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【小説】望郷の形(5)

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 骨を手の中で滑らせながら、硬いベッドの上に日がな一日座っていた。静止に耐えかねた筋肉が痛みで集中を邪魔し始めたら仕方なく外を歩いた。足を動かし、思い思いに過ごしている島民たちを見るともなく眺めている間にも、手の平は骨の形を探っていた。

 いつもならそうしているうちに素材のあるべき形が感じられる。削り出されるのを待っている、そのものの魂の形が。私のやるべきことは、岩塊から化石を取り出すように、余分を削り落とすだけ。技術不足で本来の魂の形を損なってしまうことはあっても、どこをどう彫ればいいか見当も付かないなんてことは今までに無かった。シーさんから渡された骨の、その骨の持ち主の魂が、私が今までに出会った何者とも異なっているのだと思う。


 形を探している間、島民の集まる喫茶室の二階で寝泊まりした。外部からの来訪者のための宿らしく、広めの一軒家のような造りは馴染み深く、イナミが用意してくれる食事も南瓜の煮物など質素ながら家庭的な味がした。

 イナミは地球の――現代の人間の文化にさほど抵抗を持っていないようだった。自らをこの星の存在ではないと断じ、海に囲まれた聖域にまで逃げ出してきたというのに。

 失礼を覚悟で率直に訊いてみると、少女は薄い唇の端をくいと持ち上げた。

「海外旅行で現地の民族衣装を着たがる人間もいるだろう。伝統料理を食べたがる人間もな。試してみて気に入れば帰った後に自分の国でも着たり食べたりするかもしれない。それと同じことだ。気に入ったから取り入れてる」

 イナミは三段フリルのスカートをちょっと持ち上げてみせる。

「なるほど。似合ってる」

 私が褒めるとイナミは得意げにくるりと一回転してみせた。遠心力でなびく髪を彼は持たない。それでもよく似合っていた。

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