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1、元力士と元協力隊へのインタビュー

相撲部屋の朝は早い。その中で、目覚まし時計を誰よりも早く鳴らし、ジャパニーズドリームを目指して稽古を重ねていた男性がいた。外国出身力士のA。彼は今年、引退した。

地域の朝も早い。一番鶏の鳴く頃から起きて、べに花を摘む農作業を手伝う女性がいた。地域おこし協力隊だった1人の都会出身女性のB。彼女も今年、引退した。

一見、何の接点もなさそうな2人。彼らに突撃インタビューを敢行した…という設定のお話で、このnote記事は幕を開きます。脳内ミュージックは、中島みゆき『地上の星』でお願いします(笑)。

…お2人は異なる環境に飛び込まれたのですが、その環境に対する第一印象はどうでしたか?

元力士「とにかくカルチャーショックね。私の祖国〇〇では、考えられないことの連続。食べ物、礼儀作法、親方や先輩方との接し方。最新の相撲技術と同時に、いつの時代かと耳を疑う精神論も存在した。古いしきたりと新しい情報が混在していて、最初はとまどったよ」

元協力隊「とにかくカルチャーショックです。私の出身の〇〇では、考えられないことの連続でした。食べ物はスーパーで買うもの、SNSは当たり前、という世界から、食材は隣近所から分けてもらえる、情報はリアル回覧板、という世界へ。Instagramをインスタントラーメンと勘違いされて、最初はとまどいました(笑)」

…ホームシックなどにはなりませんでしたか?

元力士「来日したての頃は、毎日帰りたいと思っていた。他の相撲部屋のホームページを見て、ああ、この部屋は楽しそうだなと思った。なんでこんな部屋に来てしまったんだろうと。私も若かったから。空港に逃げ込もうとして、親方に見つかった。怒鳴られるかと思ったけど、親方は黙ってラーメン屋に連れていってくれた。その後の稽古は、ものすごく厳しかったけど(笑)」

元協力隊「後悔もありました。協力隊って、みんな情報発信するじゃないですか? 比べてしまうんですよね。どこそこの自治体はやりやすそう、どこそこの自治体はみんな和気あいあいとやっている…。それに比べて、私が来た自治体は旧態依然。なんでこの自治体に来てしまったんだろうと。もちろん、良い面もありましたが、悪い面の方が目につく。ついつい東京のファッション店のサイトなどを見て、郷愁に駆られたりしましたね…」

…生活を振り返っていかがですか? 後悔はありませんか?

元力士「今から思えば、辛いことだけでなく、楽しいこともたくさんあった。こうしておけばよかったと思うこともあるよ。でも、その時は、ただ毎日を乗り切ることで精いっぱい。横の連携、情報共有、あまりなかったね。同じ祖国出身の人とは連絡を取り合っていたけど、部屋が違えば異世界だから、他の部屋のことが自分に当てはまるとは限らない」

元協力隊「今から思えば、もっとうまくできたのにな、と思うこともあります。でもその当時は、自分がやっていることがどこまで周囲に響いているのかわからなかった。横の連携がなかったですね。みんなそれぞれ、個別で戦っているというか…。他の自治体は別世界。郷に入れば郷に従え、という感じで、他は他、うちはうちという暗黙の了解がありました」

…最後に一言、これから飛び込む方へのメッセージをお願いします。

元力士「できるだけ情報収集してから、来た方がいいよ!」

元協力隊「できるだけ情報収集してから、来るべきです!」

2、2人の共通点を探る

なぜこのような会話を書いてみたか? それは、地域おこし協力隊は、外国出身の力士に似ている、と思ったからです。もちろん、相違点も多々ありますが、共通点を強調して書き出してみます。

【共通点】

異なる環境に飛び込む(外国から日本/都会から地域へ)

期間限定(いつかは引退)

組織に所属しながらフリーランスっぽい(部屋/自治体)

④組織は旧態依然な面があり、活動はその組織に左右される

横の連携が少ない

存在が目立つ(日本人とは異なる/地域人とは異なる)

特殊技能でアピールできる(怪力/情報発信能力など)

食べ物に困らない(ちゃんこ食べ放題/農産物食べ放題など)

…他にもありますかね?  そうそう、これを忘れていた。

ゴールが決まっていない

外国出身力士の分かりやすい目標は、横綱・大関まで昇進して大成功すること。しかしその後のゴールはさまざま。日本に永住して国籍を取得して協会で働くか、はたまたジャパンマネーを手にして祖国で活躍するか、その人次第です。タレントになったり、相撲の面白さを世界に広めたり、他の格闘技に転身したりもできます。もちろん、名も知られずに消えていく力士も多数。ゴールは決まっていません。

地域おこし協力隊の分かりやすい目標は、その地域を盛り上げること。文字通り地域おこしです。しかしその後のゴールはさまざま。地域に永住して働くか、はたまた給料や経験を活かして都会に戻るか、その人次第です。ブロガーになったり、地域の良さを発信したり、全く違う職業に転身したりもできます。もちろん、名も知られずに消えていく隊員も多数。ゴールは決まっていません。

3、そもそも「地域おこし協力隊」とは?

さて、ここで(ようやく)「地域おこし協力隊」についての基礎知識を確認しましょう。えっ、順番が違う? いえいえ、いきなり「地域おこし協力隊とは…」と説明を始めても面白くないでしょ?

