見出し画像

【AI×IAシリーズ - 実務編】第10回:フィールドワーク/実地監査サポート

こんにちは、HIROです。私は現在シリコンバレーで「内部監査における生成AI活用」の研究とコンサルティングをしています。今日は「フィールドワーク/実地監査サポート」についてお伝えします。この記事では、現場ヒアリングや突発的な対応が求められるフィールドワーク中に、生成AIがどのように即時の要約や質問提案、翻訳を行い、現地で得た情報を組織全体の改善につなげられるかについて解説します。

本記事は実務活用編の第4回です。これまで、監査計画立案から質問準備、データ分析といった「オフィスサイド」での準備フェーズに注目してきましたが、今回は実際に現場へ足を踏み出す「その瞬間」でのAI活用に焦点を当てます。私自身、国際的な監査や複数部門が合同で参加する大掛かりな実地監査に携わってきましたが、その過程で感じた「突発的な変更への対応」や「言語面の障壁」をAIでどう解決してきたかを、具体的な事例を交えながらお話しします。

それでは、始めていきましょう。



1. 現場での「想定外」に備える生成AIの可能性

1.1. 計画済みでも起こる「その場」の変化

どんなに緻密な事前準備をしていても、現場では想定外の出来事が起こり得ます。たとえば、

  • インタビュー対象者が急遽変更になる

  • 予定されていなかった内部プロセスの説明を突然求められる

  • 海外拠点担当者との対話中に、聞き慣れないローカル用語が飛び出す

従来はこうした場面で、監査チームが別室でドキュメントを探したり、同僚にヘルプを求めたりして対応していました。しかし、この方法は時間を要するうえに、スムーズなコミュニケーションを損ないがちです。例えるならば、突発的なクイズ大会で答えを探しに図書館へ走るようなもの。現場の“熱量”を逃してしまう可能性があります。

1.2. 生成AIが生む「その場での知的サイドキック」

そこで役立つのが、モバイル端末やタブレットで動作する生成AIです。わからない用語が出ればその場で翻訳してくれたり、相手の長い説明を短時間で要約してくれたりします。さらに、「次にどんな質問をすべきか」のアイデアも瞬時に提案してくれる。まるで、現場に経験豊富な先輩監査人を連れていくような安心感があります。
この「リアルタイムでの知的サポート」により、監査チームは突発事項にも柔軟かつ迅速に対応し、相手の意図を正確に把握しながら効果的な追加質問へとつなげることができます。


2. インタビュー中の即時要約と追加質問生成

2.1. 会話を一旦「要約」する価値

インタビュー中には、被監査部門から長く複雑な説明が出て、論点が散らばりがちです。そこで生成AIに、「いまの説明を要約してリスクポイントや改善すべき箇所を列挙してほしい」と投げかけると、瞬時にポイントが整理されたテキストを得られます。
こうした要約は、現場で次の質問の方向性を素早く定めるのに役立ちます。後から録音やメモを見返す作業が減り、その場で深堀りを進めることができるため、1回のインタビューから得られる情報の「量と質」が格段に高まります。

■ 録音&文字起こしをAIに委ねる
さらに近年では、TeamsやZoomなどオンライン会議ツールが自動文字起こし機能を備えているほか、携帯電話やICレコーダーで録音した音声を生成AIに取り込んで文字起こししてもらうことが簡単にできるようになりました。
文字起こし後は、多少不自然な表記が混ざっている可能性があるため、AIに校閲や校正も依頼します。ほんの数分で、正確かつ読みやすいテキストを得られるようになるので、インタビュー後の膨大な手動作業が激減します。

2.2. 次の一手を導く「質問提案」

生成AIは、単に要約だけでなく「追加で聞くべき質問」のサジェストにも長けています。たとえば、「先ほどの説明にあったアクセス管理ルールが曖昧な点をさらに掘り下げたい。そのための質問候補を2つ提案して」と指示すれば、即座に質問リストを生成します。
このやり方なら、その場で見逃しがちなリスクや問題を素早く炙り出し、より濃密な会話を続けることができます。結果として、一度のインタビューから多面的な情報を得られ、監査の質が向上します。


3. 用語説明・翻訳による国際監査サポート

3.1. 多言語環境での心理的ハードル低減

グローバル展開している企業や海外子会社を対象とする監査では、言語・文化の壁が大きなハードルです。
このような場面で生成AIの翻訳機能を活用すれば、「現地担当者が使った専門用語の意味を確認」「日本語と英語のバイリンガル文書を行き来しながら即時対訳」といったことが、その場で可能になります。従来のように通訳担当者や翻訳者のスケジュールに依存することなく、必要なときに必要な翻訳や用語解説を得ることができます。

