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How to Discuss a Case (その2)

ディスカッション中のリスク

前回翻訳のつづき)ケース・ディスカッションが行われる教室に座っている生徒たちは、その誰もが何らかのリスクに晒されている。個々人の状況によってそのリスクレベルに違いはある。

・教室で使われれている言語が母国語ではなかった場合、ネイティブスピーカーに比べ、議論の流れにうまく乗れないと感じてしまう。間違った言葉を使い、発音も正しくできないまま発言をして、クラスメートにその内容が理解されないのでは、と怖れ、自分は笑われ者になってしまうので無いかとすら思ってしまう。

・ジェンダーに関連する話題が上って発言しづらくなる時、あるいは自国の慣習や文化とは相容れない価値観について(暗黙の了解の中)ディスカッションが展開する場合、外国人学生が発言する際のリスクは高まる。間接的に、あるいは比喩を用い、明言したり断定しないよう上手に言葉を選べる生徒はいい。外国人生徒は言語から文化、人種、時に国家間の問題にも気遣った言い回しが必要になり、縦横無尽な対応が求められていると感じる。

・ビジネス経験が少なかったり、ビジネスとは関連のない分野を学生時代に学んだ後に入学することもあり、それが不利になっていると思ってしまう。

上記のような状況に自分が陥ったと思った時は、実は他の多くの生徒も似たようなことを感じている時である。直面するリスクをマネージする効果的な方法とそうでない方法があるので、まずは後者に注目してみる。

リスクを減らす: 間違った方法

ケース・ディスカッションに臨む際は誰しも教室で価値ある発言をしたいと思っている。講義中にとっさに考え発言することはなるべく避けたいと思っている。以下のようにすればそれは防げるか。

コメントを詰め込んで臨む

講義中にインパクトのある、クオリティ高い発言ができるよう、ケースの中身をリストアップする。このリストはケースに書かれているファクトを端から端まで列記してあり、講義中にどんな話題が出てきても対応できるので魅力的なリストとなっている。

あなたはクラス・ディスカッションに貢献できる元ネタは持ったと、自信を持って教室に入っていく。しかし講義を重ねるにつれ、ディスカッションは想定外の方向に進み、リストに当てはまるものに一向にマッチしない。そしてやっと自分の思っていた通りにディスカッションの流れが進む。話の流れに沿いながら目でリストを追っていく。しかし不幸なことに他の生徒に先取りされるか、ディスカッションに上手く合わせられないーそれでも自分の準備していたリストの内容をアドリブで調整するのをためらい、結果、自分が最も避けたかった状態に陥る;意見が出せないフラストレーションが溜まり、思わず議論の流れを無視して自分が用意していた意見をそのまま発言しようとする。それで発言したとしても、自分はしっかり準備して価値ある意見を用意しているので、クラスが自分のコメントを追随していってくれるだろう、と。挙手して当たったらその意見を述べる。上手く言えたとは思うが、台本を読んでいるようなコメントに聞こえる。

講師はこれに対して何の反応もしない。表情には出さないが、少なくとも印象に残った発言を聞いたようには見えない。クラスメートも至って静かである。いや無反応過ぎるくらい静かだ。次の生徒の発言が、元々されていた議論のポイントに戻していく。講師はそのコメントに反応し後押しをする。あなたのコメントはスルーされたままに。

ハーバード・ビジネス・スクールのある生徒は、この状況を端的に言い表す;「タイミングの悪い時に発せれる素晴らしいコメントは、最悪のものになります」

スピーチ

講義中のリスクを減らすもう一つの方法として、スピーチ原稿のようなものを用意することだ。これは一見すると、上記のようにポイントをリストアップするのよりリスクは少ないように見える。何か一つ重要な事項を見つけそれについて一定時間コメントできるような原稿を書く。原稿があるので、ケースに書かれているファクトや根拠について迷うこともなく、そして発言の途中に言葉を探すようなことにもなりにくい。しかしここで難しいのは、それを実行する絶好のタイミングを見つけることだ。そして現実には、そのようなタイミングが訪れることはまずもってない。しかし、考えてみるとこれは必ずしも不幸なことでもないのだ。なぜならどんなにうまくやろうとしても、用意してきたスピーチはそのようにしか聞こえないから。

