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思い出の廃列車

幼い頃、訳あって俺たち兄弟は離れ離れに暮らしていた。年に一度か二度遠く離れた弟に会いに行くのが唯一の楽しみだった。

車を持たない祖母と二人、呉から列車で広島駅に着くとそこからはタクシーに乗る。街中を抜けやがて西広島バイパスへ。当時はまだ合併も進んでなく五日市町から廿日市町へ繋がる屋代トンネルの入り口の上に目をやると廃列車がオブジェの様に置いてある。

そこを抜けると左手に宮島が望め、弟の住む地御前はもうすぐそこだ。

「ひできにいちゃん!」大きな声の方へ目をやると弟が笑顔で走り寄ってくる。久しぶりに会う弟は少し大きくなり、俺の肩の辺りまでだった身長もそれを越していた。久しぶりに弟と過ごすひととき、時間の差がたくさんの話題を用意していた。他愛もない話だが心の底から楽しくて温かい。だがそれも束の間…あっという間に日が沈む…

また会おうね…

幼い兄弟が再開を誓う…涙は見せない。タクシーのリアガラスから姿が見えなくなるあのカーブまで身を乗り出し手を振る

何故だか夕日が滲んで見えた…



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