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#81. 「コロンブスる」とはどういうことか?


前回の記事で、英語では milk, champion, treasure といった、本来モノを表す名詞がそのままの形で動詞としても使われることを紹介した。

その数日後、以下の本を読んでいたところ、

同じ動詞化の例としてたいへん面白いものに遭遇した。

なんと、あの 1492 年にアメリカ大陸に到達したことで有名なコロンブス(Columbus)の名前が、ここ数年動詞として使われているようなのだ。

アメリカでは、もともと黒人文化に起源を持ち、彼らの間で使われていたスラングや表現が、後になって白人などの支配的コミュニティでネットスラングのように使われはじめることがある。

その際、多くの白人は、自分たちがクールだと思って使っているその若者言葉が元来(自分たちがどこか下に見ている)黒人文化に由来しているものだとは知らないでいることが少なくない。

むしろ彼らは、そういった言葉を、自分たちが「見つけた」新しいものだと考えている。そこで出てきた言葉が colombusing である。

. . . the internet has come up with a word for this: colombusing, or white people claiming to discover something that was already well established in another community . . .
インターネットはこの現象を表す単語を生み出した:colombusing, すなわち白人が、すでに別のコミュニティにおいて十分に確立されていたものを「発見」したと主張することである。
. . . by analogy with how Columbus gets credit for discovering America despite the millions of people who already lived there.
これはコロンブスが、そこにはすでに数百万の人々がいたにもかかわらず、アメリカ大陸を発見したことで功績を讃えられていることとの類似から。

コロンブスはアメリカ大陸に「到達」したというだけで、別に全人類を代表してその大陸を新たに「発見」したわけではない。

彼に「見つけられる」前からずっと、そこにはネイティヴ・アメリカンの人たちが暮らしていたからだ。

だから、彼らの存在を無視してあたかも、アメリカ大陸を人類にとっての「新発見」のように語るのは、彼らに対して失礼極まりない ...... というのが、いま現在の一般的な認識である。

これはたしかに、いまの白人が、すでに黒人文化に深く根差していたはずの言葉をかっさらい、あたかも「自分たちがつくり上げたもの」であるかのように主張するのと酷似している。

「コロンブスる」(?) とは、言い得て妙である。

しかし、現在の文化的盗用の問題を 15 世紀のコロンブスと結び付けるとは。この言葉をつくった人のウィットと発想力に、脱帽してしまう。

なお、以下の動画を観ると、スラングなどの言葉だけでなく、そのほかバーなどの場所も「コロンブスれる」ようである。

(この白人男性は、1935 年からあるバーを、
白人のために「コロンブスった」らしい)

ただ、もちろんこの colombusing は白人たちだけの問題ではない。

人間は、自分にとって新しいことに出遭うと、それは他の人たちもまだ知らないと思いがちだ。

こういう note や Twitter, YouTube などといった発信の場にいるとよく感じるが、

「ねえねえ、これみんな知らないでしょ!」、「スゴいこと教えちゃうよ!」という調子で自信満々に語っているのが、

実際は「いやもうみんな知ってるよ」みたいなことだったというのはよくある話。

今日の columbusing も、自分にとって真新しく、個人的には英語がある程度できる人でも(たぶん)あまり知らないだろうと思ったので記事を書いてはみたが、

もしもこれを読んでいるみなさんが、すでに colombusing について知っていて、ただぼくが「コロンブスってる」だけだったなら、それは申し訳ありませんでした ......


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