読解力2

真似れば書ける ラノベ創作編

読解力を鍛えるには「書く」しかない!(5)

週末ですので、今回は番外編で「文章を真似る」例として、三女の創作をご紹介します。
この掌編は、ロンドンに住んでいたころ、「なんでも好きなもの書いてみて」という「お父さん問題」の前哨戦のようなお題を私が与えたときに楽しんで書いたものです。
三女はライトノベル好きで、かなりの数を読んでいます。その文体を真似て書いたオリジナル作品で、どうということのない文章ですが、デビュー作(?)にしてはよく書けています。
本連載、長くなりそうなので、息抜きとしてご笑読を。例によって転載は本人の快諾(というより売り込み)を受けたものです。明らかな誤字の訂正と改行の追加だけで、原文ママです。

YEAH!YEAH!YEAH!
六月五日 AM7:30
ピピピッピピピピッピ                                   うるさい!今日も機械的な音とともに目を覚ますと、ひんやりした空気が布団の中に滑り込んでくる。寒がりつつ無理やり布団から出ると思ったより温かいっていうことがよくある。ってわかってるのに起きるのにまだ抵抗があるんだよね。
まあとりあえず自己紹介をします。私の名前は白石しおり。菜の花小学校っていうフツーの小学校に通っている、フツーの小学生。今日は同じクラスの赤松ゆの、っていう子と一緒に図書館に行って本を借りてくるんだ。
このめったに図書館に行かない私が貴重な週末っていう時間を割いてまで行く理由はただ一つ。宿題だから!
お題は世界中のスポーツで、ペアを組んでやるものなの。ゆのがクリケットっていうイギリスのスポーツを調べようって言っていたけれど、今、振り返るとなんでだろうって思う。
まあどうなるか分からないけど、レッツゴー!

はぁはぁふー。約束の時間に遅れそうになった私は、いつもとは比べ物にならないスピードで駅から走り図書館に着いた。この頃、足が弱くなってきてるな、運動しよ。とりあえず今は急がなきゃ!ゆのって時間にうるさいんだよねー。
そんなことを考えながらドアを開けるとなぜかゆのが小さい子が遊ぶスペースの小さい椅子に座りレゴで何かを作っていた。ゆのはレゴを組み立てるのに熱中していて、私が近づいても全然気づかなかった。ちょっと驚かせようと思って背後をとると…

ギィー、ガッコーン。

ゆのが急に椅子を後ろに押して、私の足が引っかかたんですけど!ちょっとゆの!
「うわぁぁ、ムグッ。」
倒れそうになった私は思わず叫びかけて口をゆのにふさがれ、そのまま引っ張られながら本棚の奥に引きずり込まれていかれた。
やっと口から手を放してくれたゆのは私の文句が口から飛び出す前に小声でこう言った。
「ちょっとしおり、図書館で大きな声を出さないでくれる?追い出されちゃうわ。」
はい。正論過ぎてぐうの音も出ないっす。これから気を付けます。私が説教の後しぼんでいるとゆのがバックの中ををごそごそし始めた。
ん?
ああああああああああああああああっ。
また叫びそうになった口を押さえつけながら私は自己嫌悪した。理由はただ一つ、図書カードを忘れたから。図書カードっていうのは薄っぺらい、プラスチックでできた本を借りるときに使うカードのこと。カード一つ一つにバーコードが付いていて、それをスキャンすると本が借りれる仕組みなんだけど、当然それを忘れたら、本は一冊も借りれないの!
ゆのは相変わらずの笑顔でこちらを見つめながら冷たく私に聞いた。
「まさかしおり、図書カード、忘れてないよね?」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ。
ゆのさん、口は笑ってますけど目が笑ってない!ここで首を縦に動かしたら殺される(涙)。
どうすればよいの?
私が回答に困っているとゆのが冷たい笑顔と一緒に聞いてくる。
「答えないってことはまた忘れてきたのかな?」
またっていうところを強調しないでください…。え?またって何かって?そりゃあもちろん前回、図書館に来た時に図書カードを忘れた時の話だよ!
そのあと私がゆのから後ろげりをくらわされたのは言うまでもない…。

一時間後。
「ありがとうございましたー。」
二人同時にお礼を言い、帰りの地下鉄の駅へ向かう。本はすべてゆのが借りたものを二つに分けて、半分ずつ持っているんだけどそれでも重い。そのまま私が声に出すとゆのが氷点下の声で皮肉ってくる。
「そうだね。誰かさんは図書カード忘れたのに十冊以上借りてきたしね。」
ひぃ。次は忘れないのでもう後ろげりは勘弁してぇぇ。二人でしゃべりながらバス停へ向かうとあっというまに着いた。楽しい時間はすぐすぎる、ってあながち間違いじゃないと思うな。

その夜、私が見た夢の中で私とゆのがクリケットの試合をしていた。夢の中でも私はミスをして、ゆのに後ろげりをくらわされていた…。
正夢になりませんように!

親馬鹿は承知ですが、語彙や表現もそこそこ的確で、「よく書けてるじゃない」と感心したものでした。日本の図書館を舞台にイギリスで大人気のクリケットが絡むというのも、三女にとって身近なテーマに「ねじれ」があって、面白い。

三女が愛読しているシリーズ物などパラパラめくってみると、文体は酷似しています。このまま模倣を重ねれば、おそらくさらに磨きがかかった「ラノベ調」になることでしょう。どうも隠れて何か書いている気配もあります。読ませてくれませんが。
模倣の先に、ラノベ作家への道が開けるかは分かりません。でも、模倣すらできなければ「道」の入り口に立つことすらできないでしょう
文章術の「イロハのイ」、いや「イロハのイロ」ぐらいまではひたすら真似ること、「型」を身につけることにあります。

もう1つ、本連載のテーマに引き付けて付記すると、このまま三女がラノベ調文体を極めても、中学受験や大人がビジネスシーンで求められるような文章術や読解力を身につける助けには、あまりならないでしょう。
物語や小説の文章、日常を描く日記のような文章(それが異世界転生であろうと日常は日常です)には、問いや疑問に答えたり、何かを伝えるたりするために必要な論理的な組み立てが必ずしも必要ではないからです。
物語は、情景や会話、登場人物の心理が時間軸をもって流れていきます。それは舞台や設定は特殊でも、日常生活と変わるところがなく、少しばかりの人生経験と共感力があれば、シーンを思いうかべて筋を追い、キャラクターに感情移入して筆を進めていけます。

書き手としてみれば「ある程度複雑なことを文章で伝える」、読み手として「構造を持った文章を読み解く」というのは、もう少し厄介な作業なのです。連載のなかで、なぜそれが厄介なのか、書き手と読み手のコミュニケーションのカギを握っているのは何かを考えていきたいと思います。

次回はまた「お父さん問題」の添削例に戻ります。お楽しみに。マガジンのフォローもよろしくお願いします。

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