3.2. 文化的コンテキストの補足

生成AIは単純な言語変換だけでなく、背景にある文化や慣習、法規制の違いなどにも踏み込んだ説明を行えます。たとえば、「EUのGDPRと比較して、このローカル規制はどんな影響があるのか?」と聞けば、ローカルの事情を踏まえた解説をAIが提示してくれることもあります。
こうした文化的コンテキストを「その場で」把握できるのは、現地担当者との認識差を小さくし、スムーズな監査を進める上で非常に有効です。


4. 現場対応後のフィードバックループ確立

4.1. 場当たり的対応から継続的改善へ

現場で得た知見は、インタビュー終了後にチーム内で共有し、次の改善行動につなげる必要があります。そこでAIを活用して、

  • 「本日のインタビュー議事録」と「即時要約」を再度AIにかける

  • 改善が必要な領域を洗い出して次の監査計画に反映する

といった作業を自動化すると、抜け漏れなくフィードバックを蓄積できます。監査が「単発イベント」で終わるのではなく、継続的な学習サイクルとして機能するようになるのです。

4.2. チーム内共有で組織学習を促進

監査はチームプレーです。AIで要約されたインタビュー結果、追加質問リスト、翻訳された専門用語集などを即座に共有すれば、他のメンバーが次のステップでスムーズに活用できます。
一つの現場対応が終わるたびに、チーム全体の「知識の武器庫」に新たな情報が追加されるイメージです。こうして組織全体で学習が進むと、将来の監査のスピードと質が一段と向上します。


5. 現場対応をサポートするAI利用フローとヒント集

5.1. 現場でのAI活用フローチャート例

  1. インタビュースタート前

    • TeamsやZoomなどのオンライン会議ツールを使い、録音と自動文字起こしの設定を確認

    • または携帯やICレコーダーで録音し、後でAIに取り込むプランを用意

    • AIで想定質問リストを事前チェック(不足分の確認)

  2. 被監査者回答後、音声を文字化し、AIへ要約依頼

    • その場で要約・論点整理を実施

    • リアルタイムでリスクポイントを抽出

  3. 要約を踏まえ、AIに追加質問の生成を依頼

    • 即座に再質問して深堀りを行う

  4. 言語や文化的バリア発生時、AIに用語解説・翻訳要請

    • 海外監査や多言語環境で特に有効

  5. 終了後、議事録と要約、改善提案をAIで整理し、チーム共有

    • 組織全体のナレッジマネジメントに活用

5.2. プロンプト設計とツール選定のポイント

現場では「スピードと正確さ」が命です。AIに指示するときはプロンプトをシンプルかつ具体的にし、端末もモバイルやタブレットなど瞬時に応答できる環境を整えましょう。
また、オフライン利用やセキュア環境が求められる場合は、あらかじめ制限下で使えるツールやモデルを検討しておく必要があります。例えば、電波の届きにくい工場エリアでも動作できるように、特定機能を事前キャッシュできるAIツールを導入し、スムーズな監査を実現できます。


6. まとめと次回予告

6.1. 「今、ここ」で行動する力

今回の記事では、フィールドワーク中に生成AIを活用する具体的な手法を紹介しました。

  • インタビュー時の録音や文字起こしをAIに任せることで、数日かかっていた作業が数分で完了し、生産性が「体感的に10倍以上」上がる

  • 即時要約や追加質問の提案によって、会話の流れを逃さずに深掘り

  • 翻訳や文化背景の解説で多言語・多文化環境にも即応

  • 現場で得た知見をフィードバックし、次回の監査や改善につなぐ

監査には現場での即応力や柔軟性も欠かせません。生成AIはこうした“臨機応変なアシスト”を可能にする、頼もしいパートナーになるはずです。

6.2. 次回予告:監査報告書ドラフト作成と改善プロセス

次回は、監査の仕上げともいえる「監査報告書のドラフト作成フェーズ」についてお話しします。過去のレポートや調書を参照して初稿を自動生成し、専門用語の統一やハルシネーション防止に配慮しつつ、経営層向け要約や補足資料を効率よく作る方法を紹介する予定です。このプロセスを改革することで、レポートの完成度とスピードが飛躍的に向上し、監査チームから経営陣や現場へ、より“使える”アウトプットを届けられるようになります。どうぞお楽しみに。


この記事は、内部監査業界の発展のためにボランティア的に執筆しています。「いいね」や「フォロー」で応援していただけると大変励みになります。それではまた、次回の記事でお会いしましょう!

いいなと思ったら応援しよう!