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ハナニアラシノタトヘモアルゾ

  ハナニアラシノタトヘモアルゾ、
  「サヨナラ」ダケガ人生ダ。
は、于武陵(うぶりょう)による漢詩「勧酒」の井伏鱒二による名訳として名高い。
 この翻訳の原作に相当する部分は次のようである。(カッコ内は書き下し文)
  花発多風雨(花ひらけば、風雨多し)
  人生足別離(人生、別離足る)
 私から見ると井伏による日本語訳は、翻作の名品ということになる。
 翻作は、「翻作」と呼ばれないで、これまでも行われてきた。戯曲「白野弁十郎」は、フランスの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の翻案である。
 外国語からの翻訳だけでなく、日本の古語で書かれた古典の現代語訳も、私から見ると翻作による作品の一つである。例えば『源氏物語』の現代語訳はたくさんあるが、そのそれぞれに現代語訳者独自の表現性が表れている。
 先人の名作を書き写したり書きかえたりして作家修業をすることも、翻作学習の一種である。
 同様の方法による学びは、絵画や彫刻、音楽や演劇、舞踊、書道や華道、武道、陶芸その他の工芸分野などで行われてきた。
学校教育でも、物語を絵本や紙芝居にしたり、文学作品を読んで感想画を描いたりする活動が、以前から行われていた。
 文学史をざっと眺めるだけでも、翻作に分類される作品がたくさん見つかる。日本で「はだかのおうさま」として知られている童話は、アンデルセン作「皇帝の新しい服」(一八三七年)をもとにして作られたものであり、その「皇帝の新しい服」は、スペインのドン・フアン・マヌエルによる寓話「いかさま機織師と王様におこった話」の翻案である。
 太宰治の「走れメロス」の末尾には「古伝説と、シルレルの詩から。」と記されていて、もとにした作品の存在を太宰自身が認めている。
 芥川龍之介の小説「藪の中」 は、『今昔物語集』の中の説話をもとにして作られたものである。
 挨拶状や依頼状などを作成する際に、手紙文例集に収録された文例の語句や内容をかえて自分の原稿を作ることが行われてきたが、それも翻作の一種である。
『国語を楽しく』第4章「翻作のすすめ」参照。
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