそうでもなくて、あんがい見せます(サント映画にしては

ストーリーの根本は平凡でも、細部にところどころ凝った部分があって、あんがい持ちこたえるのです。

たとえば、悪の首領によるドラキュラ復活の儀式。いや、石棺の中でボロボロになっているドラキュラの骨に生き血をかけると復活するという理屈にオリジナリティはないんですが、そのやり方がなかなか見せます。

縛り上げた犠牲者を棺の上で逆さ吊りにすると、そこで首の血管を切り裂くのです。そこでぽたぽたと滴る血が骨に……ちょっと他ではあんまり見ないほどダイナミックですね。なんで逆さ吊りにするのかはわかりませんが。

いやいや、首の血管を切ったらそんな程度の量の出血じゃすまないだろうとは思いますが、そんなことは気にしないで(犠牲者の死体は滴るどころじゃない出血で血まみれなんですが)

ちなみに、犠牲者を逆さ吊りにするところまで丹念に描くのも、なかなか見ない光景。フツーはカットするでしょう。でも全部描かないと気がすまないのか、太り気味の悪の首領がフーフー荒い息をつきながら一人で力仕事に励みます。なんか観ていて「ご苦労さま」と声をかけたくなりました。

ドラキュラを演じるのはアルド・モンティ(Aldo Monti) 覚えてますよね、「サント対ドラキュラの秘宝」でもドラキュラ伯爵を演じていた、あの人ですよ(私は覚えていなかった) まずまずちゃんとドラキュラ伯爵に見えます。

狼男のほうを演じるのはアグスティン・マルティネス・ソラレス(Agustín Martínez Solares)という俳優。「サント対アトランティス団」にも出ていたようですが、覚えてないや。

ドラキュラは昼間は外に出られないので、外出して荒事をこなすのは、昼間は人間形態の狼男くんがほとんど。このへんは妙にキチンとしてますね。毛むくじゃらの狼男モードのときとは対照的に、素顔(?)は意外と二枚目です。

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さて、サント映画の見せどころである試合シーンはというと、今回は3カ所、いずれもかなり唐突に本編中に挿入されます。ストーリー的には、べつになくてもいいじゃないかと思うくらいですが、そんなわけにはいかないですからね。

映画が始まるといきなりサントがリングに登場。相手は白覆面のレスラーなので、一瞬どちらがサントなのか戸惑いますが、サントはロングタイツ、相手はショートタイツです。

この対戦相手はアンヘル・ブランコ(白い天使)という名レスラー。ドクトル・ワグナーとの白覆面コンビで売り出し、藤波辰爾のタイトルに挑戦したこともあり、新日本プロレスに来日経験もあります。ブランコ自身は1986年に交通事故で死亡しましたが、息子たちがレスラーとして活躍しています。

じつはこの映画が公開された1973年の前年に覆面剥ぎ戦(マスカラ・コントラ・マスカラ)に敗れてリング上では素顔になっていたはず(来日時も素顔だった)ですが、映画は別なのか、それとも素顔になる以前に撮影していたのかな。

もちろん、ブルー・デモンのほうの試合も用意されています。これまた唐突に本編中に挿入されますが、毎度のようにきっちり三本勝負。まあ当時のメキシコマットでは三本勝負がポピュラーだったのだろうから(このころは日本でも同じ)たとえ映画の中でもちゃんとそれを再現しなければというのはいいんですが、あれれ、ブルー・デモンの二本連取のストレート勝ちじゃないか。サントの試合でもちゃんとタイスコアから三本目まで描くのに、なんでここでストレート勝ち? プロレス的には完全に虚を突かれてビックリしましたぞ。

そのせいで、なんかひどく弱く見えてしまった対戦相手は、レナト・エル・ヒッピー(Renato el Hippie)覆面ではなく素顔、長髪なのがギミックということか。この時代だと、髪が長いだけでけっこうヒッピー色を出せたってことかな。敗者髪切りマッチ(カベジュラ・コントラ・カベジュラ)の名手だったらしく、1960年代にはエル・ヴィンキンゴ(バイキング)とのタッグチーム「ヒッピーズ」で人気があった、なかなかの実力者なのです。もうちょっとちゃんと扱おうぜ。

で、事件がすべて解決したあと、これまた唐突にタッグマッチが挙行されます。サント、ブルー・デモン組VSアンヘル・ブランコ、レナト・エル・ヒッピー組。安易なようで何気に豪華なカードです。まとめて撮影したんだろうけど。

というように、それなりにしっかりしたカードで、試合内容も悪くはないのですが、いかにも残念なことに、どの試合も、その撮り方がまったくダメ。

これまでのサント映画では、試合のシーンはほとんどがアリーナでの撮影でした。アレナ・メヒコなどの大会場にちゃんと観客が入っていて、熱狂の歓声とコールの中でのファイト。エキストラなのか、リアルな観客なのかはわかりませんが、ちゃんと会場の熱気を再現していました。

以前に書いたように、これが1970年代になると、テレビスタジオでのスタジオマッチになります。アナウンサーによる実況が入ったりするので、当時のメキシコではテレビのプロレス中継がポピュラーになっていったのでしょう。とはいえ、スタジオにはちゃんと観客が入れられていて、熱狂する観客の顔とナマの歓声が試合ムードを作っていました。

ところが今回の3試合、いずれも観客なし。スタジオにリングだけが組まれているらしく、観客の姿はいっさい無いのです。これではさすがに寂しいと思ったのか、別に録音されたらしい歓声がかぶせられていますが、なんか寒々しい。リングの背景がホライゾンだけなせいもあって、試合そのものはリアルなファイトなのに、なんか作り物めいて見えるんですよね。

せっかくの豪華カードが、これではもったいないでしょう。このへんでアリーナ借りたりエキストラ雇ったりの予算が取れなくなっていたのでしょうか。

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1970年代の作品に入ってから、サント映画に限らず、ルチャムービーそのものが斜陽産業になっていた兆しは感じられるのですが、なんかそれがハッキリ見えてきた作品になってしまったようですね。

さあ、今後巻き返しがあるのか? 次作に期待しましょう(笑)

【前回】サント対無法の群れ       【次回】サント対黒魔術

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