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【台湾建築雑観】SC造とは?

台湾にはSC造という、日本では聞き慣れない構造形式があります。これはSteel Concreteの略語で、日本でいうところのCFT造に相当するものだと考えています。しかし、日本の建築技術者の視点でこのSC造を見ると、CFT造と異なった点も数多く感じます。

日本のCFT構造

CFTというのは、"Concrete Filled Tube"の略称です。日本語では"コンクリート充填鋼管構造"と呼ばれる様ですが、この言葉はこの記事を調べる際に初めて知りました。建築設計の現場ではあまり使われていないですね。

普通の鉄骨造の建物は、地震や強風の際に横揺れが激しく、居住性が良くないという欠点があります。これは、オフィスを設計する場合には大きな問題とはなりませんが、住宅を設計する際には、致命的とまではいかなくとも、住む際の快適さをある程度損なう問題です。
僕は、新宿の超高層ビルの上の方の階で地震に遭遇したことがあります。建物がゆらりゆらりと横方向に揺れているのを体感すると、船酔いにかかった様な気分になりました。鉄骨造の高層建物は、居住者にその様な印象をもたらす恐れが十分にあります。

鉄骨造の建物のこの様な欠点を補うために工夫されたのがCFT造です。
これは、鉄骨造の横揺れを抑えるために、鉄骨の柱の中にコンクリートを充填するというものです。鉄骨造そのままでは、地震の際の横揺れに対して、それに逆らわず柳の様に揺れて受け流すわけですが、鉄骨の柱の中にコンクリートを充填することで、その変形を大きく低減することができます。

CFT造のメリット

CFT造のメリットは他にもあります。
鉄骨造とコンクリート造のハイブリッド構造にはSRC造もあります。これは、鉄骨造にコンクリートを充填するのではなく、コンクリート造の構造体に鉄骨を補強材として組み込むという発想です。
この場合は、基本的にはコンクリート造なわけで、鉄骨のフレームの外側に、型枠を組み鉄筋を配筋してからコンクリートを打設します。中心に鉄骨を置いた状態で、鉄筋を配筋するというのは、とても手間がかかる作業です。
このSRC造と比べると、CFT造は基本的に鉄骨造の柱の中にコンクリートを充填するので、配筋工事も型枠工事も必要ありません。コンクリート工事の面倒な部分を大幅に削減できます。

僕は、前職で大学の校舎の建物を設計した際に、このCFT造の建物を設計し、工事監理業務に臨んだことがあります。ですので、CFT造の際に設計がどの様になっており、それを具体的に工事現場ではどの様にして処理しているかを知っています。
これは、RC造ともSRC造ともS造とも異なる、とても独特な工法です。しかし、どちらかというとS造に近いものです。S造の柱を鋼管(Tube)にして、その中にコンクリートを充填(fill)する。そうすることで、S造の欠点を補完するというのが基本的な考え方です。

台湾のSC造

さて、台湾のSC造です。

僕は台湾で、ある住宅設計の打ち合わせで、初めてこのSC造の提案を受けました。これは、高層住宅の案件が、その高さが高すぎて普通のコンクリート構造では剛性が足りないため、SC造を採用するという話でした。
僕は、日本ではこのSC造という構造形式のことを聞いたことがなかったので、それはどういう構造なのか建築師に聞いてみました。そうしたところ、これは、"Steel Concrete"の略称であるとのことでした。鉄骨の鋼管の中にコンクリートを流し込む工法と説明を受けました。
それを聞いて、僕はこれは日本でいうところのCFT造と同じ工法であると理解しました。鉄骨柱の中にコンクリートを充填するのだから、日本のCFTと同じことだと考えたのです。
いったんはその様に理解したのですが、ディテールを詳細に見てみると、日本の考え方とは少なからず異なっていることが分かってきました。

実際に建てられたSC造の建物

コンサルタントの仕事の一環として、台湾の倉庫の建物を視察に行ったことがあります。
日本では、倉庫の建物は鉄骨造で建てられていることが多いと思います。柱間のスパンを大きくとること、そして建物の階高が高くなる建物のため、また工期の短縮も図れるため、鉄骨で計画することのメリットが大きいからです。台湾での倉庫の建物を見る際に頭の中では、この様な建築の知識はありました。しかし、そこで見た倉庫の建物は、日本の鉄骨造ではなく、上に説明したSC造の建物でした。

