見出し画像

未発売映画劇場「サント対モンスター軍団」

メキシコのルチャ映画の金字塔サント映画完全チェックも第22弾。今回からはリング上で長年のライバルでなおかつパートナーでもあった一方の雄、ブルー・デモンとの本格的競演作が続きます。

まずは1970年5月にメキシコで公開された「Santo el emmascarado de plata y Blue Demon contra los monstruos」 タイトル長げーぞ。

画像1

なんとも胸躍るようなポスターではありませんか。オールスターキャストとはこういうのを言うんです(笑)

ご覧のとおり、サントの一枚看板ではなく、ブルー・デモンとのツートップ。

ブルー・デモンは1922年生まれというからサントよりも5歳ほど若いだけのほぼ同年代ですが、1948年ごろのデビューなのでレスラーとしてはサントよりもだいぶ後輩になります。サントは1930年代からトップレスラーとして活躍していますから。

1950年代から、絶対的リンピオ(善玉)のサントに対抗するルード(悪玉)のトップとして君臨し、ルチャリブレ(メキシコ・プロレス)史上最大のライバル関係を築きます。その後はリンピオに転向してサントとタッグを結成したりもし、アメリカにも進出しました。1984年のサントの死後も現役を続け、1988年に引退、2000年に死去しています。ちなみにサント同様、プロレスラーとしてはついに未来日で「未知の強豪」でした。

これまたライバルのサントと同様、ルチャ映画への出演も多く、1964年の「Blue Demon(El Demonio Azul)」を皮切りに30本ほどの映画に出演。1966年には1年間で4本もの映画に主演しているので、この面でもサントに劣らぬ足跡を残しています。

以前に「サント対ブラコラ男爵」の回で見た、ブルー・デモンの映画第2作「Blue Demon contra el poder satánico」にサントがちらっとカメオ出演していて共演ずみなのですが、今回はがっぷり四つに組んで、初の本格共演です。

映画がはじまると、おお、過剰なまでに豪華なモンスター共演も栄える、毒々しいまでの総天然色

そして、冒頭のメインタイトルで、サントとブルー・デモンを筆頭に、登場キャラクターが画像入りで紹介されます。

登場モンスターは、ミイラ男(La momia)、フランケンシュタイン(Franquestain)、サイクロップス(Ciclope)、狼男(Hombre lobo)、吸血鬼(El vampiro)、それに女吸血鬼(La mujer vampiro) ちょっと語学の勉強にもなるでしょ。

悪の科学者が死去。だが邪悪な助手と彼の率いるゾンビたちは科学者の死体を盗み出し、科学技術を駆使してよみがえらせる。悪の一党はまずはブルー・デモンを拉致し、彼の複製を作り上げる(ここにはツッコまないようにね) さらに一党は、次々とモンスターたちを復活させ、メキシコ全土を恐怖のどん底に突き落とす。事態を察知したサントは、悪の軍団と対決することに……

悪の科学者が作り上げるモンスター軍団は5大スーパースターのほかに、なぜか最初からいる4人のゾンビ(顔が緑色なだけ)、脳ミソ剥き出しの謎のミュータント(だろうと思う)などを擁しており、邪悪な助手もドワーフであり(演じるのはメキシコではドワーフ俳優として有名なサンタノン〔Santanón〕)、吸血鬼に襲われて変身させられる女吸血鬼も加わって、無駄なまでに豪華であります。

もっとも5大スーパースターはメイクが濃くて、逆に存在感が薄いのが難。なかでもサイクロップスは、ほんとうは巨人のはずなのに常人サイズだし、ほとんど着ぐるみなので、ご当地キャラにしか見えないね。

目を惹くのはフランケンシュタイン。いやいや、メイクはいまひとつどころではないですよ。なにしろあの有名なメイクに、なぜか口髭だからね。フランケンシュタインの怪物(この呼び方が正確)にヒゲがあるのって、ちょっと他では見たことないでしょう。

この怪物を演じたのは、クレジットでは「Manuel Leal」とあるが、調べてみると、その正体はティニエブラス。こいつもプロレスラーで、メキシコでは珍しい巨漢レスラー(191cm) 確かにフランケンシュタインにふさわしい体躯ですね。まだデビューしたばかりの時期で、こんな役を振られたのだろう。

本職では覆面レスラーなのに素顔(?)かよと思ったら、当時はまだティニエブラスとしてデビューする前だったらしい。この映画の後の1971年に暗黒仮面ティニエブラスに変身してブレイクし、メキシコマット界では別格扱いに。メキシコ版アンドレ・ザ・ジャイアントみたいな存在と思っていいかな。1974年には新日本プロレスに来日してアントニオ猪木や坂口征二ともシングルで闘っていますね。のちには映画俳優に専念した時期もあるんだそうで、ある意味サントやブルー・デモンの後継者ともいえるかも(そんなことないかな)

フランケンシュタインが実名(?)で登場するのに、どう見てもドラキュラ伯爵な吸血鬼が「El vampiro」とボカした呼び方をされるのは、たぶん著作権の関係

原作小説『フランケンシュタイン』を生んだメアリー・シェリーは1851年没。いっぽう『吸血鬼ドラキュラ』の著者ブラム・ストーカーは1912年没。メキシコの著作権保護期間は世界最長の著者の死後100年ですから、この映画が製作された1970年には、フランケンシュタインの著作権は切れていても、ドラキュラの著作権はまだ生きていたんですね。

ちなみにこちらの映画の吸血鬼はシルクハットを着用しているのですが、ぜんぜん似合ってないぞ。

画像2

とまあ、ここまで色々とぶっこんだ力作だけど、じゃあ面白くなったかというとそのへんは疑問が残りますね。

まずは、ルチャ映画に共通の欠点でもある(もちろん長所でもあるんだけど)アクションの単調さがあります。どんなに凝った怪物たちが登場しても、いざサントやブルー・デモン(映画の後半では本物だけが登場)との闘いになると、要するに殴る蹴るの路上プロレスになってしまうのです。まあ致し方ないんですが。

それよりなにより、ストーリーがいいかげんなのは、サント映画のお家芸とはいえ、やはり困りもの。

悪の科学者は、じつは善の科学者の弟であり、その娘がサントの恋人だったりするのだが、このへんの人間関係があまり説明もされずにポンと提示されるのが困惑を招きます。サントに恋人がいたなんて知らなかったぞ。もっともそのおかげで、サントのキスシーンというめずらしいモノも拝見できるのですが。

見ながら、ひょっとしてこれは続編映画なんじゃなかろうかと思うくらいの説明不足。少なくとも調べた限りではどこにも「正編」は存在しないようなので、そんな事実はナシ。とすれば、この説明不足は大きな欠点でしょう。

まぁ、サント映画にそんなクォリティを求めるほうが間違っているんでしょうねぇ。

何はともあれ、カラーになり、ちょっとばかりグレードアップしたサント映画の今後に期待しましょう。

【前回】サント対暴走野郎カプリナ 【次回】サント対アトランティス団

未発売映画劇場 目次

映画つれづれ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?