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「ポポラマーマ」を知っていますか

東京、ロンドン、ニューヨーク、パリ、サンクトペテルブルク、そして本場ローマ、シチリア……。
48年ちょいの人生の中で、気軽な店から高級店まで、いろんな国でパスタを食べてきた。
パスタを前にすると、いつもこんな問いが浮かぶ。

(これ……「ポポラマーマ」とどっちがうまいかな……)

厳密に星取表をつけてきたわけではないが、「ポポラマーマ」の勝率が7割を切るとは考えにくい。
「どっちもうまいな」と引き分けに持ち込めれば、その店は通いたいぐらい良い店だ。

知られざる?パスタチェーン

タイトルの「ポポラマーマを知っていますか」という問いに、

「は? 知ってるでしょ、そりゃ」

と反応したアナタ。
隅田川の「こっち側」の人ですね?
もし「向こう側」の人か、東京以外の地域の方なら、アナタは神の恩寵に感謝すべきだ。

「ポポラマーマ」はパスタ中心のイタリア料理屋さんだ。
隅田川より東、江東区や江戸川区、墨田区あたりに住む「川向こう組(視点を都心中心にシフト)」には、割とおなじみのチェーン店だろう。
Googleマップで分布を見てみる。

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東京の地理に詳しくない方は下のボックスをご覧ください。そうでない方はスキップを。

東京は文化・娯楽(おそらく所得や学力においても)が明確に「西高東低」である。東京砂漠は冷え込みが厳しい「冬型」です。
隅田川の東側は、教育機関や文化・娯楽施設の充実度で劣勢にある。素敵なレストランや洋服店も少ない。探せばあるけど、少ない。
良いのは家賃が安いところ。安いといっても西側に比べて、である。高いです、東京。家賃が高い冬型の砂漠。住みにくいなぁ。
大手町・丸の内への通勤時間が短いのも美点だ。その分、通勤ラッシュはすごい。「コロナ前」は、朝のピークの地下鉄東西線は心身に深刻なダメージを受けかねない代物であった。東西線沿線から引っ越したので、今はどうか知らない……。

なお、私は江戸川区、江東区、墨田区と彷徨ってきた通算キャリア15年超の「川向こう組」である。

さて、Googleマップで東京の反対側の分布を見てみよう。

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都心には皆無で、かなり中心から外れないと見当たらない。
たまたま最寄り駅になければ、ハイソな西側住民は存在に気づきもしないだろう(東側住民のひがみがにじむ……冷戦期のベルリンのようだ)。

そんなややマイナーな「ポポラマーマ」だが。

ここのパスタが、抜群にうまいのだ。

いや、ほんとに。
しかも、お財布に優しい。「西高東低」の東京にあって、東側住民の懐事情に配慮したプライシングなのである。

お断りしておくが、この投稿はステマとかそういうモノではない。
ある個人的な発見があって、書かずにいられない気分になった。それは後ほど。

まずは知らない方にお店のご紹介を。

生パスタが売り

お店のサイトのリンクを貼っておく。

「埋めたリンクは踏まれない」ので、スクショを。ずばり「マーマの味の秘密」から。

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そう、とにかくパスタ、「麺」が美味しいのだ。
なぜうまいのか。
以下、サイトの情報を抜粋する。

・特徴は、乾麺のアルデンテとは違う、モチモチッとした食感
・その食感を生み出すカギは原料
・小麦粉はデュラム小麦の中心部分を粗挽きした「セモリナ粉」100%
・「デュラム小麦セモリナ」から作られるのが本来のパスタ
・「セモリナ粉」は熱に弱く、加熱で風味が失われてしまう
・そこで採用しているのが無加熱製法
・生地を練って成形したら、粗熱をすばやく取る
・「できるだけ熱をかけない状態」を保ち、食べる寸前に加熱
・生パスタは冷蔵庫内で13時間以上熟成させる
・蒸気の水滴が生パスタに付いて品質が下がるのも湿度管理で防止する
・最適な湿度と温度を保つよう、物流を徹底管理
・店舗では注文を受けてから一食ずつ、冷蔵庫からとりだして調理

舞台裏は知らずに長年食べていた。
こんなに手間をかけていたのか。
でも、納得した。
ここのパスタ、確かに普通のお店と一味違うのだ。
ソースや具材が良くて「うまい」と思うパスタは多い。イタリアやパリの良い店のパスタは、さすがにすべてが美味かった。
でも、日本国内で「ここの麺は『ポポラマーマ』より美味い」と思ったことはほとんどない。特に「もちもち系」としては最強である。

こんなに手間をかけているのに、価格設定はかなりリーズナブルだ。
キッズメニューが格安なので、小さなお子さん連れが多い。ドリンクバー付きで500円って……。

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なぜこんなに安いのか。
低価格の秘密のひとつは家賃であろう。
こちらをご覧ください。

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モール内の店舗に限らず、「ポポラマーマ」はほとんどが2階や3階に店を構える、いわゆる空中店舗だ。
上のリストのロケーションは、庶民感満載である。普通なら路面店で集客を高めるべき場所だ。
そんな場所で、あえて2階以上に店を出している。
コストの抑制は、美味しいパスタを低価格で提供すること、それとおそらくは従業員の待遇改善の原資を確保しようという理念に基づくと推察する。

