透明な妹と、透明な私

私には透明な妹がいる。
姿は見えないし、何歳なのかも分からない。
ときどき、名前や存在を忘れてしまうことさえある。

ただ確かなのは “ 妹が最近産まれた ” ことだけ。

いつの日にも “ 最近産まれた ” と思っているせいで、今でも妹を0歳だと思ってる。
でも、もしかして、もう幼稚園に上がるくらいにはなったのだろうか?
それともまだ、言葉も覚束無いよちよち歩きの女の子なのだろうか。

他にも一応、透明ではない弟が二人いる。
彼らはともに過ごした2、3年ほどの時間が僅かばかり濃厚で、だから存在を知っている。
ただやっぱり彼らについても、年齢や誕生日は分からない。
親戚のおばさん、って、こんな気分なのかな。

私が家を追われた頃、その年かその次の年か、いつだったか忘れたけれど彼女は産まれた。
私が家にいる間に彼女の母親がすでに妊婦であった、という記憶はないから……もしかしたらその次の次の年だったのかもしれない。

「妹が産まれるよ」

彼女の母親からそう連絡を受けたか、私の父親からそう連絡を受けたか、もう忘れてしまった。
ただ、そうなんだ。妹が産まれるんだね。おめでとう。そう思った。

でもそれきり。
それきり、お腹の中の妹を見に行くわけでもなかったし、妹が産まれる日に立ち会ったわけでもなかったし、産まれてからすぐ会いに行くこともなかった。
だから年に数回程度の、用事でやむを得ず家に入る日にだけ妹を見た。
彼女が産まれてから……まだ5回も会っていないのではないだろうか。

そうして妹は透明になった。

だけどそれは彼女にとっても同じこと。
親から、私の存在……姉の存在を聞いているのかどうかは知らないけれど。
きっと彼女にも、透明な姉がいるのだ。
まだ顔もよく分からない、名前しか知らない、透明な姉が。

もう少し大きくなった彼女は、私のことをどう思うのだろう。
家族を家族と思っていない姉の存在に、心痛めて悲しんだりするのだろうか。
私は弟を、妹を、悲しませてきたのだろうか。
それとも私のことは誰も考えておらず、何の負担にもなっていないのだろうか。
出来ればそうであって欲しいな。
身勝手だけれど、私は自由に生きていたいから。

だから私は……
不透明な弟たちと、透明な妹、彼らが健やかに大人になっていけるのを遠くから祈るだけだ。