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詩と小説

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ぽつりぽつりと落ちた言葉を集めては歩く。 かたりかたりと睡魔の声で紡がれる物語。
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#小説

透明な妹と、透明な私

私には透明な妹がいる。
姿は見えないし、何歳なのかも分からない。
ときどき、名前や存在を忘れてしまうことさえある。

ただ確かなのは “ 妹が最近産まれた ” ことだけ。

いつの日にも “ 最近産まれた ” と思っているせいで、今でも妹を0歳だと思ってる。
でも、もしかして、もう幼稚園に上がるくらいにはなったのだろうか?
それともまだ、言葉も覚束無いよちよち歩きの女の子なのだろうか。

他にも一

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短編小説『 読書家の夫婦 』

ダイニングの椅子で向かい合って小説を読んでいた妻が、パタンという音と共に深いため息をついた。

「ダメね。私、不感症になっちゃったんだわ。」

俺は手元のミステリ小説から目を離さず、ソファの背もたれ越しに生返事をする。
今、ちょうど良いところなんだ。

「ねえ、ちゃんと聞いてよ。私が2年前くらいに読んだ小説、あったじゃない。ほら、“蟻がナントカ”っていう。」

「“蟻が溺れた日”?」

「そう、そ

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