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【企業分析】ここに着目!コンサルが見る財務諸表と重要KPI (全体像から貸借対照表まで)

企業の財務分析は、投資やファイナンスのプロではなくても知っておいて損はない知識です。主な対象者は、就職を控える学生、転職を考える会社員、個人で老後資金の投資先として株の購入を考えている方などが該当するのではないでしょうか。

この記事は上記のような専門家以外の方を想定して書き始めていますが、今後の会計・ファイナンスのことを学んでみようという方にとって、専門的な書籍を読む前の前提知識としても役立つのではないかと思います。

数回に分けて書いていこうと思いますが、初回は全体像と、貸借対照表の見方までを記載いたします。この記事を読むだけでも、企業の見え方が変わってくるのではないかと思います。

財務諸表を作るための知識と、読むための知識

個人が外部から利用できる財務の情報としては、財務諸表というものがあります。財務諸表は「貸借対照表(バランスシート、B/Sとも呼ばれます)」、「損益計算書(プロフィット・ロス、P/Lとも呼ばれます)」、「キャッシュ・フロー計算書(C/Fとも呼ばれます)」の三表からなります。

財務諸表は上場企業であれば企業のホームページから「IR資料」を辿って行けば見ることができます。また、一元的にみるということではEDINETを利用することもできます。

私たちのようなコンサルタントは、専門領域がどこであれ財務諸表を理解することは必須です。また、その財務諸表を理解する中には、「作るため」の知識と「読むため」の知識があります。

会計コンサルタントでなくとも、企業経営に影響を与えるような領域でコンサルタントをしているのであれば、財務諸表を「作るため」の知識も知っておくべき知識です。ただし、より汎用的で誰もが出来れば知っておくべきなのは、財務諸表を「読むため」の知識になります。

会計とファイナンスの違い

財務諸表を作るため、また用いての活動として、会計とファイナンスがありますが、これらは混同して考えられがちです。

財務諸表をテクニカルに「作るため」の知識が必要になるのは、会計の方です。会計は活動実績を記録し、開示、報告及び企業内部での管理に用いるという側面から、"過去"にフォーカスをしています。

会計としての活動
・売上、利益、資産など金額数値をベースにした、企業の活動実績を記録
・開示や報告、経営管理のための数字を所定の方式でまとめる

会計の種類
・外部に開示・報告するための財務会計と、企業内部での経営管理のための管理会計に大別される

会計には大きく外部への開示・報告を目的とした財務会計と、企業内部での経営管理に用いる管理会計に分かれます。財務会計の中でも制度、非制度会計があり、制度会計の中に投資判断に必要な経営成績・財務状態の開示を義務付けたもの(証取法会計)、株主・債権者向けの報告のために全ての企業に義務付けたもの(会社法会計)、法人税法に基づき税務申告のために義務付けたもの(税務会計)の3つがあります。

専門家以外では、そういうものがあるという知識で十分です。特に個人が、外部から公開情報として利用できるのは、上場企業であれば証取法(金融証券取引法)に基づいた開示義務によるとご理解頂ければと思います。

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企業の人、モノ、金の動きを最終的どのような形で記録していくか、この全体の流れを業務プロセスと関連付けて俯瞰的に把握できるかどうかがコンサルタントとして"ものになる"かどうかの分かれ道です。これがコンサルタントが知っておくべき財務諸表を「作るため」の知識です。

総合系コンサルティングファームで、新卒社員に対して日商簿記検定2級程度の知識習得を義務付け、もしくは推奨することが多いのは、こういった理由からです。

一方で、ファイナンスではより総合的な知識、見識が必要になります。一言で言えば、ファイナンスの役割は「カネの流れをコントロールし、企業としての価値を高める」ことです。具体的には以下のような流れになるかと思います。

ファイナンスとしての活動例
1.事業に必要な資金を調達する
2.事業に必要な投資を行う
3.支払いなど資金繰りを行う
4.投資や事業から利益を計上する
5.利益を配当として株主に還元する

つまりファイナンスは現在から未来に向けての活動であり、言い換えるとファイナンスの結果として財務諸表で会計に繋がります。

そのため、ファイナンスのプロであれば、ファイナンスとしての活動がどう財務諸表に繋がっていくのかを理解したうえで、より能動的に財務諸表を読むことが必要になります。テクニカルな意味ではなく、戦略的な意味合いとして、将来の財務諸表を活動によって作っていく活動とも言えます。ですので、ファイナンスを仕事の道具として使っている方は、概ね基本的な会計の知識も持っています。

