見出し画像

How to Analyze a Case

多くのビジネス・スクールで教材として使用されているものに、「ケース(Case)」と呼ばれているものがある(10-20ページの、実在する企業が直面した課題・問題を記した教材)。Harvard Business School Press から出版されている"How to Analyze a Case"(どのようにケースを分析していくか)と、"How to Discuss a Case"(ケースを使ってどのように議論していくか) の二つの著作よりエッセンスを要約した。学校、企業などでケース・ディスカッション(企業の事例を分析しながら一定数以上の人員で討論する)を行う際の参考になればと思う。

How to Analyze a Case:どの様にケースを分析していくか

<A> 考えることが読むほど以上に大事

ケースはページを追って熟読すれば良いというわけではない(通常の教材とはここが違う)。どこを読めばCase Question(ケース教材を用いて討論する際の”問い”)のヒントがあるのかは、簡単にはわからないように作成されている。

ではどうするか。まず、ケースを読む前にCase Questionを頭に入れて自分の思考プロセスを始動させておく。次にケースを読みながら読んだ内容について”問い”と照らし合わせる作業をしていく。そして問いに対する答えのヒントを探し出す。それらのヒントがすでに”問い”に対する答えの一部になっている場合もある。

ケースを熟読することだけで答え(ここでの答え、とは自分の考えた答えである)は形成されない。ケースを分析する際の主たる活動は、ケースをよく読むことだけでは達成されない(だからと言ってよく読まなくてもいいというわけでもない)。ケースは自分自身が思考するプロセスの中で参照する道具の一つに過ぎず、自分の思考への意味づけをするものに過ぎない。

<B> ケースの中に繰り返し登場してくるシチュエーション

(1)企業の課題に関するもの
(2)意思決定(判断)に関するもの
(3)戦略・パフォーマンスの評価に関するもの
(4)定量的分析に関するもの

必ずしも全てがこのカテゴリーに入るわけではないが、大抵の場合に何らかの形で当てはまる。そして以下でこれらの状況にどうアプローチしていくかの記述があるが、ここに書かれていることが必ずしも唯一の方法ではない。どんな状況のケースかを意識して分析に取り組むことの一番の効用は、ケース・スタディとは何であるか?を各々が考えているところにあると言えよう。

(1)企業の課題に関するシチュエーション

”課題”や”問題”と言うと、様々な定義や解釈がある。しかしケースの中に出てくる企業の”課題”というのは、(1)意味のある結果ないしパフォーマンスが出ており、かつ(2)その結果やパフォーマンスについてケースの中では明確に説明されていない、ことである。企業が課題を抱えている状態とは、何か重大なことが起こったがなぜそれが起こったかがわかっていない状況を示す。

時に成功していることが課題になるケースも存在する。果たして成功なのか、成功の定義とは?などについて議論を促すようなケースである。
企業課題の分析をする際にまず行うのは、課題を定義(特定)することである。多くのケースでは、課題は明示的に記述されてはいない。起こりうる結果や想定されるパフォーマンスを、課題の根本原因と考えられるものと結びつけ説明できるようにする。この時、組織やオペレーション・マネージメントの観点から説明することは有用である。

(2)意思決定(決断)に関するシチュエーション

ケースには、明確な意思決定を求めるシチュエーションが多々ある。社内の意見が二分していながらも1週間後に判断を求めるケースもある。明確な意思決定は重要だが、様々な影響を考えると、明確な意思決定に必要な材料はケースを読むだけでは見えてこない。意思決定の範囲、結果、そして提供されるデータはケースによって様々である。
時には製品リリースに関してであったり、企業合併に関する決断、事業拡張のための資金援助の判断、さらには一国の大統領が貿易協定を結ぶか否かの決断を迫るケースもある。いずれの場合も意思決定の際に、以下のようなステップが必要である。
・決断のオプションを挙げる
・決断のクライテリア(判断基準)を明確化する
・決断の裏付けとなるデータ・事象を集める

意思決定のシチュエーションを分析する上で大事なのは、クライテリア(判断基準)を明確化することである。しかしそれは、ケースには直接記載はされていないので、文中から探り出したり理論を当てはめてみることにより分析していく。判断基準は意思決定の裏付けをする。例えば、ある自動車会社のケースでは、顧客価値が決断基準となっていた。その場合、顧客価値に応じて意思決定をしていく事になる。一方、判断基準は一つである必要もないため、意思決定も必ずしも正解が一つに絞れない時もある。

(3)戦略・実行等に対する評価を行うシチュエーション

パフォーマンス、行動、事業価値や効果を評価することを求められるケースがある。評価の対象は個人であったり、特定のグループであったり、企業の一部門、国、あるいは複数の国にまたがる地域だったりする。

