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『13階段』感想と解説【ネタバレあり】

高野和明著、『13階段』を読んだのでレビューしたいと思います。非常に面白い作品なので、未読の方はあらすじ紹介だけご覧いただけたらと思います(後半はネタバレ有りの感想なので)。

内容(「BOOK」データベースより)
犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。


ネタバレなし感想

最初から最後まで入り込める作品でした。長編ミステリーはその性質上、序盤は舞台設定や登場人物の説明にページを割かれがちで退屈な事が多く、後半部分だけ面白い、という事が多い気がします。しかしこの作品は最初から引き込まれて、途中退屈する箇所がありませんでした。
誰が真犯人なんだろうと、登場人物全員が怪しく感じられます。とにかく最後までハラハラさせられます。
描写が具体的でえげつないため、個人的に下手なホラーより怖く感じました。
昨晩から読み始めて寝ずに明け方まで一気読みしてしまいました。それくらい面白かったです。おすすめです。
ここからネタバレ有りなので、未読の方はご注意を。

ネタバレ有り感想

読み終えた後、一通り本作品のレビューを見て回ったのですが、あまり「怖い」という感想がなかったのが意外でした。自分はホラー耐性はそこそこあるのですが、こういった事件ものがリアルに描かれるタイプに弱いです。ですので、この作品は非常に怖かったです。

怖かったシーン


まず一番怖かったのは、宇津木夫妻の惨殺死体の描写。最初に杉浦弁護士が事件概要を語るところで既に具体的かつ残忍な描写が描かれますが、その後遺族である息子の口から語られる父・宇津木耕平の遺体状況が更にショッキングです。そして、純一が現場検証の報告書に目を通す場面で更にグロテスクな現場が描写されます。宇津木母の遺体状態まで描かれています。正直、真犯人が酷い裁かれ方をすることを期待してしまいました。また、父・耕平は真犯人の安藤を強請っていた訳ですが、それにしても殺し方が非道だと思いました。

結局、安藤は根っからの屑だったというのが率直な感想です。最初に彼が21の時に犯した強盗殺人は、悪質な取り立てに対してした事だから百歩譲って仕方ないとしてもまともな感覚ならそもそも出来ませんし、その後の宇津木耕平からの強請りも、殺人以外の方法で解決することはできたはずです。まして直接強請られた相手でもない老婦人まで斧で惨殺するなど、常軌を逸しています。それを知人の樹原になすりつけるため脅して工作をさせた挙句、バイク事故が無ければ樹原を殺そうとしてた、又はどっちみち冤罪で死刑にさせようとしていた。極め付けは南郷への殺害未遂です。安藤という登場人物は文句なしに悪です。

なお、怖いシーンは殺人現場だけに留まりません。死刑執行をなされた被告人の遺体の状態が具に書かれていた場面、佐村光男が密室ともいえる場所で、物語序盤に見せた態度とは豹変して襲いかかってくる場面などなど。

佐村光男は息子を殺された怒りで純一に冤罪を着せようとしたり、最終的には殺しにかかってくるわけです。(しかもそもそも浮き出る血管を、噴き出す怒りを抑えながらお茶を出す場面から作戦は始まっていた。)
ここで純一は逃げながらも、佐村父には復讐する権利があると考えている訳ですが、見方によってはそうではありません。佐村恭介が友里にしたこと、またあの様子からすると余罪はまだまだあるでしょう。これらをこの父親が知っていたとしたら、とんだ親バカです。描写から察するに、恭介の悪魔のような言動は、間違いなく佐村父の血筋を引いたか、そういう教育を受けたかでしょう。この2名も悪魔にしか見えません。

張り巡らされた伏線

ちなみに自分は、杉浦弁護士への依頼人が誰かという一つの謎について、早めに合点がいきました。高額の報酬を出す財力がある人物という時点で勘付き、かつ純一と南郷が早合点してそれが安藤だと思い込んだ描写で、逆にそれはフェイクで、依頼人は佐村父だと気づくことができました。
ただ、工場にある謎の機械についてやたら描写が詳しかった事は、あとで伏線回収があるんだろうな程度には思っていましたが、ここまで本筋に絡んでくるとは思いませんでした。
真犯人については検討がつきませんでしたね。候補が多すぎて。「中湊郡にいるたった一人の味方(安藤のこと)に救済を要請するつもり」という記述が南郷の最終局面で書かれますが、そこでやっとハッとなりました。ここから一番盛り上がるであろう場面で「たった一人の味方」なんて書かれたら流石に怪しいですよね笑

物語の最後に純一は、恭介へ殺意があったことを南郷に手紙で告白します。ここで、「恭介を殺すしかなかった」という表現が作中に散りばめられていたり、友里のおかしな様子などの伏線がついに回収されたわけです。状況が状況だけに、過去が過去だけにどうしても純一だけを責める事ができません。よって、自分は主人公2人は殺人を犯しましたが、どちらもあまり悪いことをしたと思えなかった(相対的にも倫理的にも)です。
南郷にはぜひ、正当防衛で戦って勝って欲しいですね。既に奥さんからも離婚届を出されていたり夢を壊された以上、安藤なんかのために重い罪を背負って欲しくないです(安藤なんてどんな目にあっても良いんですから)。しかし、この本一冊で、復讐が復讐を呼ぶ事、死刑制度、一つの事件によって犯人の家族、逆にその遺族が受ける影響について、たくさん考えさせられるのがすごい所ですね。

物語途中で南郷が怪しいと思える点はそっくりな双子がいることでしたが、それがまさか逃走に使われる形で覆されるとは思わなかったし、かつあれは最高の場面でした。

まとめ

やはりこの本の面白い所は、真犯人(夫妻殺人の)が最後まで誰だか分からない所だと感じました。ダブル主人公含めた登場人物が全員怪しくみえる描写に見事ひきこまれ、まんまと騙されました。


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