財務三表の繋がり

私たちが目にすることができる企業の財務諸表が、どういう位置づけ、性質のものかを説明してきましたが、ここから個人の立場で、外部から財務諸表のどこをどう読むと役に立つかを書いていきます。個人が財務諸表を「読むため」の知識です。

まず財務三表と大きなお金の流れを頭にいれてください。先ほどのファイナンス活動を、財務諸表それぞれに対しての影響・結果として記したのが下の図になります。

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貸借対照表を大掴みで読む

ここから本記事の残りで、貸借対照表の読み方を説明していきます。

貸借対照表は企業の決算日における財政状態のスナップショットです。英語ではバランスシート(Balance Sheet)といいますが、右側を総資本として「どう資金調達したか」、左側はその資金で「何を保有し、どう投資したのか」が記載され、右側の合計と左側の合計はイコールになります。

さらに、その右側の総資本は、株主から預かった純資産と、株主以外から調達した負債に分かれます。

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貸借対照表で見えてくるのは、企業の財政的な安全性と、事業構造です。

貸借対照表から企業の財政的な安全性を見る

資産の中で現金や、現金化がしやすいものが流動資産、現金にすぐにならない土地や建物、機械などが有形固定資産、買収に伴う"のれん(*)"など無形の価値を表すのが無形固定資産です。
(*) 被承継企業のブランド力や技術力、人的資源や地理的条件、顧客ネットワークなど、見えない資産価値。

ビジネスの形態によって必ずしも良し悪しではありませんが、企業の安全性を見るうえでは流動資産が大きい方が望ましいと言えます。

一方で、貸借対照表の右側には支払い順序で並べられており、原則一年以内に支払う必要がある流動負債、一年以上経過しゆっくり支払う固定負債、株主から預かっている純資産(資本金・資本剰余金、利益剰余金、その他)の順で並んでいます。

左側とは逆に、一番上の流動負債が小さく、下に行くほど大きくなれば安全性が高いとみなされます。ただし、特に昨今は低金利であることから、資本コストを考えれば支払利息より株主への配当の方がコストは高くなることと、金融機関との付き合いから、キャッシュリッチの企業でも無借金経営のような形にはしていない企業がほとんどです。

企業のファイナンス部門にいれば、どういった割合で必要な資金を調達するのかを、資本コストも加味しながら考える必要があるということです。

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安全性をみるという意味では、総資本における純資産の割合を見るのが一番簡便な方法です。一般的には自己資本率と呼ばれます。

自己資本比率=〔自己資本(純資産)÷総資本(負債の部+資本の部の合計)〕×100

自己資本比率が40%を超えているような企業は倒産の危険性はありません。一般事業会社の平均は30~40%といわれています。一方で、自己資本比率が20%を下回ってくると資本力が乏しいとみなされ、10%を下回る状態だと、かなり危険といえます。

ただし、先ほども書いた通り自己資本比率が大きければ大きいだけ良いかというと、そうではありません。トヨタ銀行ともいわれる超優良企業の代表格であるトヨタ自動車も、2020年3月期の自己資本比率は39%です。

貸借対照表からみる事業構造

貸借対照表から事業構造を紐解いていくときの例としてですが、左側の流動資産の比率が50%を超えるような企業はどういうビジネスを行っているのでしょうか。考えられるのは、運転資本が大きい企業、つまり日々の事業を運営するうえで大きな資金が必要な業態の可能性があります。大量の在庫を保有し、掛売で商売をしている、物流卸などがこれにあたるのではないかと思います。

あるいはキャッシュをためこんでいる企業もこれに該当する場合があります。安全性という意味ではよいことに見えますが、しっかり投資に回していない場合は投資家からはネガティブに受け止められる場合もあります。

それに対して、有形固定資産が50%を超えるような企業は、いわゆる設備投資型の企業に分類されます。鉄道事業や、賃貸中心の不動産会社などがこれにあたります。無形固定資産が大きくなっていると、多くの場合は企業買収を積極的にしている企業である可能性が高くなります。

貸借対照表の数字の意味を知るためのベンチマーキングと比較

以下の表では日用品、化粧品の製造業で、年間売上が1,000億円を超える企業を並べました。例えば日用品、化粧品業界への入社志望している就職活動中の学生の方が、企業の貸借対照表を見たときに、その数字の意味をどうとらえるかというシミュレーションです。

