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#09 はじめて聞かされる、身に覚えのない容疑

逮捕状が届き、私の手首には手錠、そして腰縄が打たれました。
全く想像もしていなかった一日は、まだ終わることなく、私を次なる場所へと連れて行くのでした。

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逮捕状、その内容に私は唖然とさせられました。

これまでの取調べの間、最大の謎であった ”私にかけられた容疑” を一度も知らせてもらえませんでした。
どのような疑いをかけられているのか、私にとっての最大の謎でした。

10万円をファミリーレストランで、
20万円を居酒屋で、賄賂を受け取った

その内容に、私は耳を疑いました。
何のことを言っているのか。全く理解ができませんでした。

私にかけられた容疑の罪状は、

受託収賄罪、事前収賄罪、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反 

という、3種類にも及ぶものでした。
その内容についても、全く理解ができませんでした。

10万円と20万円の2回、賄賂を受け取った。その犯行現場は、10万円は美濃加茂市内のファミリーレストラン、20万円は名古屋市内の居酒屋ということでした。

政治家は政治活動や選挙活動を行うために、寄附というかたちで金銭を受け取ることができます。1年前に行われた市長選挙の際に、私も多くの人たちから個人献金として寄附金をいただきました。
そのようなルールに従ったお金の流れはありましたが、法律に定められた通りの手続きを全て行っていたため、心配はありませんでした。

政治家の汚職や賄賂の問題については、私が政治家としての責任を果たす以上は絶対に犯してはいけないことであると考えていたため、そのことで私が疑われるなんて、信じられませんでした。

私は天を見上げ、思わず笑いました。
逮捕された内容が、あまりにもバカバカしいこと。
(こんな疑いなら、すぐに事実が明らかになるはずだ)
そんな期待を抱いていました。

朝から想定外のことばかりで、これから何が起こるのか不安に押しつぶされそうでしたが、
「美濃加茂市の市長として、恥ずかしくない態度で、堂々と向き合っていこう」
そう心に誓いました。

私は被疑者として、留置場に収容されることになりました。

【留置場(りゅうちじょう)】
被疑者の身柄を収容する警察署内の施設。警察官が被疑者を逮捕し警察署に引致後、必要と認められる場合にはその身柄は一定時間、警察署の留置場に収容されます。

通常であれば、取り調べの行われた警察署の中にある留置施設に留置されるのですが、その時は、偶然にもその留置場が工事中だったということで、私は名古屋から春日井警察署内の留置場へと送られることになりました。

警察署内で、預けた持ち物の確認など、いくつかの手続きを終えると、早朝に私を乗せた白色のセレナに再び乗せられました。
早朝とは違い、手には手錠がかけられ、私の両脇には警察官が座っていました。

警察署を出るとき、車の外には前が見えなくなるほど多くのフラッシュが焚かれていました。
隣の警察官は私に
「顔を隠しても良いんですよ?せめて、頭を下げておきますか」
そんな助言をしてくれましたが、
「何も恥ずかしくないので、前を向かせてください」
私はそう答え、顔を上げ、前を向いて報道陣の中を通っていきました。
(新聞では、目を半分瞑った瞬間の、人相の悪そうな写真を使われていました)

名古屋から春日井警察署への道中は、約30分。ふと見た外の景色を何とも愛おしく感じました。
20代の頃、深夜に友人たちと何度も通った道でした。このまま美濃加茂市に帰りたいと強く願いました。

しかし車は、分岐点を右にそれ、セレナは静かに警察署の裏手へと入っていきました。
この日、春日井署の周りに報道陣はいませんでした。


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