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怖い!評価と指導の一体化

怖い!指導と評価の一体化

一定の学習水準を保障するために具体的な到達目標を設定し、目標達成状況を評価する尺度を作り、その尺度を用いた評価と指導を続けて、学級の全員が目指す水準に達する(百点を取る)まで指導し続けるという理論と方法がある。「完全習得学習論」である。全員完全習得を目指して、全員が百点を取るまで解放されないというのは、怖い!

そこでは、指導と評価の一体化が重視され、単元の最初に診断的評価(テスト)を行い、途中では、学習一人一をきめ細かく評価し続ける「形成的評価(テスト)」を行い、学級の全員が完全に習得するまで指導が続けられる。単元の終わりの時間が来ると、全員が完全に習得していなくても、総括的評価(テスト)」をして終わる。

(1)診断的評価と形成的評価と総括的評価

その方法では、まずは単元の冒頭で「診断的評価(はじめの評価)」と呼ばれるテストを行う。診断的評価で、学習者のどこがどう足りないかを明らかにする。そして、その不足を補う指導をする。このテストで百点を取った学習者に対しては、その単元で指導することが無くなる。

百点以下の子には、達成できなかった(テストで正解できなかった)部分が、その後の指導課題となる。そして、その指導が続けられる。

その指導をしながら、単元進行の途中で、きめ細かく行う評価が「形成的評価(途中の評価)」と呼ばれる評価でありテストである。不足するところは学習者によって異なるので、形成的評価もそれに応じる指導も、学習者一人一人によって異ならざるを得なくなる。そのように、学習者の不足点(弱点)を補う評価と指導を続けて単元の終わりまで、全員が満点を取ることを目指して、評価と指導が繰り返される。学習者にとっては、単元の始めから終わりまで、自分の弱点を突き付けられ続けることになる。おお、怖い!

その単元に使える時間には限りがあるので、時間が来れば単元は終わる。その終わりの時点で行う評価が「総括的評価(終わりの評価)」である。仮に、「総括的評価(テスト)」で、全員が百点を取れてなくても、次の単元に進む。学ぶべき事柄がほかにもあるので、次の単元に進まざるを得ない。

(2)完全習得学習論の欠点

完全習得学習という指導論は、一言で言うと、足りない点を見極めて、足りない点に対する集中的指導を繰り返して、足りない点を無くすという指導論である。それは、この評価即教育法の長所でもあるが、同時に、欠点でもある。その短所を列挙すると次のようになる。

欠点1:単元冒頭に行われるテスト(診断的評価)で百点を取った学習者には、学習目標が無くなり、指導者も何をどう指導すればよいかがわからなくなる。

欠点2:単元の途中で、個々の学習者に対して行われるきめ細かなテスト(形成的評価)を通して、学習者の不足点に注意が集中する。もっと具体的に言うと、途中で行うテスト(形成的評価)で達成されたと認定された課題はその後の学習課題にならず、未達成と認定された課題に対する集中的指導がなされる。そのために、常に不足点(短所や弱点)に焦点が当たることになる。

欠点3:単元末のテスト(総括的評価)で、まだ百点が取れていないときは、与えられた時間内には達成されなかったと結論付けられて終わる。次にはほかの単元が予定されているので、次の単元に進まざるを得ない。だから、全員完全習得は現実には達成されない。よほど低い達成目標を作成すれば別であるが、それでは、なんのための完全習得学習論かということになってしまう。

欠点4:教師が用意した到達目標に応じる評価尺度しか用意されていないので、想定外の学びを評価することができない。最悪の場合は、想定外の学びに気付く感性さえ失ってしまう。これが最大の欠点。

(3)完全習得学習という方法が役立つ場合

完全習得学習という方法が必要で役に立つのは、自動車運転資格授与というような特定の目的に限って、必要最小限の知識・技能・態度を評価し指導し評価して資格を授与するというような場合に限られる。ほかの資格試験や入学・採用試験なども同様である。

しかし、多様な個性と多様な成長可能性を備えた子どもたちの学習と成長を助けるために行う教育には、完全習得学習論はふさわしくない。というのが私の教育観であり、評価観である。

(4)天井知らずの学習指導論

教育には、これと正反対の立場もある。それは、一人一人が、自分なりに成長することを大切にする教育観である。その特徴は、学習者一人一人の現状を肯定的に受け止め、一人一人の長所に着目して、それがどこまで伸びてもよいとする立場である。到達目標のレベルを限定しないので、どこまで伸びても終わりがない。いわば「天井知らず」の評価観であり学習観であり指導観である。どこまで伸びなくてはならないという課題が無いので、ほんの少し伸びるだけでも、それはプラスに評価される。到達目標に照らしていちいち評価したり、テストしたりすること必要もない。だから、「指導と評価の一体化」なんてことは意識されることもない。だから、怖くない。

こういう評価観に立って、私は、近著『国語を楽しく』を書いた。
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