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数字を見る際には、その業界(ここでは日用品、化粧品の製造業)が、その他の製造業全般と比べてどういう状況にあるのかを見ます。次に、志望企業が業界の中でどういう特徴があるのかを見ていきます。

貸借対照表の資産から見ることが出来ること

まず資産のところで、日用品・化粧品業界全体として共通で見えるところは、流動資産の多さです。比率が一番低い資生堂でも43%、一番高いコーセーでは66%にものぼります。次回の損益計算書のパートでも触れますが、営業利益率が他の製造業に比べて業界全体で高いことはあります。それに加えて、消費財という特性から、見込み生産で化粧品・日用品の在庫を大量に持ち、取引先に対する売上債権を保有している事業構造が見て取れます。

有形固定資産も業界全体で、一定の比率になっています。どの企業も製造用の工場設備を有することから20%は超えていますが、その中でもファンケルの37%は突出してとまでは言えませんが、業界全体の中でみるとやや大きいようです。

ファンケルの決算報告資料を見ると、11,208百万円が当該会計年度における設備投資で、主なものは「マイルドクレンジングオイル」専用工場、サプリメント工場、関西物流センターの新設及び店舗の新規出店、リニューアルとあります。工場設備などへの投資も積極的にしているようですが、実店舗を構えているというビジネスの特色もあるようですね。

無形固定資産に目を向けると、資生堂の20%が他社に比べると大きいようです。資生堂の決算年月別での無形固定資産の推移を見てみると、2019年に165,406百万円から249,209百万円に増えているのが見て取れ、その期間のニュースを調べると、高価格帯スキンケアブランドを展開するドランクエレファントを約900億円で買収というニュースが出ていました。

資生堂といえば2010年にベアエッセンシャルを1,800億円で買収していますが、その後、減損処理という資産価値が回収できない見込みとなるときに、無形固定資産の価値を減少させる処理をしています。

また、まだ確定の財務諸表には反映されていませんが、資生堂が量販店向けの低価格帯事業を1,500-2,000億円で売却というニュースがありました。資生堂は必ずしも今までのM&Aはうまくいっておらず、事業構造の再構築を行っている最中のようです。

花王は15年ほど前のカネボウ買収が有名ですが、それ以降は比較的規模の小さい買収を行ってきているようで、無形固定資産の割合は14%にとどまります。2018年に少し増えていますが、これはヘアケアブランドのオリベヘアケア社、あと衣料用洗剤のウォッシングシステムズ社をそれぞれ数百億円規模で買収ということに伴うようです。

花王としてはグローバルでP&Gやユニリーバを追いかける立場にあり、特に海外では日用品の価格競争は厳しいようです。それに対して、規模で対抗していくというよりは、高付加価値であったり業務用というところに力を入れ、堅実にM&Aを進めていこうとしていることが見て取れます。

貸借対照表の総資本から読み取れること

次に貸借対照表の右側、一覧比較の中で言えば流動負債から下の部分で読み取れることを見ていきたいと思います。

まず業界全体で言えば自己資本比率の高さが、他の製造業に比べて圧倒的です。一番低い資生堂で40%ですが、コーセー、ファンケルが70%を超え、一番大きいポーラ・オルビスは83%です。コーセー、ファンケル、ポーラ・オルビスについては、金融資産も考えれば、実質的には無借金でも経営できる状態と見て取れます。

資生堂はこの中では比較的、自己資本比率が低く、有利子負債による資金調達も活用していることが見て取れます。営業利益率が当該事業年度においては、COVID19の影響もあり、かなり低く(1.6%)出たこともあり、純資産は前年度からマイナスでした。財務基盤は依然として固いとは思いますが、業界の中で見ると資生堂がやや苦戦している姿も浮かび上がってきます。

あと自己資本比率が高いので、どの企業も負債は多くはないのですが、そのなかでも流動負債の多さが目につきます。これは流動資産の多さの裏返しであり、売上債権として売掛金を認める一方で、仕入先に対しての買掛金、支払手形が発生していることから、事業構造としての特徴となっているところと考えられます。

貸借対照表から別表への繋がり

今回は財務三表の全体像から、貸借対照表の見方までを書いてきました。次回以降で、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書へのつながりと、公開されている重要指標を用いての企業分析について進めていきたいと思います。

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