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未発売映画劇場「サント対死者の世界」

1970年に続けざまに公開された、サントブルー・デモンの競演作の第3弾がこの「El mundo del los muertos」英語題では「The World of the Dead」

前2作の競演作とはいささか違うテイストの作品だ。

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いきなり始まるのは女性への拷問シーン。おどろしげな地下牢で裸の背中へのハードな鞭打ちがしつこく続く。このシーンだけで、お子さま向けの映画でないことはわかる。次いで、彼女の証言で捕らえられたらしい4人の男が異端審問(らしい)にかけられ、無惨にも火あぶりで処刑される。

とここまで見ると、非情な宗教裁判が庶民を苦しめるドラマのようだが、じつはこれがまるで逆。冷酷に、あるいは楽しげに彼らを処刑する教会側の描写のせいだが、処刑される側は悪魔崇拝の反キリスト者の集団で、こっちが悪役なのだ。

4人の火刑を見ていた謎めいた女性が、悪魔教の主導者で、教会側に対抗すべく地獄から呼び出すのがブルー・デモンなのだ。おお、今回はホンモノの悪魔だ。

で、正義の使徒である白銀の仮面の騎士(もちろんサント)をはじめとする教会側の人々に、ブルー・デモン率いるゾンビ団が襲いかかる(処刑された4人なのだが、なぜか3人に減っている) サントとブルー・デモンたちが戦っている間に、悪魔教の女教主はサントの屋敷を急襲し、サントの妻を殺してしまう。怒りのサントたちは女教主の正体だった貴婦人を捕らえ、火あぶりにしてしまうのだ。

と、17世紀を舞台にした歴史ドラマのここまでが映画の前半。そして舞台は突如として現代に移る。

おやおや、前にも見たことのある構成だぞ。

サント対女吸血鬼軍団」とか「サント対魔女の館」と同じ構造なのだ。過去の因縁が現代に復活し、因縁のある人々を襲う。それをサントが撃退する。オリジナリティがないぞ。

もっとも以前の作品はモノクロだったが、今作は総天然色。さすがにこの時代にはモノクロ映画はもう作られていなかったようだ。まあ、毒々しいカラーがこの題材には合っているといえばいえるし。

その現代パートも予想通り。甦った悪魔教団が、女教主の生まれかわりであるサントの恋人を狙い、それをサントが守るといった具合に進み、ほとんどサスペンスを感じる暇はない……と思いきや、今回は仰天の展開が用意されていた。

これまたパターン通りに、ゾンビ団の一人がレスラーに化けてサントとの試合に臨むのだが(よく使われるの手段だが、メキシコのプロレス界ってのはそんなに選手の身元チェックに甘いのかいな)その試合中に、乱入した他のゾンビたちとともにサントを捕らえると、なんとリング上でサントの胸に短剣を突き刺してしまうのだ!

これまで幾多の敵と戦ってきたサントだが、深刻な負傷を負うシーンはまったくといっていいほどなかった。ギャングも殺し屋も、ゾンビも吸血鬼も火星人も、サントには傷ひとつつけられなかったのだ。

そのサントが胸に短剣を刺され人事不省に陥るのだ。これには意表を衝かれる。救急車で病院に運ばれたサントは緊急手術を受けることになった。

このシーンは、けっこうえぐい。どうやら本物の手術の映像を使っているようで、切り開かれる胸郭、露出されても脈打つ心臓、流れる血液、血まみれの医師と医療器具。やや粗い画質がリアルさを増す。気の弱い観客は目を覆うだろう。

そこまでリアルにこだわったのに、すぐに次のシーンでサントはすっかり復活しているのがちょっとねぇ。

このシーンも含めて、この映画はけっこう描写がえぐい。冒頭の拷問シーンにしても、火あぶりの刑にしても、描写は容赦ない。ほとんどホラー調なのだ。ルチオ・フルチあたりに通じるものがあると言ったら言い過ぎか。

