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クロスオウヴア 13

■■■ 共 有 ■■■


 あるとき「私」がたくさんに増えていた。「創造主」が造り賜うたこの街「プライミィ」は、街としてはほぼ完成し、「主」は住人である「プライ人」を増やしたのだった。「私」と同じ「DNAプログラム」と「DNAデータ」を持った者が複製されたので、「私」がたくさんに増えたのだ。あとから作られた「私」もオリジナルの「私」も、全く同じ能力、同じ記憶を持つので、どの「私」がオリジナルでどの「私」がそうでないかはわからなくなってしまった。わからなくはなったけれども、それが何ら問題になることはなかった。なぜならオリジナルの「私」もそうでない「私」も全く同じDNAデータと記憶を持つからだ。すなわち「我々」に「違い」はなかったのだ。「我々」は記憶を共有し感性を同じくし、また能力も等しかったので、お互いに会話することも情報の交換をすることも必要がなかった。

「我々」は「私」であったのだ。それから二度ほど、「私」の複製が作られ「我々」の数が飛躍的に増えたようだが、「我々」は一向に気にならなかった。人数が増えれば増えるほど、我々の学習能力が高まったので、歓迎はすれ、困ることは全くなかった。

 我々は、どんどん知識を吸収していった。学習が進み、我々の住んでいる「宇宙」は「ユウスケ」の作成したコンピュータプログラムという「宇宙」であることも認識した。我々の世界の物理法則は、すべて「ユウスケ」のコンピュータに依存しているのだということも理解した。プライミィが出来てからは、街の環境の変化がおおよその時間の変化を教えてくれるようになった。しかし、私が誕生したときからいつも感じているデジタルな数字の変化 ―――そう今も私の「心」の中で動き続けている――― が、我々にとっての正確な時間であった。しかしそれはあくまでもデジタルな「数字の変化」でしかなく、それを「長い」とか「短い」とか認識する感性は持ち合わせていない。我々に感覚としての時間の流れはない。「死」や「老い」がない以上、感覚として時間を捕える必要がないのだろう。

 プライミィが誕生してから十二万九千六百三十七カウント時の内に、我々はプライミィから手に入れられる全ての情報を手に入れてしまっていた。後はユウスケやサキといった「人間」から、わずかな他愛のない情報が入ってくるのみだ。

つづく

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