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未発売映画劇場「サント対アトランティス団」

サント映画完全チェック、前回から1970年代に突入して、迎える第23弾は1970年の「Santo contra Blue Demon en la Atlántida」 「サント対ブルー・デモン アトランティスの対決」みたいな感じかな。

ちなみにメキシコ・プロレス界にはアトランティスという有名レスラーもいますが、もちろんそれじゃないから。「大陸王子」ことアトランティスのデビューは1983年だから、ちょうどサントと入れ替わる形。たぶんリング上で対峙したことはないはずです。その後に日本やアメリカでも活躍してスペル・エストレージャ(スーパースター)となり、現在も健在です。

さて、今回も前回の「サント対モンスター軍団」に引き続き、リングのライバルであり、パートナーであり、盟友でもあったブルー・デモンとの共演作です。

この1970年という年には、3本のサント映画が公開されているのですが、それが3本ともブルー・デモンとのタッグ

ブルー・デモンにとっても、これが10本め(くらい)の主演作にあたります。そんな大物同士のタッグが、なぜこの時期にいきなり連発されたのか。

たぶん、この時代になると、ルチャ映画の人気にも陰りが出てきたんでしょう。メキシコでは1968年にオリンピックが開かれているので、それを機に日本と同様にテレビが普及し、メキシコの子どもたちを熱狂させてきたに違いないルチャ映画も、その座をテレビに奪われはじめていたのかもしれませんね。

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オープニングはシリアス調。どうやら、犯罪や戦争が横行する現代社会を嘆くものらしいんですが(スイマセン、例によって字幕一切なしのスペイン語版でした)

これがまた、見え見えの流用フィルムのオンパレード。ヤスモノ映画の常套手段とはいえ、いったいどんだけ持ってきたんだか。実写フィルムだけでなく、あちこちの映画から拝借したらしきものがバンバン入ってきます。

とはいっても、そもそもそんなに有名な映画のフィルムを使えるわけもないので、ほとんどは正体不明ですが、中にはピンとくるものも。

私の偏愛する西ドイツの怪作「怪人マブゼ博士/千の眼」のクライマックスが流用されていたのにはビックリ。う~~ん、やはりヤスモノ映画の世界はどこかで秘かに繋がっているんでしょうか?

わが東宝の「怪獣大戦争」からの流用も登場します。X星を探査に行く宇宙ロケットのP-1号の雄姿が。じつはストーリー上ではけっこう重要な役割を担わされているんですが、こんな扱い方でいいんでしょうか。

それにしても、日本映画と西ドイツ映画の一場面をメキシコ映画で垣間見るなんて、これぞ映画の泥沼ですね。

さて、そんな映画のなかで、いきなり始まるのがサント対ブルー・デモンのシングルマッチ

これは貴重です。日本ではついに見ることのかなわなかった、伝説のライバル対決をこんなところで見られるなんて! メキシコらしい空中殺法の応酬まで見られます。

と、思わず乗り出したところで、リング上のブルー・デモンが突然昏倒して試合は中断。じつは何者かがブルー・デモンに薬物を一服盛っていたんですね。

そして偽装した救急隊がブルー・デモンを誘拐。サントが単身追いかけるものの逃げられてしまいます。

ブルー・デモンが運び込まれたのは、いかにも悪の秘密基地的な研究所。そこで怪しげな科学者が強力な洗脳をかけて、彼を自らの配下にしてしまいます。

というわけで、今回もまた本意ではなくとも、サントとブルー・デモンが対決することに。

なんでこういう回りくどい設定になっているのかというと、たぶん当時のリング上で、サントとブルー・デモンがライバルとパートナーの関係を繰り返していたからでしょう。じっさい、ずっとリンピオ(善玉)一筋だったサントに対し、ブルー・デモンはもともとのルード(悪役)とリンピオを行ったり来たりしていたからです。ま、これはプロレスの世界では普通のことですが。

映画のなかでもサントが「彼とはリング上では敵同士でも、私生活では友人だ」なんて、プロレス的にはギリギリの発言をしていますから。

そんなわけで、ストレートにブルー・デモン=悪役には配置できなかったんでしょうね。映画後半では正気に戻ったブルー・デモンと共に二人で悪の組織と対決します。

さてその悪の組織、例によってどこで募集したのかわからない大勢の部下を有したボスはナチスの残党の科学者。幻の大陸アトランティスの遺跡を基地にして、世界中を核ミサイルで破壊し戦争を引き起こすぞと、ミニ国連みたいな首脳会議を脅迫するのです(この核ミサイルがP-1号なんですよ、じつは) 首脳会議は腕利きエージェントにしてリングのスターであるサントを招集して組織と対決するのですが……

どう見ても、007亜流のスパイ映画ですね。クライマックスで敵の基地が吹っ飛ぶところなど、007ムード横溢(このシーンも何かの映画の流用らしい)

しかし1970年の作品だから、007でいえば、「女王陛下の007」と「ダイヤモンドは永遠に」の間の時期で、もうすでに旬は過ぎていたと思うんですが、そのへんどうなのかな。

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相変わらず大雑把に進むストーリー、伏線なしのどんでん返しの応酬など、ブルー・デモンとのタッグになってもサント映画は健在。まぁブルー・デモン映画もこんな感じだろうから、そりゃそうか。

ただし、映画のスケールはそこそこ大きくなっています。カーチェイスばかりか、ヘリコプターを使ったエア・バトルまで投入されているんですから、ちょっと驚き。

ここはちょっとした見せ場になってます。なにしろヘリコプターを2機も使ってるんだから!

いやそうはいっても、洗脳されたブルー・デモンとサントがそれぞれヘリコプターに乗ってバンバン撃ちあうだけ。それも短銃身のリボルバー拳銃で(もちろん無限に弾丸が出る)

そんなので当たるわけないだろうと思うのですが、さすがはサント、ブルー・デモン機のパイロットに見事に命中させます。すると青い悪魔、パイロットを気づかう様子もなく、さっさとパラシュートで脱出。最初からパラシュートつけてたようで、なんとも用心深いことで。だいたいヘリの飛行高度は落下傘降下できるような高度よりもかなり低いと思うんだが。

007ばりの海中アクションもありますが、アクアラング装備のダイバーたちと渡りあうサントたちは素潜りで、しかも覆面も衣服もつけたまま。息長過ぎのような気がしますが、そこは常人離れしたレスラーってことでOKなんですかね。

ラストの大爆発シーンも(流用フィルムでしょうが)なかなか善戦していますが、考えてみたらあんな小さな爆弾ひとつで、あそこまで爆破できるものなんでしょうか。秘密基地の防火意識が低すぎるんですね、きっと。

流用フィルムの多用が「映画のスケールを大きく見せている」と好意的な批評もあるようですが、いやそうかな、まぁ私は元ネタに気づいてしまったから、かえってヤスモノに感じたんですがね。そのへんは許容範囲ってことにしときますか。

そうそう、やや大人向けになっているので、貴重なサントのベッドシーン(らしきもの)もあります。そこでも覆面つけたままなんですがねぇ。

とまあ、総天然色で描かれる、サントとブルー・デモンの活躍は、前作に続いてこんな感じなんですが、さてもう一本残された1970年のサント映画はどうなんでしょうか?

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