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【小説】多重聖域(資本主義と異教徒の聖域の話)

 巨大な聖域の明かりは夜も決して消えることはない。

 敬虔なる信者たちは天に手を伸ばすように幾重にも層を成す巣を作り、夜を拒絶するように頑なに光で満たし続ける。

 闇と混沌、不可知の神秘を領域の外に追いやり、安全で快適な聖域の境界を守るために。

 讃美歌が響く。成長と発展、その先にある豊かさという天上の国を称える声が。

 正体を隠した神の言葉は聖域内の隅々にまで浸透している。

 もっと早く。

 もっとたくさん。

 もっと心地良く、もっと便利に、もっと効率的に、と。

 光が薄らぐ辺境の住処に帰った異教徒は、閉じた扉に印を描いて都市という名の聖域の中に結界を張り、自分だけの飛び地の聖域を生み出す。

 壁掛けの丸い月、カーテンレールにかけたガラスの星、鉢植えの森、カーペットの草原。忘れられた古い神の気配がささやかな聖域に宿る。

 馬鹿げた蒙昧なお遊びだと、心の内で都市の神が嗤う。その声をかき消すように、隠れた異教徒は森の神に祈りをささげる。太陽の光が都市の明かりを呑み込む時まで。


※本作品はmonogatary.comのお題「睡眠不足の理由」に沿って執筆したものです。

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