…地域をおこす人? …準公務員? …移住候補者? …青少年海外協力隊の日本版? というか、そもそも地域は「寝ている」の?

などの疑問は当たり前。ですがこの記事で、つらつらと「地域おこし協力隊とは…」と書き出す気は、実はあまりありません。

代わりに、なんか一発で「地域おこし協力隊とは!」がわかるようなコンテンツはないかな~と探していましたら、ありました。

「てらけん@伊豆おこしプロジェクト」(@teraken099:Twitterより)さんの記事を引用させていただきました。この記事を読めば、地域おこし協力隊とは何か、すぐわかります。おすすめです!

4、地域おこし協力隊の「連携」と「情報公開」

ここまで書いてきて、1つ疑問が出てきました。

「連携」と「情報公開」です。

冒頭の2人の会話を思い出していただきたいのですが、最後に2人は何と言っていましたか?

元力士「できるだけ情報収集してから、来た方がいいね!」

元協力隊「できるだけ情報収集してから、来ましょう!」

…情報収集。これ、すごく大事ですよね。どんな自治体でどんな活動をすべきなのか。これまで、どんな人がいてどんな活動がなされてきたのか。マイナスからのスタートなのか、すでにプラスなのか。現在進行形で、どのような状況なのか。それを知らずして、地域おこしは不可能。

そもそも、これだけ大規模になってきた国家予算を使っている制度なのに、「全国的な情報共有」はされていないのか? それが、意外と「連携」と「情報公開」は進んでいないようです。比較的新しい制度ということもありますが、一番の理由は、各隊員はそれぞれの地域(自治体)をおこすのが目的で、他の地域(自治体)をおこすのは主目的ではないからです。悪い意味での、縦割り行政・お役所仕事というキーワードもちらつきます。

でも、さすがにそれはまずいでしょ!ということで、徐々に「連携」と「情報公開」の動きが出てきているようです。前出の「てらけん@伊豆おこしプロジェクト」さんも、連携と情報公開に取り組まれています。

いくつか、そのような動きをご紹介します。以前の記事でも取り上げました、ヤマダイ監督さんの映画制作プロジェクトはこちら↓。

ヤマダイ監督さんは、日本初の地域おこし協力隊の映画を制作するために、すべての都道府県の地域おこし協力隊への取材旅を敢行。その動きに共鳴して、ヤマダイ監督の来訪を機に、各市町村の地域おこし協力隊が集まって情報や意見の交換を行った事例も多数あるようです。

例えば、茨城県では、鹿嶋市の地域おこし協力隊のユウナさんが主催されて、交流会が行われました↓。

他にも、杉本恭佑さんは、「全国よりあい」というサミット開催に動かれています↓。こちらも興味深いですね!

これらは動きの一部です。いま現在、まさに、地域おこし協力隊の「連携」と「情報公開」が進んでいる最中なんだな、と感じます。

5、断面が金太郎あめでは意味がない

この記事のまとめとして、地域おこし協力隊以外の視点からの、「地域おこし」ではなく「地域再生」についての書籍を、2冊ご紹介します。

まず1冊目。木下斉さんの『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』です。

「補助金が地方のガンなんや!」という帯の通り、誰かに助けてもらうのではなく、自分たちで主体的に再生に取り組まない限り地域再生はありえない、という本です。

この本でも「地域おこし協力隊」は出てきますが、はっきり言ってチョイ役です。しかもちょっと「課題が多い」という感じで書かれています。

少し長いですが引用します。

地域おこし協力隊は、期間限定で非常勤公務員形式の若者を中心に、地方に入れる仕組み。国の交付税で100%賄われ、ひとまずタダで人を雇えるため、各地の自治体がこぞって受け入れている。しかし、他人の金で、しかも自分たちができないことを任せるので、目的が不明瞭であったり、来る人と呼ぶ地域との意図が異なっていたりするなど、問題は多い。何より、毎年何万、何十万人が都市部に流入している構造があるのに、国家予算をつけて全国で数千人程度を一時的に地方へ送り込んでも、今の地方の問題は解決しない。その場しのぎではなく、抜本的な問題解決策と向き合わなくてはならない。(P191より引用)

いかがでしょう? 地域再生は本当に大変で、国家レベルかつ民間レベルで同時に取り組むべき大問題です。地域おこし協力隊が来たからもう安心、地域再生成功!という簡単な話ではありません。でもだからこそ、地域おこし協力隊の方も、まず読むべき本だと思います。

もう1冊は、こばやしたけしさんの『地方は活性化するか否か マンガでわかる「地方」のこれから』です。

マンガ好きの方には、読みやすくてオススメです。しけけ団…(汗)。

なお、この2冊とも、けっこうエッジが効いています。耳が痛い、耳をふさぎたくなる、でも直視しないと何も始まらない、そんな内容が容赦なく展開されますので、楽しみながらもドキドキできます(笑)。

地域は、その長所も短所も千差万別ですので、どの地域にも効くという特効薬はありません。したがって、その地域に関わる地域おこし協力隊も、当然、金太郎あめのような「どこで切っても同じ」では意味がありません。外国出身の力士によって、土俵が多彩になったように、多様性こそが、地域おこし協力隊の強み(時には弱み?)ではないでしょうか。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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