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物語詩「子供の親」

退屈な神様は悪戯で
五歳の魂を大人の体に
三十路の魂を子供の体に
入れ替え 封じて 放り出した

五歳は大きくなった体で
鼻高々に歩いていた
大人の高さからよく見える
二人三脚の恋人たち
子を真ん中に手をつなぐ家族
普通の大人のあるべき姿
目指す五歳は意気揚々

綺麗な人や 可愛い人や かっこいい人
手当たり次第に声を掛け
付き合ってくださいと声高らか
笑われ拒絶されたなら
あっかんべーして罵った
立派な大人になったのに
相手にしないあいつらが悪い

諦め悪く繰り返すうち
いいよと笑って言ってくれた
たった一人を運命と信じ
やったやったと飛び跳ねる五歳

五歳らしいわがままで
五歳らしく駄々をこね
周りを困らせた五歳児は
それでも憎めない無邪気さで
何となく許されていた

よくわからないまま気持ち良いことをして
そのうち赤ん坊が生まれた
一人前の大人の証明
五歳はとても誇らしかった

働けと言われて仕事をしたら
教わっていないことばかりで
役立たずめと追い出された
五歳にできっこないことを
求めるあいつらが悪いのに

赤ん坊と二人きり
灰色の部屋に残された
優しい恋人だった人は
仕事ばかりで構ってくれない
可愛いはずの赤ん坊は
責めるみたいに泣くばかり
まだまだ手のかかる五歳児は
ほったらかされて 世話をさせられ
遊ぶことすら許されず
帰りたいよとわんわん泣いた

子供が少し大きくなって
なんだか可愛くなってきた
大好きだよって抱き締めてくれるし
大変だねって肩を揉んでくれる
だけど子供は学校へ行って
五歳が知らないことを学んで
五歳が作れなかった友達を作った
そんなのずるくて大嫌い
怒り狂う五歳を見つめる
ガラス玉みたいに凪いだ目が
馬鹿にしてるみたいで大嫌い

だけど五歳は頑張った
頑張ったら結果はついてきた
子供がテストで満点を取った
人を助けて賞状をもらった
素晴らしいご家庭なんですね
育て方が良かったんですねって
いろんな人から褒められた
もっと褒めてもらえるように
頑張って子供を良い子に躾けた

子供が家を離れてからも
立派な子供になるように
毎日電話で励ました

ある日
子供が五歳に言った

あなたのことが嫌いです

五歳にはわけがわからなかった
大好きだよって言っていたのに
嘘を吐いて裏切っていたの?
こんなに頑張ってあげたのに
恩を仇で返すっていうの?
ひどいひどい最低な子供
お前なんかうちの子じゃない

五歳は気まぐれな神を恨んだ
五歳をそそのかした恋人を恨んだ
すべての幸せな人間を恨んだ
自分を見捨てた子供を恨んだ

正当な埋め合わせを求め
正当に抗議して追いかけたのに
誰も彼もが逃げていった

どうして子供が離れていったか
その理由を理解するには
五歳の魂は幼過ぎた


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