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【小説】望郷の形(プロローグ)

 自分は宇宙人なのだと生まれた時から知っていた。

 だけど両親はぼくを人間の子供みたいに育てたし、誰も彼もぼくを人間と同じように扱った。どうやら彼らにはぼくが人間に見えているらしかった。

 細長い本体に、感覚器官の集中した突起が一つ、移動用の突起が四つ、または六つ、または二の倍数でもっとたくさん。身の回りにいる大抵の生き物は共通してそういう奇妙な構造をしていた。ぼく自身でさえ。

 この身体に慣れるまで何年もかかった。この惑星の大き過ぎる重力に逆らって垂直に立つだなんて、一体何を考えているのだろう。非効率極まりない。

 せめてもの抵抗に、背中を地面に付けたまま肘や踵で移動したり、噴水に入ったりしていたら、親は悲鳴を上げてぼくを叱った。服というものもよくわからなくて、隙さえあれば脱ぎ捨てようとした。柔軟に形や色を変えることもできない、そのくせ薄くて脆い外皮も不便で嫌になる。

 でもまぁぼくから見てもぼくの身体は他の人間と変わりないようだったし、白いごわごわの服を着た医者がぼくの開口部から中を覗いたり体液を調べたりしても別段何も言わなかったから、ぼくの身体は完璧にどうしようもなく人間なのだろう。

 ぼくが異星人だと知っているのはぼく一人だけ。

 証拠は無い。

 根拠なんか無くたって、わかるものはわかる。彼らが自身を人間と認識しているのと同じように。

 それでも時々不安になる。

 ぼくは本当は人間なんじゃないか。

 自分を異星人だと思い込んでいる、頭のおかしい人間なんじゃないか——。

 だからぼくは探し始めた。ぼくと同じ、異郷に芽吹いてしまったこぼれ種を。

 ぼくがぼくであることを証明するために。

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