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本気のデジタル人材育成には 新たな「学習開発デザイン」と「コミュニティ」が必要

ここ1、2年で「DX人材」や「デジタルスキル」という言葉を頻繁に見聞きするようになりました。超デジタル時代の今、官民問わず「学びなおし」や「リスキリング」の重要性を訴えています。

例えば、デジタル人材を「25年度までに175万人育成を」と掲げる自民提言や、「デジタル人材育成へ税制優遇」に向けて2022年度税制改正を提言する新経連などが、今年の5月にほぼ同じタイミングで提言を出していることからも、官民揃って新たな人材開発に向けて同じ熱量を持っていることが伺えます。

一方、この点における今現在の日本の実力はどうでしょうか?

日本の「デジタル競争力」は過去最低の28位

私が毎年楽しみにしている報告の中に、IMDが発表する「デジタル競争力ランキング」があります。今年6月の最新版によると、日本は昨年の27位からさらに順位を下げて28位となりました。

評価項目を細分化して見ると、顧客や従業員の声を聞きデータに基づいて意思決定し、完璧さよりもスピードを重視する【ビジネスの俊敏性】の項目が昨年に続いて依然として低いままです。また【人材】の項目では、国際経験に乏しく、デジタル技術のスキルも低いことが要因となっていることも昨年から変わっていませんでした。グローバル人材デジタル人材に加えて組織としての俊敏性の向上が引き続き課題です。

人材開発のあり方の抜本的な変革が急務

今年2月に発表された、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」によると、3割の企業が人材育成・能力開発の方針を定めていないことも報告されています。人材開発の重要性は誰もが認識しているものの、しっかりとした方針や戦略が無い中で、流行りの外部の研修プログラムを会社が従業員に受講させたとしても、従業員本人は「理論は分かった。それで?」という感覚のまま日常業務に戻ってしまうのがオチでしょう。こうした点からも、不十分な学習デザインにより学びに対する人材のモチベーションが下がってしまわないような工夫が必要であることが分かります。

人材開発の領域においてはL&D(Learning & Development)という分野がありますが、多くの日本企業ではこの言葉や概念が本当の意味では十分に浸透していないのが実情です。どちらかと言えば外資系企業の日本子会社の人事領域に関わる方には比較的身近な言葉となっており、日本企業とグローバル企業の間でL&Dに対する理解度に大きな差があります。

L&Dとは簡単に言うと、従来の人事部主導の研修カリキュラムを従業員たちが「会社から受けさせられる」受け身のスタイルから、従業員「自ら学ぶ」ための環境やコンテンツをデザインし従業員のアップスキリングやリスキリングを継続できるように、一人一人が自己開発において、いわば能動的に自走できるような仕組みや学習コンテンツを開発する専門分野です。そこには「学び」に対しての組織内のバリューやカルチャーの生成までもが含まれ、学習開発のオーナーシップを従業員個人にも持たせつつ、戦略的な学習デザインを展開してゆくことが含まれます。

こうしたL&Dの浸透が日本において急務なのはなぜでしょうか。

まず、従来のトップダウン型の教育研修が功を奏さない理由として、覚えておきたい点がいくつかあります。

1.環境は「激変」することを前提としておく

これまでのビジネス環境は、物事がある程度予測可能な環境と言えましたが、VUCA時代や超デジタル時代と言われ、何事においてもグローバリゼーションが高速で展開される今日、段階的な変化ではなく急激な変化が頻繁に発生するようになりました。特にCOVID-19のパンデミックで人類はそれを痛感しました。また破壊的ビジネスモデルの頻繁な出現により、ベストプラクティスの短命化が生じており従来の前提条件が突然通用しなくなることも珍しくなくなりました。そうした中で、いかにアダプティブでいられるか、つまり個人や組織として適応力を高く維持できるかが重要になっています。

環境変化


2.スキル形成は「組換え自由」が大前提になる

周囲の環境の変化が比較的ゆるやかに生じて来た間は、スキル形成のあり方は「経理」や「人事」と言った自身の職種に応じたナレッジベースの積み上げ型の学びや、資格取得が主流でした。しかし、今では様々な新しいテクノロジーやアプリが日々登場する中、それらの変遷スピードに応じて新たなテクノロジーのクイックな習得と、それを自身の職務領域で活用できるよう自ら深化させる力が求められます。さらに、アップスキリングのみを意識するのではなく、時にはスキルブロックの入れ替えまで含めた頻繁かつ素早いリスキリングも求められるのです。私は個人的にこれを「レゴ型」から「ルービックキューブ型」のスキル形成と呼んでいます。

