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「食」を通じて地域の魅力を掘り起こす!
それが『ガストロノミーツーリズム』です。

「…ガストロノミー。何ですか、それ?」

と聞き返されそうですが、
『食事と文化の関係を考察すること』です。

「それって『美食』や『グルメ』?」

…確かに、共通する部分はあります。
漫画『美味しんぼ』で海原雄山が
「美食倶楽部」をつくったり、
『孤独のグルメ』でゴローさんが
一人で「うん、うまい」と食べたりして、
日本では『美食』『グルメ』という
言葉のほうが馴染みがありますよね!

ただ、ガストロノミーには、
もう少し広い意味がある。
ただ食べる、味わうだけではない!
本記事では「ガストロノミーツーリズム」
の軌跡について、紹介していきます。

まず言葉の意味から。
フランス語ではgastronomie
英語ではgastronomy
元々は、フランス発祥の言葉です。

ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン、
という人がいました。
1755年~1826年の人。
ルイ十六世の絶対王政、フランス革命、
ナポレオン、そのあたりで生きた人です。

フランス革命直前に代議士となりますが、
その首に賞金がかけられてしまい、
スイス、次いでアメリカに亡命。
ヴァイオリンも上手で
ニューヨークで第一奏者を務めたこともある。
じきにフランスに戻り、
パリの裁判所の裁判官になりました。

この人のエピソードとしては
「炭水化物を食べ過ぎると太るよ!」
と呼びかけたことが挙げられます。
糖質制限のはしり、かもしれない。

1825年、死ぬ二か月前に出版されたのが
その著書の一つ『美味礼賛』です。
正式名称の直訳は
『味覚の生理学、或いは、
超越的美食学をめぐる瞑想録、
文科学の会員である一教授が
パリの食通たちに捧げし
理論的、歴史的、時事的な書物』。
…ちょっとラノベっぽい。
長過ぎるので、略して、美味礼賛。

「…で、ガストロミーは?」

はい、サヴァランさんは
この著書で
食を学問的に体系化しているのですが、
ここで彼はガストロノミーの定義をした。
「食べる」ことだけではなく、
「生産から消費までの過程で
美味を探求する原動力」
と定義したのです。

ギリシア語の「ガストロニミア」
「gastronomia」が語源。
「胃袋(gastro)」と「規範(nomie)」から
作られた言葉だ、と言われています。

17世紀前半から、すでに使われていた
この「胃袋を支配する」という言葉を、
彼自身の知見において定義し直して、
「フランスの食『文化』」として
根付かせていった、とも言えます。
それもあって、19世紀~20世紀には
ガストロノミー本が盛んに出版されていき、
フランスの食文化とはこうだ!どうだ!
と世界に紹介されていった…。

「元はフランスの食文化なんですね!
でもそれが、なぜツーリズムと
結びついたんですか?」

それは、世界には様々な「食文化」が
あることが徐々に知られていったからです。

1980年代頃からヨーロッパでは、
観光産業団体を中心にして、
「ワイン」や「郷土料理」といった
食の魅力を観光の中心に据えていく
『ガストロノミーツーリズム』
打ち出す業者が増えていきました。

そう、世界各国、各地域の
『ガストロノミー』、胃袋の規範を
「旅する」ことがブームになったんです。

日本で漫画『美味しんぼ』が
連載し始められたのが1983年。
このブームに歩調を合わせた、とも言えます。
(ちなみに『孤独のグルメ』が
うんちく満載の美味しんぼと差別化して
連載開始をしたのが1994年です)

「なるほど、ヨーロッパの旅行・観光業界が
始めた一種のブームが、
日本でも『食通』『美食』『グルメ』という
言葉とともに広がってきたのか。
…でも『食と旅を結びつける』なんて、
昔っからやってきたことでは?」

そうなんです。
旅に美味しい食事はつきもの。

しかし先述したように、
ガストロノミーは、ただ単に
食べる「だけ」じゃない。
時には食材が生産されるところを体験し、
食と地域がどうつながっているかを感じ、
「食を通して文化を楽しむ」のが、その根幹。

(『孤独のグルメ』では、それが
とてもうまく表現されているように思います)

日本での歴史を、紐解きましょうか。

1980年代、バブルの時代には、
「各市町村に一億円を配る」など
「ふるさと創生」が行われました。
各市町村で「地域振興プロジェクト」を行う。
特産品を発掘する
「一村一品運動」も盛んになっていきます。

1990年代には各地で「道の駅」が誕生。
売るだけではなく食べてもらう、
すなわち「農家レストラン」も出現し、
特産品や郷土料理の観光活用が盛んに…。
いわゆる『第1次食のまちづくり』です。

ローカルフードやB級グルメも生まれた。
喜多方ラーメン、讃岐うどん、
静岡おでんなど、地名プラス料理名の
複合名詞が生まれ、知られていきます。

そこから2000年代になると
「B1グランプリ」などが行われていきます。
ご当地グルメを「ブランド化」!
これが『第2次食のまちづくり』

2010年頃にはさらにシステム化され、
「食の街道」が各地につくられました。
そば街道とか、どんぶり街道とか、
特定の地域の飲食物を観光ルート化し、
マップやエリアをつくって回ってもらう。
『第3次食のまちづくり』とも言えます。

…ただここに一つ、問題があったんです。

本記事の最後で、それを提起して終わります。

それは、その都度「ブーム」が起こり、
悪い言葉で言えば「場当たり的」に
打ち出すことが多くて、
何十年という長いスパンをかけて横断的に
「食の観光文化」を地域に形成することが
行われにくかったこと
、です。

「ガストロノミーツーリズム」とは似て
非なる部分が多かった。

欧米では、例えば
「フードトレイル」という手法が盛んです。

生産部門(農業・酪農・加工・醸造等)と
ガストロノミー部門(飲食店)
観光・ツーリズム部門(お土産・諸施設)が
三位一体となって進めていく方法。
決して、各部門がばらばらに
進めているわけではない…。

ただの「フードツーリズム」から
「ガストロノミーツーリズム」に変えていく。
いかに横断的、複合的に
地域全体が協働できるような形で
構築していけるかどうかが鍵。


それにすでに成功している地域があります。
しかし、
どうもうまくいっていない地域もある…。

『「食」を通じて地域の魅力を掘り起こす』
施策には、歴史と地理と文化と将来を見据えた
広く深くの視点が必要だと思いました。

まさに「生産から消費までの過程で」
美味を探求する原動力
が必要、なのです。

…サヴァランさんの言葉を
引用して、終わりましょう。

『新しい一皿の料理の発見は、
人類の幸福にとって、
一つの星の発見よりも有効なものである』

※参考記事もぜひ。

※『食の街道』と『フードトレイル』の
比較についてはこちらを参考にしました↓

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jitr/29/2/29_75/_pdf/-char/ja

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