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豚ばらガイと追憶のアイスガイ

高校生の頃、校庭の裏に古い雑貨屋があった。雑貨屋といっても、古民家の一階でお婆さんが一人でやっていて、菓子パンやお菓子が申し訳程度に売っている駄菓子屋といった感じだ。そういえばそこは、「ウラバー」と呼ばれてた気がする。校庭裏のお婆さんを意味するのか、高校生の憩いのバー的なものなのか、あるいはその両方か、今となっては知る由もない。私が育った盆地の夏は蒸し暑く、放課後や授業の合間に裏バーでたまに「アイスガイ」という氷菓子を買って食べていたのを思い出した。

特に運動部系の生徒の間で流行っていて、アイスガイ片手に部活終わりにみんなではしゃぎながら裏バーにたまってた情景が蘇る。抑えきれない若さとエネルギーをスポーツという健康的な活動にぶつけ、仲間とともにキラキラした青春を謳歌する、という高校生活を送っていなかった私は、そんなものには興味が無いというシニカルな態度で、それでもどこか少し羨ましい眼差しでIce Guyを食べる彼らを横目に見ていた。太陽の日差しだけは眩しいが、いつもどこかジメジメした気持ちで、微かな清涼感を求め、私も裏バーでアイスガイを齧っていたと思う。

前置きが長くなったが、アメリカのスーパーではスライス肉が余り売っていない。日系やアジア系スーパーに行けばなんでもあるんだろうけど、この辺にそんなもんは無い。牛肉、鶏肉、ターキーはラインナップも充実しており肉塊がところ狭しと並んでいるのだが、こっちに来て意外だったのは豚肉があまり無いこと。特に薄切りの豚スライスや、しゃぶしゃぶ肉などにはお目にかかる機会が少ない。というか見たことが無い。

どうするかというと、スーパーの中に入っている肉屋で、豚バラ(Pork belly)を見つけたら、肉屋の兄ちゃんにスライサーでスライスしてもらうのだ。このことにより、豚バラのチャーハンや、白菜と豚バラのミルフィーユなど、コウケンテツさんがYouTubeで紹介されているレシピも私如き腕前の人間でも再現して美味しく頂くことができる。ちなみに白菜はナパキャベツ(Napa Cabage)という名でたまに売られている。コウケンテツさん万歳🙌豚バラGuy万歳🙌

今日いつものスーパーに行っていつもの豚ばらガイに肉のスライスをお願いしたら、なんとスライサーが故障していることが判明。「いつも豚バラのスライス買いにくるよね、残念だけど部品不足でいつ直るかわからないんだよ」と豚バラGuy。自炊の多い自分的には結構死活問題。どうしようと思う反面、こっちが豚バラGuyとして認識されていたことに驚きと、少し嬉しさを感じた。

こんなに豚バラのスライスばっかり要求してくる客もこの辺にはいないのだろう。覚えてくれていたことで気をよくして、豚バラを塊でハーフポンド買って包丁でスライスすることにした。こういうことがあるとあの兄ちゃんがいる店に通おうと思えてくる。そんなこんなでまた少しこの地に慣れた気がする。

暑かった夏も終わろうとしている。豚バラで不意に20年以上前の夏の思い出が蘇った。アイスガイはもう売ってないらしい。うだるような暑さと湿気の中、パッとしない日々に束の間の涼しさをくれた裏バーは今どうなっているんだろう。あの頃全く想像してなかったが、自分は豚ばらガイとして、このドライな土地でなんとかやっている。


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