例えば新任CEOのパフォーマンス評価を求めるケースがある。企業の競争的位置はCEOの意思決定とマクロ経済が複合された結果なので、複合した結果を評価の対象とするかどうか、意思決定のケースと同様、評価の基準を決めることが重要である。これら基準は、ケースの情報をもとに様々な手法を用いて考察する。例えば、ケースに記載されている会計的な指標が年々悪化していても、その国の経済事情が停滞していたら、実は競合よりも良いパフォーマンスを発揮していると言える場合もある。評価基準と市場環境・競合状況との結びつけで考えることも大事になる。

評価に際してはプラス面とマイナス面の双方を加味する必要がある。リーダーにも各々強みと弱みがあるので、双方を認識することでより正確な(公平な)評価ができる。大きな決断を下したけれどもそれに対する評価には時期尚早な場合もあったり、個人がコントロールできる範囲外の出来事(本社の介入等々)に評価が影響されることがある。

(4)定量的分析を求めるシチュエーション

NPV(正味現在価値)やキャッシュフローを計算する場合には一定のルールがある。それらルールは一義的に定められていて、議論の余地はない。ただしその前提となる数字や予測に用いる数字は任意に選ばれたものである。

会計的分析における計算法則は一つしかないが、計算結果の解釈は一様ではない。エコノミストが同じ数字を見ても異なる結論を出すのと同じである。業績の会計分析をした時、一人の幹部は戦略が上手くいっていると解釈しても、他の幹部が業績が悪化している見ることもある。つまり、数字によって自動的に経営者の判断が決まる、ということはない。会計分析は企業の健康状態を表し、国の戦略はマクロ経済の状態が示唆を提供する。企業の買収・売却の際には企業価値試算の手法を用いるのは必要不可欠である。ケースに記載された状況を踏まえて、会計学で定められた手法を用いて数字を試算することが肝要である。

スクリーンショット 2021-09-07 19.38.28

<C> ケース分析のプロセス

本章に書かれているプロセスは、ケース・ディスカッションの準備をより効率的かつ生産的に行うためのものである。
ケース分析におけるプロセスの鍵は、”アクティブ・リーディング”にある。アクティブ・リーディングとは、”問い”を持ちながら読むことであり、”目的”を持って読むことである。もし目的を持たずにひたすら読んでいる自分に気づいたのなら、一旦読むのを止めて一呼吸(ひとこきゅう)おくことである。
そしてアクティブ・リーディングは、繰り返し読むことでもある。読むたびにその目的は変えていく。読む度に異なる情報を求めたり、一回読み取った情報を異なる視点で解釈してみる。以下の3つがアクティブ・リーディングに貢献する;ゴール、視点、仮説。

(1)分析のゴール
分析のゴールを決める、と言うと自明のことのように思うかもしれない。しかし、ケースを理解する、というゴールでは曖昧すぎる。ゴールについて考えるということは、ケース準備をどのタイミングで終了するのか?を考えることと同じである。どこまで何をやるのか?というゴールがないと、読んでいる間に時間だけが過ぎてしまう。

以下はゴール設定した際のいくつかの例である;
・ケースから引用できる情報をまとめ、自分のものにする
・ケースの主たる課題について自分なりの結論に到達する
・自分の結論を論理的に裏付けるエビデンス(情報等)を揃える
これらのゴールの中から複数を組み合わせて限られた時間の中で消化していく。決まった時間を設定してみる- 例えば2時間-と設定しその中で上記ゴールについて把握したことをまとめる。限られた準備時間を有効に使うため、自分にいい意味でのプレッシャーを課すには優れた方法だ。

(2)視点
ブレない分析をするためには、ケースに出てくる主人公にまずは没入してみることである。彼/彼女の身になってみること。主人公の強み・弱み、責任、見えていないポイント(ブラインド・スポット)も含めてその身になってみる。主人公が直面するジレンマ(課題)を細かに把握する。なぜこの人はこのようなジレンマに陥っているのか?という問いは、主人公に没入するためにはいい問いである。

(3)仮説
主人公のジレンマを解決するための一つの有効な手立ては仮説を立てることである。仮説は、ケース内容に対して自分の確固たる意見を提示するものである。

例えば、主人公が採用したある社員を評価するケース・シチュエーションがあったとする。非常に有能であり、同時に同僚を排除してでもとにかく自身のビジネスを追求するクセのある人物だったとする。この時、この社員には欠陥があれど高い評価(報酬)を与える、という仮説を立てたとする。この仮説が成り立つことを検証するには、事実や事柄をケースから抜き出し高評価できることをしっかりと裏付けする論理を見つけないといけない。と同時に、別の観点からは低評価になってしまうことも言えるようにしておく。

ケースは好き勝手な仮説を立てることを許しているわけではない。ケース内容から類推できない仮説は、有効な仮説とはならない。そしてケース内のエビデンスから立てられる仮説にはいくつかのバリエーションがある。ケース内のエビデンスに基づいた妥当でかつ安全な仮説に対して逆張りしたポジションの仮説を立てることもできる。この場合、参加者のほとんどが気づかなかったケース内容からの引用により、ディスカッションに大いなる刺激を与えディスカッションが活発になることがある。

次回は分析したケース(企業事例)を元にどのようにディスカッションをしていくか、について述べる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?