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【服部奨学生研究発表】 留学または移住における孤独感~文化的自己観との関連~ 【導入記事】

服部国際奨学財団では、現役服部奨学生やOBOG、役員理事の先生方が集まる公式行事の場で、奨学生による研究発表の場を設けています。今回は、3月17日 に開催される「2023年度服部奨学生修了式・第2回服部奨学生研究発表会」で研究内容を発表してもらう4名の服部奨学生に、それぞれ発表導入記事を執筆してもらいました。


 はじめまして。14期服部奨学生、奈良女子大学大学院2年の高麗コウレイです。出身は中国の山東省の威海市で、来日して7年目になります。

 私は学部時代から、在日外国人の日本における適応(adaptation)に関心があり、研究を深めてきました。学部の卒業研究では、女子大学生の在日外国人に対する接近回避について調査しました。修士論文は在日外国人の孤独感の関連要因に焦点を当てて研究を進め、執筆しました。

 卒業後は、公認心理師として、私のような来日外国人の心理的支援を行いたいと考えています。私の研究内容を通して、在日外国人の適応感や生活について、少しでも関心を持っていただくことなりましたら幸いです。

研究室にて

1. はじめに

 皆さんは、進学または就職のために地元から離れ、孤独を感じたことがありますか? 私は日本で生活するなかで、いつも「寂しいなぁ」と感じていました。その原因を探りながら、学部・修士での研究を進めてきました。

 2023年5月1日時点の外国人留学生数は約23万人(日本学生支援機構,2022)で、2023年末の来日外国人数は305万人になっています。なかでも、最も多かったのが中国からの留学生。先行研究では、中国人大学生は日本人大学生よりも、強い孤独感を感じていることが示されています(cf. Xie, Kawata, Kamimura & Shibata ,2021)。そのうえ、日本には「空気を読む」という文化があります。来日留学生、特に来日中国人は、日本での個人的生活と学校生活の面で母国と異なる文化に接触することにより、さまざまなハンディキャップを抱えており、孤独に陥りやすいのではないかと私は考えています。

 実際に、2007年6月、追手門学院大学に通う留学生が大学でいじめを受け続け、自宅のマンションから飛び降り自殺をするという痛ましい事件がありました。以来、来日外国人のメンタルヘルスを重視し、生活面だけでなく心理面でも援助しながら受け入れ制度を改善していくことが、社会の重要な課題となっています。

2. 文化的自己観

 社会心理学には「文化的自己観」という概念があります。文化的自己観とは、ある文化圏で生きる人間のあいだには、歴史的に共有された自己観があるという考え方です。

 皆さんも、日本は集団主義で、欧米は個人主義だという説を聞いたことがあるのではないでしょうか。この集団主義/個人主義と関連して、文化的自己観は、相互協調的自己観/相互独立的自己観に分かれます(cf. Markus & Kitayama, 1991)。

 つまり、集団主義的な文化圏(=日本)では相互協調的自己観が優勢であり、個人主義的な文化圏(=欧米)では相互独立的自己観が優勢であると考えられるのです。相互協調的自己観は、自己と他者との協調関係を重視するものであり、相互独立的自己観は、自己は他者とは区別されて独立に存在するものだと認識するものです。先行研究によると、中国北部は相互独立的自己観が優勢であり、中国南部は相互協調的自己観が優勢だと言われています。私は中国北部の出身で相互独立性が強いです。

 では、私のように相互独立的自己観が優勢な文化圏で生まれ育った人間が、日本のように相互協調的自己観が優勢な社会に留学または移住した際に抱える孤独感は、もとから相互協調的自己観が優勢な文化圏で暮らしてきた留学生・移住者と比べて、どのような特徴がみられるのでしょうか。当日の研究発表でお話しさせて頂こうと思います。

3. おわりに

 ここでは、留学または移住における孤独感と、文化的自己観の概念を簡単に紹介させていただきました。当日は研究結果を発表します。また、疑問に思った点も、当日質問していただければ幸いです。

 今回、服部奨学生として、「2023年度服部奨学生修了式・第2回服部奨学生研究発表会」での研究発表の機会を頂くことができました。皆様からの疑問や意見を頂ける良い機会で、非常に光栄に思います。また、私自身、大学院で心理実習や研究活動、就職活動を順調に進めることができているのは、服部国際奨学財団からの給付奨学金のおかげだと、日々感じています。

 奨学金によって支援して頂いたことで、お金だけではなく、十分な「時間」を得ることができました。おかげで、公認心理師試験にも打ち込むことができています。素晴らしい大学院生活を過ごせたこと、財団を通して多くの優秀な方々と出会えたことに、本当に心の底から感謝しております。3月で服部国際奨学財団を巣立ちますが、これからも優秀な服部国際奨学財団のOGという身分を忘れず、学び続けていきたいと思っています。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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