【プロマネ】海外でのリーダーシップ研修 ~プロマネの資質としてのアダプティブリーダーシップ~
私のライフワークとして、プロジェクトマネジメントについて考えを巡らせています。こちらの記事では海外でのリーダーシップ研修での学びから、プロジェクトマネージャとして必要とされる資質に思いが至ったことを書いていきます。
GEクロトンビル研修所@ニューヨークのはずれ
"Hey, come on! Bring me an energy!" (おい、燃料持ってこい!)
私がGE(General Electric社)の社員だった頃、ニューヨーク州クロトンビルにある企業内ビジネススクールで、"VUCAワールドでのリーダーシップ"というテーマのトレーニングを受けたことがありました。
GEの中では、クロトンビルでの研修に選抜されるのは名誉なことらしく、E-mailで突然"Congratulation!"とメールが来るのですが、参加してみると地獄です。
VUCAは"Volatile"、"Uncertain"、"Complex、"Ambiguous"の各単語を繋げた造語で、元々は1990年代に軍事用語として生まれ、"Fog of war"、つまり戦場における不確定要素を表現するために使われていました。
Volatility - 変化の速度や乱れの大きさ
Uncertainty - 不確実性で、未来をある程度の確からしさで見通すことが難しい状況
Complexity - 物事の複雑さを表し、考慮にいれる必要のある要因の数、及び多様性とそのそれぞれの接続性
Ambiguity - 曖昧さ。対象を解釈する方法が明確でないことを指す。情報が不完全もしくは不正確、あるいは情報間で矛盾がある、などのことにより結論を導き出せない状況
私が受けた研修ではスペースウォー(宇宙戦争)的な世界観の中で、運営により意図的に不安定な状況(VUCAワールド)が作り出されていました。
受講者(幹部・幹部候補社員)は一様に圧倒され、ショックを受け、そのなかで官僚型の組織とは違ったチームを作り、リーダーシップを発揮するシミュレーション訓練を受けました。
他に座学の講義もありましたが、退屈なはずの座学が待ち遠しくなるような日々です。シミュレーション訓練では叫び声が飛び交い、負けたチームは変な格好で見せしめにあいます。
一緒に参加していた中国人で同年代の女性は、同じアジア系のNon nativeというところでシンパシーを感じて、お互いに励ましあってましたが、"I'm so overwhelmed. It's too tough for me."(圧倒されてるわ。もう耐えられないわ)と言っていました。
VUCA時代のリーダーシップ
クロトンビルでの研修時に、座学で使ったテキストは写真の"ADAPTIVE LEADERSHIP"という本でした。これはハーバードケネディスクールのハイフェッツ教授が書いたものですが、企業が直面する問題を二つの類型に分類しています。
テクニカル(技術的)な問題
今までのやり方で解決できる問題
"アダプティブ"(適応が必要)な問題
今までの成功体験が通用しない問題
実験的な取り組み、新たな発見、それらにもとづく行動の修正を繰り返さなければいけない問題
このアダプティブな問題を解決するためのリーダーシップについて書かれているのがこの本です。そしてのこのアダプティブリーダーシップが必要とされているのが、VUCAの時代というわけです。
そしてVUCAの時代には、主にテクニカルな問題に対応するオペレーションよりも、アダプティブな問題に対処するプロジェクトの方が割合が大きくなっていきます。さらに、AIなどデジタル革命が、人をオペレーションから遠ざけ続けてもいます。
プロジェクトマネージャの資質
ここで、プロジェクトの定義をおさらいしたいと思います。
プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務である。(PMBOK Guide Sixth Editionから引用)
プロジェクトの結果としてのアウトプット(プロダクト、サービス、所産)が独自であると書かれています。これは、プロジェクト自体についてもプロジェクト間で類似性はあっても、まったく同じプロジェクトは存在しないことを示します。
こうした前提をもとにプロジェクトマネージャの役割を考えると、プロジェクト間で一様に役割を定義することは不可能なことがわかると思います。そのため、スペシフィック(詳細、特定)な形でプロジェクトマネージャという役割を定義するよりも、プロジェクトの中で必要とされるマネージャ/リーダーとしての資質に着目するべきということが私の見解です。
そして、プロジェクトマネージャの資質は、マネジメントスキルとリーダーシップの二つに分解できると考えます。
