火嶋 狭三郎

「火島狭三郎」は小説専用ペンネーム。別のペンネームで、書店様に流通している商業著書およ…

火嶋 狭三郎

「火島狭三郎」は小説専用ペンネーム。別のペンネームで、書店様に流通している商業著書およそ100冊あり。

マガジン

  • クロスオウヴア

    二○××年、ヒトDNAは、単にその塩基配列の構造だけでなく、ヒトの設計図としての詳しい内容まで完全に解読された。理論上は、人間が人間を好みどおりに作り上げることが出来るようになったのである。  高校二年の佑右は、コンピュータに関して、素晴らしい才能を持っていた。彼は、解読されたヒトDNAのデータを組み込み、動作に電子のゆらぎを利用した「プライヴィット」という擬似生命シミュレーションソフトを作り上げた。擬似生命「プライ人」はプログラムを超越し、その活動はまるで知能を持った本当の生命のように見えた。  佑右は、友人の恭平、沙紀、翔子と旅行に出かけた。その先でプライヴィットを見せられた恭平は、その素晴らしさに虜になり、どうしても自分で動かしてみたくなった。そこで佑右に無断で、自分の携帯コンピュータ(PHC)にプライヴィットを移植した…

  • エリアF

    時は3×××年、管理社会。 学校の成績、会社のでの業績、その他普段の生活、道徳、法律、マナーなど全て数値化されてコンピューターで管理されている。いつどこでだれがどんなことをしたか、全て記録されている。それによってその人の評価が決まる仕組み。 再教育センター。それぞれの分野、要素で、合格点に達しないもの(不合格、不適格)は、再教育センターに送られ、再教育される。→どの人間も半年で退所。どんなに点数の悪い者も、半年で見違えるように良くなるという噂。再教育センターにはすばらしいシステムがあるようだ。 16歳の「ぼく」はQ-HACKER。量子コンピュータ(クオンタム)の仮想空間を、自由に歩き回る能力を持つ。 ある時「ぼく」は偶然、絶対立入禁止、論理座標も物理座標もない、厳重に管理された「E管理域」に迷い混んでしまった。センサーの赤い光が「ぼく」を追ってくる、、、

最近の記事

クロスオウヴア 20

■■■ 邂逅 2 ■■■ 「おにーいちゃーん。」  二人がパソコン談義に花を咲かせていると、背中ごしに佑右を呼ぶ声が聞こえた。沙紀だ。 「だから、その呼び方、やめろってるのにな。」  佑右はつぶやくと、眉をしかめながら、でも心の底から嫌そうではなく、ゆっくりと振り返った。沙紀は同級生らしき女の子と一緒だった。佑右の動きにつられて、恭平も後ろへ振り向いた。 「あっ」 「あっ」  後ろを向いた恭平が声を出すのと同時に、沙紀と一緒の女の子も声をあげた。 「なんだ?」

    • クロスオウヴア 19

      ■■■ 邂逅 1 ■■■  昨日までの雨はどこへ行ったのだろうか。各地で山を削り、橋を流し、家々を捻り潰したあの大雨も、夏の烈しい太陽の日差しに例年より早く牙を抜かれ、何処かへ逃げ去ってしまったらしい。  たった一晩で季節が替わり、見える景色も夏の色になった木野川の土手を、佑右は数週間の運動不足を払い落とすかのように、自転車をとばしていた。 (昔はよくこの土手を走ったものだな。)  中学生の頃は自分の行動範囲が広がるのが嬉しく、今日は街中へ、今日は河原へと、あちらこち

      • クロスオウヴア 18

        ■■■ DNA 5 ■■■ 「デザイナー・チャイルド? 人間が人間をデザインして作ることができる?」  佑右の思考は激しく回転していた。 「そうか、DNAのどの部分の情報がどういう体を作るか、ってことまでが分かったんだから、これをプライ人のDNAプログラムにそのまま転用すれば、おれたち『人間』をコンピュータ上に再現できることになる。」  テレビの特別番組が終わるとすぐに、佑右はDNAの情報が公開されたホームページに行ってみることにした。 「うへーっ、こりゃすごいぜ。