スキル形成

そうしたスキル形成を実現させるには、こまめにいつでも気軽に学習コンテンツにアクセスできることが不可欠です。

3.日常業務からの離脱時間を徹底的に圧縮する

日常業務から離れたクラスルーム形式では、連続した学習体験の維持が難しくなる場合が多く、学んだ内容や事例の「賞味期限切れ」も生じやすいという現実があります。また、人事部からトップダウンで指定された研修カリキュラムであったとしても、自身の日常業務を脇に置いて現場をしばらく離脱することにはかなりの心的ストレスを感じるものです。むしろ、様々なデジタルフォーマットで最新のナレッジやノウハウにアクセスできるデジタル環境と、比較的短いバイトサイズの動画学習コンテンツをこまめに活用することの方が有効になります。つまり、学びに「行く」のではなく学びが学習者の手元に「来る」ことを常態化させ、日常業務の最中に簡単に学べることが重要です。

学習スタイル


4.「学び」と「適用」がセットの学習デザイン

従来の人事部主導のトップダウン型の研修から脱却すべき理由としてさらに大切なことがあります。それは「学び」が「適用」へと変換されない学習体験です。言い換えると、常に「現場」の特異性が「お勉強」で得た内容よりも優位に立つ傾向があり、「聞いても業務には役立たない」という判断が研修に参加した従業員の中で早々に生じてしまい、学習意欲を刺激しないということです。そのため「学び」というインプットは学習者自身が普段やっていることのイメージとパズルのように組み合わされることで「適用」というアウトプット、いわば実践の場で効果を発揮できることが極めて重要になるわけです。

学びと適用


5.コミュニティの共創と継続的なソーシャルラーニング

とりわけ日々忙しいビジネスパーソンにとっての学びなおしには、フォーマルラーニングを10%、インフォーマルラーニングを90%程度にすることが効果的と言われています。フォーマルラーニングとは、リアルまたはバーチャルなクラスルーム形式での座学やカリキュラムに沿って体系的に進めるコースなどを指します。

一方、インフォーマルラーニングとは、比較的自由なスタイルで学習者の都合に合わせて好きな時に好きな量だけ学ぶ方法です。代表的なものはオンデマンドラーニングが挙げられます。学習のためにすべての作業を一旦やめるという方法ではなく、いわばこうした「ながら学習」ができる割合を増やすことが重要です。

超デジタル時代と言われる今日では、「ながら学習」の極みとしてソーシャルラーニングほど学習者に負荷をかけず且つ自然と新たな知見を浸透させるものはありません。このソーシャルラーニングの場こそが、「学び」と「適用」の間のギャップを埋めるのに非常に重要になります。

学んだことが自分の組織外でも通用するためには、同一のナレッジでも様々な人々との交流を通じて新たな適用や実践の仕方に触れることが大切なのです。組織の垣根を超えたピア・ラーニングやピア・ティーチング(仲間同士て互いに学び合ったり教え合う事)が生まれることで、いわば趣味を共有するような感覚で新たな学びを得てゆくというやり方です。

現在、日本でも従業員のウェルビーイングの充実のために週休3日制を導入している企業が増えてきています。こうした企業の中には従業員が個人の自己成長に資するような仕方での時間の有効活用を奨励しています。こうした企業が相互に人材交流を促進する学習コミュニティを共創できるならその効果は計り知れないものになります。

ラーニングコミュニティ


日本のグローバル&デジタル人材の競争力を本気で高めるためのエコシステムを共創する

現在世界中で取り組まれているSDGsの4番目には【教育】が挙げられており、すべての人に生涯学習の機会を促進することが含まれています。

この記事でお話した内容をこれまで数カ月の間、人事の専門家や事業開発や組織開発の専門家など、各方面の有識者の方々とオープンな意見交換を続けて来ましたが、日本企業の人材開発の在り方について皆さん同じ問題意識を持ち、また解決に向けて動き出そうという志を持っておられる方ばかりでした。

こうした背景から、X世代・Y世代・ミレニアル世代と言われる現在20-40代のメンバーが中心となって今年9月に一般社団法人L&D協会(略称はJLDA、読み方はジェルダ)は発足しました。協会の定款の「目的」にはこうあります。

「この法人は、人材の学習・開発に関する調査、研究及び発表を通じて、日本企業におけるグローバル人材及びデジタル人材の育成に資する高度な学習・開発システムの確立と普及を目的とする。」

この記事をお読み下さった方で、こうした理念に賛同下さる個人・法人の皆様とつながれますことを心から願っています。

皆様とのオープンな意見交換やお問い合わせを歓迎しています。このコラムで紹介した図表やその他の説明を分かりやすくまとめた協会概要の入手をご希望の方も含め、お気軽にご連絡下さい。

【資料請求・取材・お問い合わせはこちらまで】
一般社団法人L&D協会(英文名:Japan L&D Association)
〒102-0093 東京都千代田区平河町1-6-15 USビル8階
050-3138-4697
info@l-d.or.jp
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