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ハリガネムシって知ってる?

日差しが突き刺すある夏の日のことである。
私はY氏とともに某河川へと訪れていた。

結論から伝えよう。
これは川で遊び、ハリガネムシに操られたカマキリを目撃するまでの
壮絶な一日をつづったものである。

・・・

熱気と陰気が立ち込める自室の隅。
吐き捨てられたガムのように、
窓の冊子にへばりつく私の姿がそこにはあった。
冊子って冷たくて気持ちがいいなと、夏のカケラを感じていると
スマホが鳴った。

「昼杉さん、川に泳ぎにいきませんか。」

8月27日。私の夏がはじまった。

激流に征し、生き残った漢の勝利のポーズ

私である。

もうメッチャはしゃいでる。

川の流れに身を任せて空を眺めてるの超~~~~、気持ちいい!!
無限に浮かんで流されたい。冷たくて気持ちいいいいいいー---!!!!!
さよなら重力。グッバイ心労。全てから解放される幸せな時間。仰向けに流されてると、空を飛んでるツバメが見えるの。あー、地球はちゃんと回ってるなと。世界は今日も平和だなと。

持参したサンダルが、川に入った瞬間に両靴とも真っ二つに引裂かれたことなんて、忘れてしまうほどの心地よさ。

シュノーケルで川を覗けば、そこにあるのはお魚天国。もう無限にお魚が泳いでる。え、その辺の川でもこんな生物に溢れてんの、って。マジびびるで。水族館レベル。水中カメラが欲しくなる。

こちらは石をひっくり返すと現れた平たいムシ。

硬そうな見ために反してぬるぬるとスムーズに石の表面を動き回る。どうにかして剥がして指につけてみると、ピタッと離れない。吸着力がすごいとか、くすぐったいとかそういう次元の感覚じゃない。俺の一部としてそこにいる、決して他人事ではないが、気になるわけでもない、そんな薄くも確かな存在感。滑らかなドーム状のフォルムと密着力で川の流れに抗い、石という己の居場所から離れないという固い意志を感じる。石だけに。太陽に透かして見るとものすごく奇麗なので、ぜひ試してほしい。

晴れ渡る青空。唄うツバメ。行き交うお魚。
爽やかな風と、さらさらと心地よい川の音。
素晴らしい自然に癒される最高のひと時。

「川 石の裏 平たい虫」
で検索するとその正体が判明した。
ヒラタドロムシのなかまである。

特徴としては『少しきたない水』に生息するらしい。

衝撃的な事実に絶望するなか、
川から上がるとカマキリが私たちを待っていた。
待っていた、というのは前述の、川べりに置いておいたサンダルに、真っ二つに引き裂かれたサンダルの上にカマキリが鎮座していたからである。

あぁ~癒される、と眺めていると何やら様子がおかしい。そのまま、のそのそと水辺に向かっているではないか。

これはアレか。とY氏と共にニヤリと見守る。

虫に詳しくないパンピーの諸君も聞いたことはあるだろう。

───ハリガネムシ。

水中性の虫だが、どういうわけか、陸性のカマキリなどの昆虫の体内に寄生し、カマキリを操り水辺に落とす。そしてまた水にかえる。

ざっくりとしたサイクルとしてはこんな感じ。

水の中で卵がかえる  →  幼虫が水生昆虫に寄生する  →  寄生された水生昆虫が羽化する  →  その昆虫がカマキリ(など)に食べられる  →  そのままカマキリに寄生する  →  カマキリを操って水に落とす  →  いつの間にか大人になってるハリガネムシがお尻から出てくる  →  水に帰り交尾して卵を水の中に産む  →  [最初に戻る]

いやー、ハリガネムシ自体は身近なのよ。その辺に落ちてるカマキリを拾って、お尻を水に付ければハリガネムシがニョロニョロ出てくるのよ。なんとも形容しがたい異常な光景。
水に浮かんでるカマキリのお尻からニョロニョロはみ出してきてるのも見たことある。気を付けていれば割と日常。

だけど、リアルタイムでカマキリが水に向かって歩いているのを見るのは初めて。フラフラと吸い寄せられるように川の水面みなもに吸い込まれてく。

結構怖いよ!!!!!!!!!

なんだろう、この異質な感じ。生物として超えちゃいけないラインを超えてる感じ。普通じゃない光景で不安になってくる。波に打たれながらも前に進んでいくってなんなんだよ。怖いって。

そしてお尻だけ水に浸けて一旦落ち着きました。

このシーンの何がすごいって、ふつう、水に飛び込んだり流されたりするんだよ。お尻だけ律義りちぎに水に浸けることなんてないからね。

このままの体制で数分少々。落ち着いたのかカマキリは陸地に戻っていきました。

壮絶な一日でした。

それからというもの、
川の安らぎと多様な生物に魅了された私は
水辺を見るたびに潜りたくなります。

これは果たして……

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