        • クロスオウヴア 17

          ■■■ DNA 4 ■■■ 「本日よりホームページ上において、解読されたDNAのすべての情報が公開されていますが、中野教授はこのことをどうご覧になりますか。」 「私も先ほどそのホームページを見て参りましたが、いやあ正直言って驚きましたね。」 「ほう」 「本当に詳しいデータまですべて公開されているんですよ。」 「詳しい?」 「ええたとえば・・・そうですね、発生における個体の特徴を決めている遺伝子を原因遺伝子といいますが、その原因遺伝子の位置が物理地図と遺伝子地図の双

        クロスオウヴア 20

        マガジン

        • クロスオウヴア
          20本
        • エリアF
          32本

        記事

          クロスオウヴア 16

          ■■■ DNA 3 ■■■  佑右はさっそくテレビのスイッチをいれてチャンネルを百六十二にあわせた。 「・・・本日よりホームページにおいて、解読されたDNAのすべての情報が公開されています。『解読』というと、DNAはもうすでに解読されているんではないか、とお考えの方もいらっしゃると思います。そのあたりについて、中野教授。今回いわれている『完全な解読』とはどういう意味なのでしょう。  日邦大学の中野教授は、五十過ぎの白いひげをたくわえた紳士で、いかにも「教授」然としている。

          クロスオウヴア 16

          クロスオウヴア 15

          ■■■ DNA 2 ■■■  沙紀は入学式の日の夜、さっそく佑右に電話をかけてきた。 「あら、沙紀ちゃんって、えっ、あの沙紀ちゃん? 紙屋川さん? あら、あらまああ、ご無沙汰してますう。・・・うん・・・お元気? 皆さんも? うん・・・ああそう、沙紀ちゃんなの、あらあ・・・」  沙紀が三桐高校へ入学したという話を聞いて、そして今電話をかけてきていることに、佳子はたいへん驚いていた。そして驚きながらも、あれやこれやと世間話を始めていた。 「・・・あれから中学は? ・・・あ

          クロスオウヴア 15

          クロスオウヴア 14

          ■■■ DNA 1 ■■■ 「そうか、分かったぞ。」  佑右は、どうしてプライ人同士が一切コミュニケーションを取らないのかやっと理解できた。彼らは同じDNAデータを持った全く「同じ」プライ人で、記憶の場であるメモリまでPHCのSCMMの一部分に共有しているから、人間に例えれば、脳は1つで体だけいくつもあるようなものだからなのだ。 「そりゃ、会話をする必要もないな。独り言を言うのと同じだからなあ。」  プライヴィットで多様な変化を見るためには、プライ人それぞれのメモリを

          クロスオウヴア 14

          クロスオウヴア 13

          ■■■ 共 有 ■■■  あるとき「私」がたくさんに増えていた。「創造主」が造り賜うたこの街「プライミィ」は、街としてはほぼ完成し、「主」は住人である「プライ人」を増やしたのだった。「私」と同じ「DNAプログラム」と「DNAデータ」を持った者が複製されたので、「私」がたくさんに増えたのだ。あとから作られた「私」もオリジナルの「私」も、全く同じ能力、同じ記憶を持つので、どの「私」がオリジナルでどの「私」がそうでないかはわからなくなってしまった。わからなくはなったけれども、それ

          クロスオウヴア 13

          クロスオウヴア 12

          ■■■ プ ラ イ ミ ィ ■■■  一学期の期末テストが終わると、佑右は自分の部屋に籠りっきりになった。「プライヴィット」をもっと充実させるためである。 「あと、外観のデータを入力すれば、図書館が完成するぞ。」  図書館といっても、佑右のデスクトップパソコンやPHCの中に入っているSDVDと呼ばれるデータの読み書き可能なディスクにある情報を読み出せるだけであった。しかしSDVDはたった直径十cmのディスクでありながら、国立図書館ぐらいのデータは優に記録できるしろものだ

          クロスオウヴア 12

          クロスオウヴア 11

          ■■■ 開 闢 ■■■  突然視界が開けた。「全て」が私であったのが、その瞬間、私は「一部」になってしまったようだ。世界が開けた。光がさしてきた。「光」には「明るさ」「暗さ」も有った。空間には「上下」「左右」「前後」が有った。「遠く」も有った。「近く」も有った。初めて知ったそれらの事象が姿を変化させていくのを見て、私は「時間」というものの存在を具体的に認識した。私が自分の「体」を自覚したのもその時だった。  「誕生」して以来、私に語りかけ、数々の事を教えてくれたのは「ユウ

