「システム思考」で描くグランドデザインなしで、イノベーションは実現しない
新規事業創出は、特にボトムアップ型のアイデア創出から始めると、矮小なものにおさまる傾向が高い。
「顧客の課題からだ!」「顧客の声を聞け!」というデザイン思考の歪んだ原理主義者がサポーターについてしまうと、矮小なアイデアになる傾向が顕著に出る。
もちろん「新規事業」なのだから「最初の一歩目がミニマムであるべき」ということに異論はない。むしろ最小限のコスト、最小限のリソースで始めることになるのだったら、「ミニマムでしか始められない」と言ったほうが正しいかもしれない。
しかし同時にそこで「そのミニマムはあくまで一歩目である」ことを十二分に意識することが大切だ。何のために事業を作るのかというパーパス、顧客をどんな未来に連れていきたいのかというビジョン、社会にとってどんな使命を持っているのかというミッション。それらを体現し、実現するための「一歩目」である、と。
その意識を持っていれば、一歩目から導かれる二歩目、三歩目と展開を思い描き、その先で実現するグランドデザインを思い描くことができる。顧客、事業者、ステークホルダーの全てを取り囲む「システム」としてのグランドデザインが自然と描けるのだ。
デザイン思考の歪んだ原理主義者は「顧客は顕在化している課題にしか答えられない」ことを忘れがちだ。フォードの言葉を借りれば「私が顧客に何が欲しいかと尋ねたら、もっと早く走る馬が欲しいと言ったことだろう」。
いくら顧客に尋ねたところで、顧客の口からは「認識している今の課題」のことしか出てこない。それと真摯に向き合うことも重要で、それを知らないというのはナンセンス。しかしそれに固執しては、矮小なアイデアにしか辿り着くことはできない。
顕在化している課題なのだから、当然取り組む人たちも多いレッドオーシャンだ。差別化は価格しかできないのだが、無理に機能で差別化を図ろうとしてしまう。そうして課題はあるが誰も使わないプロダクトが出来上がる。
一歩目は「顧客の顕在化している課題」から始めても構わない。しかしその先で「顧客の潜在的なニーズ」を推定し、それを叶えた世界としての顧客がたどり着くべき未来としてのビジョンと、そこで実現する事業の全体像としてのグランドデザインは、起案者(起業家)が自ら描く必要がある。その答えは顧客の中にはない。
グランドデザインなしではじめる「ミニマム」は、矮小なサービスで、誰も見向きもしない。まるで一昔前の学生ベンチャーのような事業案に落ち着いてしまうだろう。
グランドデザインとビジョンは、起案者(起業家)が今の世の中のファクトと徹底的に向き合った結果、「なんでこういう世界ではないのだ」というシステムを妄想で描き、それを実現していない社会に忸怩たる思いを抱え、なんとしてでも実現するのだという情熱を燃やすことを、新規事業の、イノベーションの起点とすべきだ。
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