実際の建物の様子を見たところ、柱スパンを大きくとる、階高が高いというのは日本の倉庫と同じでした。空間のイメージは日本と変わりません。
しかし、明らかに違った部分があります。それは、壁です。壁がRC造になっているのです。これは、どういうことだろうとあちらこちらを見て回りましたが、全てというわけではありませんが、多くの主要な壁面がRCになっていました。

例えば、次の様な箇所がRCの壁になっていて、鉄骨の柱と直接取り合っています。

  1. 倉庫の室内間仕切り壁:これは鉄骨の柱の外側に直接長大な壁として施工してありました。日本の工事の様に、構造スリットで構造フレームから切り離されているわけではありません。斜路スロープなどで見ると、二層にわたる壁面が構造スリットも亀裂誘発目地も一切なく、一つの面として施工され、モルタル補修の上塗装仕上げとなっています。

  2. 外壁パラペット取り合い:建物全体の外壁は金属パネルとなっていました。しかし、これを取り付ける足元の部分は、コンクリートによる1m程度の立ち上がりになっています。そして、この立ち上がりは鉄骨柱の側面にとりついているのです。日本であったら、この様な場合立ち上がりは鉄骨柱の外側に設け、鉄骨とRCのパラベット間に隙間を設ける様に設計します。しかし、その様な配慮はなされていませんでした。

  3. 車路スロープ:倉庫を上に積み重ねている形式の建物でしたので、トラックを走らせるとても大きな回転半径のスロープがありました。このスロープも、床面と立ち上がりの部分全てがRCで作られていました。そして、鉄骨の柱とはパラペットと同じ様に、縁を切って設計するのではなく、鋼管の柱の側面に直接とりついている形になっていました。

これは、日本のCFT構造で設計する場合とは大きく異なっています。日本のCFT構造は、基本的に鉄骨造の発想に立ち、RC工事の部分はできうる限り排除する様に設計します。それは、この工法が鉄筋と型枠を使わなくて済むというメリットを最大限に生かすということと、鉄骨造の建物は乾式工法を採用して、建物の各部が地震による変形に対し、柔軟に動く様に設計するという原則に基づいています。鉄骨造の建物の中にRCの壁が存在しないのと同じで、CFT構造の建物にもRCの壁は存在しないものなのです。

壁の処理の問題点

台湾のSC造では、壁の工法に関するこの様な厳密さはない様に思われます。この視察をした倉庫は、比較的古いもので、恐らく20年以上前の建物でしょう。同じ日に視察した、竣工したばかりの倉庫は、日本と同じ様に鉄骨造、完全な乾式工法で施工されていました。ですので、今の倉庫はこの様なSC造は採用されていないのかもしれません。そうであれば、倉庫においてはSC造の中にRCの壁が混在するという、日本人的には非合理的な設計はなされていないのかもしれません。
しかし、前出の住宅案件においては、SC造であるにも関わらず、壁に乾式工法は採用されていませんでした。外壁は、上記の倉庫と同じ様に普通のRC造で計画されています。これは、日本の常識では不適切な設計です。

とは言え、この構造計画に対する厳密性というのは、台湾では一般のRC造であっても日本ほどではありません。日本では、RC構造であっても耐震壁と非耐震壁を区別し、非耐震壁については構造スリットを設けて、壁面のうち3面を構造フレームから切り離して施工する様にします。台湾ではこの耐震壁と非耐震壁の区別が曖昧で、全てが150mmの厚さの壁で設計されており、構造スリットとも設けられていません。日本では、度重なる地震の被害の経験から、地震の際のRC構造の変形による不具合を克服するために考案され、現在標準的な工法として採用されています。しかし、台湾では非耐力壁は構造スリットで縁を切るという設計はなされていないのです。

その伝でいくと、このSC造における鉄骨柱と壁の取り合いの問題も台湾ではそれほど厳密に配慮されていないと思われます。また、現実問題として鉄骨柱内にコンクリートを充填した構造フレームとしたことで、柱の変形が大幅に抑えられるという効果があり、これまでの地震でも、その部分に変形が起こって破損するという被害が起こっていないのかもしれません。
現状では、このSC造の建物の竣工数が限られていて、この様な施工法をとっていても大きな不具合は起こっていないのでしょう。

台湾におけるこのSC造に対する理解と現状は、この様なものです。日本人的には腑に落ちない部分が多数ありますが、台湾国内でのこの構造形式への理解と工事の対応がその様であるならば、それを受け入れざるをえません。


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