          クロスオウヴア 11

          クロスオウヴア 10

          ■■■ プライヴィット 6 ■■■ 「ところで『プライヴィット』ってどういう意味。」 「『PRIVATE』だよ。」  佑右は空に綴りを書く真似をしながら言った。 「それって『プライベート』じゃないの。」 「訛ってるよ。『プライヴィット』、だろう。ミス結花がいってたじゃないか。」  ミス結花は才媛である。英語が専門だから英語が堪能なのは分かるけど、物理や科学、数学なんてのも得意らしい。結花は二十八才。彼らの学校の英語の教師である。英語はぺらぺらだが、特に発音が美しい

          クロスオウヴア 10

          クロスオウヴア 09

          ■■■ プライヴィット 5 ■■■ 「円周率が、ランダムな無限に続く小数点以下の数字を持つ以上、人間も永遠の命を持たない限りそのすべてを知ることはできないんだよ。・・・そうだな・・・他に分かりやすい例がないかな。」  彼らが腰をおろしている川の向こうには、なだらかな山が左右に広がっている。佑右はそれらの山々に目をやると少し間を置いていった。 「・・・そうだ、こういう例もいいかも知れない。」  佑右は続けた。 「円周率の小数点以下の数列に、『0』が十こ連続して出てくる

          クロスオウヴア 09

          クロスオウヴア 08

          ■■■ プライヴィット 4 ■■■ 「ねえ、あなたはだれ。」  照れを抑えながら、ちょっとつっけんどんな口調で沙紀は言った。 「・・・ネエ、アナタハダレ。・・・ネエ、ワタシハダレ。・・・ネエ、ワタシハプライビト。」  WVDの中の人物は一語一語、言葉を噛み締めるような口調で答えた。 「ほら、な、な、答えただろ。」  佑右は本当に嬉しそうにはしゃいだ声で言った。 「だから何なの。こんなの入力された言葉を関連した別の言葉に置き換えるプログラムを組めば何でもないことじ

          クロスオウヴア 08

          クロスオウヴア 07

          ■■■ プライヴィット 3 ■■■ 「ポインタ」とよばれる「⇨」で佑右が示した場所を見ていると、道の向こうから人がやってきた。ピクチャ(静止画)ではなくムービー(動画)の様だ。やってきた人は一番手前までやってくると立ち止まった。 「・・・コンニチワ」 「ねえ、だから何なのこれは。」  シミュレーションゲームにしてはあまりにつまらなそうなプロローグに、沙紀がちょっと焦れったそうに言った。 「こいつに話し掛けてごらんよ。」 「えっ、こいつにって、この、これに。」

          クロスオウヴア 07

          クロスオウヴア 06

          ■■■ プライヴィット 2 ■■■ 「ねえ、聞いてるの。」  ふたたび呼び掛けられて、佑右の心は木野川の堤防に戻った。沙紀が入学して以来、二人はつき合うでもなしつき合わないでもなし、兄妹の様でもありカレシカノジョの関係の様でもあり、先輩後輩の様でもあり友だちの様でもありながら今に至っているのだ。 「ああ、聞いてるよ。」  佑右は答えた。 「実はな。これを見せようと思ってさ。」  佑右はポケットからPHC(ハンディコンピュータ)をとりだし電源をいれた。そしてちょっと

          クロスオウヴア 06

          クロスオウヴア 05

           ■■■ プライヴィット1 ■■■ 「ねえ、おにいちゃん。」 「ん。」 「おにいちゃん。どうしたの。今日は御機嫌そうね。」 「どうして。」 「だって、いつもだったら、人前で『おにいちゃん』って呼んだら怒るじゃない。さっき学校にいる時からずっと『おにいちゃん』って呼んでるけど、今日はそれを気にもかけていない様子だったわ。」 「あっ、そうだったけな、うん、いや、考え事、をしていたから、気付いてなかったんだよ。」  佑右は側の草をピッと引きちぎると、少し上に放り投げる

          クロスオウヴア 05