このうちマネジメントスキルは、プロジェクトの種類やアプローチによって必要とされる知識、経験が変わってきます。例えばウォーターフォール型でのプロジェクトと、アジャイル型でのプロジェクトでは進め方や成果物等まったく異なります。
スクラムなどの方法論ではプロジェクトマネージャが、役割として必要とされていないアプローチもあります。(プロジェクトマネジメントの方法論については、また別の機会に紹介したいと思います。)
一方で、特定の人物のリーダーシップに依拠するか、シェアードリーダーシップかはプロジェクトによって変わると思いますが、リーダーシップの資質についてはプロジェクト間で共通性があります。
特にプロジェクトマネージャの資質で、参照する価値が大いにあるのが、ここまでで触れている、アダプティブリーダーシップです。
アダプティブリーダーシップの4つの主要原則
こちらでアダプティブリーダーシップに関わる4つの主要原則について紹介します。
1. 心の知能指数を重視する(Emotional Intelligence/Emotional Quotient)
2. 組織の公正性を保つ(Organizational justice)
3. 新しいことを学ぶ(Development)
4. 個性を持つ(Character)
一つ目の心の知能指数はEQとして、日本では理解されている方が多いと思います。アダプティブリーダーは自分自身と他者の感情を認識し、信頼関係を築き、質の高い人間関係を構築することが出来ます。
二つ目の組織の公正性について、アダプティブリーダーは他者の意見を尊重し、公正な文化をはぐくみ、人々が進んでポリシーを受け入れるような環境を作ります。
三つ目の新しいことへの学びについて、柔軟性を示し継続的な学習ができます。例えば従来の方法でうまくいかなかい場面で、アダプティブリーダーは新しい戦略、技術で組織の成長と発展に導きます。
最後に個性ですが、アダプティブリーダーは創造的で透明性の高い個性を持ちます。いつも正しく、成功するとは限りませんが、他者の敬意を集めます。
プロジェクトでのアダプティブリーダーシップ
プロジェクトの現場に出ている方であれば、この4つの原則に納得できるかたも多いのではないかと思います。この大切さは、とくにグローバルプロジェクトで感じることが多くあります。
多国籍、ダイバーシティの環境で、己を理解し、相手を理解し、違いを疎むのではなく尊重することで、プロジェクトの結果として起こる組織の変革を関係者間で共通理解とすることができます。
また、同質性を基にして察しあうのではなく、オープンに意見を交換し、明文化してフェアに意思決定を進めることで、活発な議論によるイノベーションの促進を生みます。
世の中の急激な環境変化と技術革新で、過去の成功体験はすぐに陳腐化しますが、実験と許容できる範囲でのリスクをとることで俊敏性をもって変化に対応することができます。
最後に、日本では個人の前に立場や役割が来ることが多いのですが、グローバル環境では対面する相手を個人として尊重することの大切さを感じます。人種、宗教や文化、母語が異なるからこそ、その人の背景で見るのではなく、個人同士のキャラクターについての理解が必要です。
なぜかというと、利害関係やレポートラインを基にした連携を、複雑に絡み合い、変化する状況下で機能し続けさせることは不可能だからです。難易度の高いプロジェクトであればあるほど、個人間の信頼関係を基にしたしなやかな連携がクリティカルになります。
だからそこ、肩書を持った自分ではなく、前置きなしで相手と信頼関係を築くことができる自分の個性が求められるわけです。
日本でしか通用しないやり方は、日本でも通用しなくなる
現状、これらはグローバル環境で必要性を痛感することが多いです。しかし、今後は日本国内の標準は競争力を失っていく(もしくは既に失った)のではないかと思います。
同質性をもとにする組織より、多様性を包含した組織の方が圧倒的に強いからです。つまり、アダプティブリーダーシップは、早晩、プロジェクトでのリーダーシップに普遍的な原則になっていくと考えています。
日本が経済大国として世界で存在感を示していた時代は、失われた30年とともに過ぎ去りました。ボードメンバーの大半を日本人男性が占める、日系のグローバル企業の経営力と、多様性を飲み込んでいる企業の経営力は、パフォーマンスという結果によってすでに勝負がついています。
国内で進めるプロジェクトも例外ではありません。多様性がある環境で生産性があがらないのは、誰のせいでしょうか?
我々、日本人のプロジェクトマネージャも意識を変えていく必要があります。
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