様子見

様子見、とは、リスクを減らそうとすべくクラス内の議論の様子をしばらく観察して、慣れてきた頃に参加するというやり方である。観察する中で議論の進み方、講師の特徴などを掴もうという作戦である。


しかしながら、上記作戦を遂行した時に、発言しない時間が長くなっていけばいくほど議論に参加しづらくなっていく。自分が発言をする基準を高く設定していて、それにとらわれているとさらに事態は悪化する。例えば、ケースファクトを述べる発言をするという、基本的かつ有用な発言のオプションを排除する、という基準を設けていたりすると、さらに不味いことになる。

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リスクを減らす: 正しい方法

ケースメソッドでは、どうしても一定の緊張感や苦痛を伴う。二千年の昔、ソクラテスは鋭い質問と容赦の無いロジックでギリシャの生徒たちを苦しめていた。ケースメソッドは、講師も含め、全ての参加者に何らかのリスクをもたらす。あなただけがその状況に陥っているのではなく、全参加者が共有していることは認識すべきである。リスクには、ネガティブな側面だけがあるわけではない。ケースメソッドが求めるハード・ワークへのモチベーションになっている。

とは言いつつも、リスクを過剰に意識すると怖れが生じ、怖れは聞く力を削いで発言する自信を奪い取る。発言しないことは、的外れなコメントよりダメージが大きい。ハーバード・ビジネス・スクールのMBAカリキュラム・ディレクターは言う、「沈黙していること、が変なメッセージを発信してしまう」

早めに発言をする

ケース・ディスカッションにおける最も貴重なアドバイスはこれだ;できるだけ早く議論に参加すること。早いタイミングで参加することで緊張を減らし、自分にとって現実的な貢献目標を設定できるようになる。議論へ参加すること自体がラーニングである。生まれながらに優れたケース・ディスカッションの参加者であることなどはないのだから、早めに参加してどうしたらそうなれるかを学習していくことだ。

しっかりと準備をする

あるケースの議論が多岐にわたるものであれ、それらが認識できれば各ポイントについて準備するのは不可能ではない。本当に議論に貢献するには全体を掴みかつ柔軟に対応できるような準備をすることが肝要だ。(ケース分析については、How To Analyze A Case を参照。得てして惑わされてしまうケース内容への抵抗力が付く)

教室に入る前に何を知っておくべきか?

以下は一つの理想的状態だ。

あなたはケース内容を理解し、主たる議題について自分なりの結論に達している。そして一定のエビデンスを用いて自身の結論を理論武装している。もれなく他の選択肢も吟味してあり、自分の意見がなぜ好ましいかも考えてある。

あなたは自分のアイディアを持っていくだけではなく、それを裏付ける特定のエビデンスを持っていたいだろう。もしケースから定性的な、そして定量的なエビデンスを抽出できるなら、両方を提示したい。驚くことに、いくつかの最も基本的な計算(試算)をしていくだけでも、素晴らしいクラスの貢献になるということだ。

MBA卒業生の一人が、数字を使うことによって、ケース・ディスカッションにおける自分の役割を認識できたと言う;

ひどく驚いたことに、みな走り書き程度の簡単な計算すら行うことなく自分たちの意見を述べていたことだ。そんな時、きわめて簡単な計算だがそれを議論の中に投げかけてみた。すると議論の流れをドラスティックに変えることができた。

現実世界がそうであるように、いかなるケースにも完全な情報、完全なデータが含まれていることは無い。どのケースにもかなりの曖昧さがあり、グレーなエリアがある。それを知った上でケースの主たる議題に対してどんな類推ができるか考える。

教室内であなたが推奨する意見とそれを裏付ける議論について、じっくり説明できる機会が与えられることは、ほとんど無いことだろう。しかしながら、ケース内の決断・問題・下された評価などについて理解しようとする作業、エビデンスとなり得る情報の吟味と整理、そして数々のエビデンスをどう分析に結びつけるか、を考えるこれらの準備作業が、ケースの深い理解へと導き、教室でいかなる議論が展開されようともそれに適応できる知恵を授けてくれることになる。

その3へつづく

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