#41. コロナの渦中でぼくがクレープを食べたのは
来る日も来る日もコロナウィルス。
この新型ウィルスに対する人々の関心があまりに高く、先日書いた「コロナウィルスと闘うビール」という記事の閲覧数が、奇妙な伸びを見せている。
ただこの記事は、端的に言えば「コロナウィルスが話題になったせいで、同じ『コロナ』を名前に含むコロナビールが風評被害を受けているんですよ」という、(言ってしまえば)どうでもいい内容なので、ウィルス対策に深刻な人が読むのにふさわしい内容では決してない。
驚いたことに、記事を開くと画面上部にこんな注意書きまで表示されてしまうわけだが:
「関係する内容」でないとは言えないまでも、その関連度はせいぜい 2% くらいなものなので、「関連記事」扱いを受けているのがなんだか申し訳なくなってしまう。
(注意書きにもあるように、新型コロナウィルスに関する情報を求めている人は、厚生労働省や首相官邸のウェブサイトを参照してください)
10 日前にあの記事を書いて以来、このウィルスに関する報道はさらに激化した。
なので今回は、関連度 2% 程度だった前回の記事の反省をふまえ、関連度 1% の英語ネタを紹介しようと思う。
◇
「コロナウィルス」という名称が連日耳に入ってくると、言語オタクとしてはどうしても気になってしまうのがその語源。
coronavirus の corona とは一体どういう意味なのだろう。
これに関してはすでにさまざまなところで情報が出ているので手短に済ませるが、この corona は「王冠;花冠」を意味するラテン語の corona から来ている。
Online Etymology Dictionary の corona (n.) の項には次のような説明がある:
A coronavirus (by 1969) is so called for the spikes that protrude from its membranes and resemble the tines of a crown or the corona of the sun.
コロナウィルスは、その膜から突き出る突起が、王冠にある放射状のギザギザ部分や太陽の光環に似ていることからそう呼ばれる。
(こちらがおなじみコロナウィルス)
(こちらは見るも美しい王冠)
(そしてこちらが太陽の光環)
たしかに、これらはすべて「丸い形で外側に鋭く突き出た部分がある」という点で共通している。
王冠あるいは光環のように見えるウィルス。よって名前はコロナウィルス。いたって単純明快だ。
◇
しかしこれだけで終わっては面白くない。語源というのは奥が深いので、もっと先へと掘り下げていけば、さらに楽しい発見がきっとあるはずである。
上記したラテン語の corona をさらに過去まで遡ってみると、この単語は初めには「曲がる,曲げる」を意味する印欧祖語の *sker- という語から派生したのではないかとされている。
先述のウェブサイトの sker- (2) の項を参考に、この語から派生したと見られる現代英語の単語の一部を抜粋してみる:
arrange; circa; circadian; circle; circuit; circum-; circumcision; circumflex; circumnavigate; circumscribe; circumspect; circumstance; circus; cirque; corona; crepe; crest; crinoline; crisp; crown; curb; curvature; curve; derange; flounce (n.)
見てみると、circle(サークル)や circuit(サーキット)、それから circus(サーカス)などがあり、「たしかにすべて、丸い形を含んでいるな」と思わせられるが、
個人的に最も驚きだったのが、corona の次に挙がっている crepe という単語である。発音は「クレップ」あるいは「クレイプ」。
そう、これは日本語で言うところの、あの(甘くて美味しい)「クレープ」である。
もちろん、この crepe も、もとからあのお菓子のことを指していたわけではなく、元来は、襟元についたフリルのような飾りを表す単語で:
これがおそらく、「くしゃくしゃした薄手の生地」という見た目の共通点から:
例のお菓子が「クレープ」と呼ばれるに至ったわけだ。
・*sker- → 王冠;光環 → コロナウィルス
・*sker- → ひだひだの襟 → クレープ
同じ *sker- という言葉が、さまざまな経緯を経てその枝分かれした先で coronavirus(コロナウィルス)と crepe(クレープ)という一見まったく異なる単語を生んでいるのは、とても面白い。
◇
そういうわけで、マスクだらけの不穏な空気が漂う中で、今日は帰りにクレープを食べた。
(一番人気のチョコバナナクリーム)
同じ corona を名前に持ったコロナビールが不運な目に遭ったように、こんな一人の英語オタクのブログ記事によってクレープの売上が落ちるようなことは、万が一にもあってはならない。
語源的には、はるか遠い歴史の果てでつながっているが、物理的には、この二つには何の関連性もない。
新型コロナウィルスが世界に恐怖を広げていても、チョコバナナクレープが広げてくれるのは、口の中のやわらかな甘みだけである。
久しぶりに食べたクレープが予想以上に美味しかったので、明日はたぶん「いちごホイップ」を買って食べてみるかもしれない。
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