監督はメキシコ映画に偉大な足跡を残した巨匠ギルベルト・マルティネス・ソラレス(Gilberto Martínez Solares) 日本公開作はないようだが、戦前の1930年代から20世紀末まで160本にものぼる監督作がある人だ。でもそんな巨匠が、なんでこんな映画を手がけたんだろう(「サント対モンスター軍団」もこの監督さんだった)

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じつはこの1970年の3本には、ある疑問がある。

サントとブルー・デモンといえば、メキシコ映画界のゴジラとガメラみたいなもので、その共演の実現はかなりの難事業であったはずだ。前にも書いたように、たぶんルチャ映画の人気下降という背景があったのだろうが、この大事業を成し遂げたのは誰だったのか。

サントとブルー・デモンの競演三部作(内容は互いにまったく無関係)を作ったのは、間違いなくプロデューサーをつとめたジーザス・ソトマヨール・マルティネス(Jesús Sotomayor Martínez)だろう。いささか不敬を感じないでもない名前だが、この名を冠した「Cinematográfica Sotomayor」という会社の製作なのだ。このソトマヨールが、サントとブルー・デモンを引き合わせた男ということだ。さぞや大物の実力者なのだろう。

と思ったが、この人物の正体がよくわからない。IMDBによれば1956年からプロデューサーとして登場し、62本もの作品を手がけている。それなりの大物なのだろう。だから、サントとブルー・デモンを共演させ、監督に大物のソラレスを起用できたんだろう。

ただよくわからないのだが、この三部作を最後に、ソトマヨールは映画から足を洗ったようなのだ。以後、何の資料を見ても彼の作品はない。1923年生まれというから、このころはまだ50歳にもなっていない。引退にしては若い年齢だ(2009年まで存命している) そこにどんなドラマがあったんだろうか? いまのところ全く資料が見つからないのだが、いずれ解明してみたいものだ。

さてかんじんの映画後半だが、サントの奮戦もむなしく、甦った悪魔教団によって、彼の恋人は殺される。悲嘆にくれるサントは、彼女を救うべく、死後の世界へ身を投じるのだ。どうやら先に書いた臨死体験があったゆえに可能だということらしいのだが。

というわけで映画の終盤の見せ場は、死後の世界が舞台。ないやら怪しげな風景、次々に現われる怪物じみた生物……毒々しいまでの赤色に全編染色されたこのパートは、特異な雰囲気でけっこう異様なムードに満ちている。

おもしろいのは、この死後の世界と現世の境には深い谷があり、そこを超えるには長い吊り橋を渡るしかないという設定だ。わが国にも、死後の世界である黄泉の国へ入るには黄泉比良坂という長い通路を通らねばならないという伝承がある。死後の世界へ行くには長い通路を通る必要があるというのは世界共通の伝承なのだろうか。

ここまで書いてみて、あれこれじゃあんがい面白い映画に見えてるんじゃないかと心配になった。

じつはけっこうなハズレ映画なんだが、その最たる理由は、あまりに安っぽい流用フィルムの多用だ。

この前の「サント対アトランティス団」でも触れたが、先の手術シーンをはじめ、実写フィルムがどんどん注ぎこまれるのだ。もちろん他の映画からのものと思われるカットも多数。

おかげで、映画全体が、なんともチープなムードになってしまっているのだ。まあ、それで文句を言うほどの映画でもないんだが。

そうそう、ブルー・デモンだが、最初の歴史パートに出てくると、後半はまったく姿を見せず、最後にちょっと働くだけ。最初は悪役として本領を発揮するかと思われたが、じつはそこにやむを得ない事情があるような話で最後はサントを助けることになる。うーん、使われかたも中途半端で設定も曖昧な感じだ。

本格的共演三連続の最後を締めるにはなんとも締まらない感じ。次回作からサントはシングルプレイヤーに戻るのだが、安心してほしい、二人はこの後も共演したりするのだ。期待せずに待て!(笑)

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今回のDVDはこちら。「サント対蝋人形館」と裏表収録ソフトのB面あつかい。

【前回】サント対アトランティス団

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