ちなみに我が家から一番近い某駅前はこんなロケーションである。

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「吉野家」の上。しかも店舗の入り口は駅から遠ざかる感じで階段をぐるっと回り込んだ位置だ。
行きにくいにもほどがある。
それでもちゃんとお客さんは入るのだ。
「コロナ前」は、飯時はちょっと待たさるのを覚悟するほどの集客力を誇っていた。
お客さんが絶えないのは、我々「川向う」の住民が「ポポラマーマにハズレ無し」と知っているからだ。
行けば、ちゃんと良い食事の時間を過ごせる。

四半世紀前の奇縁

「ポポラマーマ」の素晴らしさの一端は伝わったかと思う。
もう一度、リンクを貼っておこう。快適なサイトです。

ここからはnoteを書く気になった個人的な驚きを。
まずはメニューの写真をご覧ください。

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ポポラマーマは2020年に25周年を迎えたそうだ。
おめでとうございます。
私も、就職で上京して25年目だ。
「奇遇だなぁ」と思い、初めてサイトを覗きにいって、「会社概要」を見て驚いた。

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創業が……江戸川区東葛西の……「ポポーネ」……だと?

ちょっと待て。

その店は、1995年の春に上京したばかりの高井さんがちょいちょい通った、あの「ポポーネ」なのか?

若き高井さんは、そこから徒歩5分ほどの環七沿いのワンルームに住んでいた。「ポポーネ」とそのすぐ近くのラーメン(支那そば)の「ちばき屋」は週末のランチの不動のレギュラーであった。

この奇縁の発見は、驚くとともに、「やはりそうだったか」ととてもスッキリした。

25年前にふらりと入った「ポポーネ」のパスタは、びっくりするほどおいしかった。
お上りさんの高井青年(23)は、
「さすが東京だなー。こんな場末(失礼)のどうってことない店の(重ねて失礼)パスタでも、こんなうまいのかー」
と唸った。
「ちばき屋」もかなりレベルが高いので、「すげーな、東京」と感心したのを覚えている。
蕎麦のうまさにも感動し、東京を「麺類の首都」と認定した。いや、日本の首都ですけどね。

閑話休題。
「ポポーネ」に通うようになってしばらくして、環七を挟んだ反対側に「ポポラマーマ」というお店をみつけた。
何となく、味も雰囲気も「ポポーネ」に似ている。

「同じオーナーかな? いや、でも、なぜ別の店名なんだ?」

よく分からないうちに大阪に転勤になり、なんだかんだで6年後に江戸川区に戻った。最寄り駅になった西葛西や、都営新宿線の船堀駅の「ポポラマーマ」に家族でよく行った。月イチくらいでは行っていた気がする。
その間に「ポポーネ」のことを「あの店は結局、なんだったんだろう」とチラチラ思い出すこともあった。

やはりそうだったのか。
「ポポーネ」は、「ポポラマーマ」の源流だったのだ。
名前が変わったのは商標の問題だろうか。「ポポラマーマ」は造語らしい。

久しぶりのポポラマーマ

きょう、「note用の写真を撮りがてら、久々に行くか」と最寄りのポポラマーマに娘と2人で足を運んだ。

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いいねぇ。

まずは生ハムのたっぷり乗ったシーザーサラダとグラスビール。

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写真撮りに来たのに、撮り損ねている。
そういうとこだぞ、高井さん。

気を取り直して、高井さんはあれこれ入った最高級のカルボナーラを注文。最高級だけど、1080円。

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娘さんはトマトスープのパスタ、800円なり。

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両方とも、もっちもちで、素晴らしく美味しかった。
ごちそうさまでした。

ここのパスタは高くても1200円程度、スタンダードなのは700~800円台だ。
きょうも2人ともお腹いっぱいの大満足でお会計は税込み3400円ほど。セットのケーキを頼んでも4000円は行かないはず。

お昼の遅めの時間だったが、席は7割がた埋まっていた。子ども連れが多かった。「コロナ前」のようにはいかないだろうが、ちゃんと集客力はキープしているようで安心した。美味しいからね。

東京の味

25年ものお付き合いで、「ポポラマーマ」はもう私のなかでパスタのスタンダードになっている。

そしてそれは、私にとって「東京の味」でもある。

生まれも育ちも名古屋だが、最近、「一番長く住んだ街」が東京になった。いまいちまだ馴染めないところがあるのだが、それなりに東京に愛着を持つようになっている。

大学を出て、右も左も分からずに東京という空間に紛れ込もうとしていた25年前。
その入り口が葛西という街で、そこに美味しいパスタ屋さんがあった。
最初は結婚する前の奥様と一緒に。
その後は、だんだん頭数が増えていった娘たちと一緒に。
けっこうな時間を、美味しいパスタを食べて、みんなで過ごした。

前出の画像を再掲する。

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「世界で一番価値ある生パスタ」とは大きく出たものだが、誇張だとは思わない。
実際、私にとっては、家族の笑顔の思い出を含めて、世界一のパスタだ。
こういうお店に四半世紀前にひょいと入り、今もいつでも行けるのは、とても幸運なことなのだろうと思う。

これからの25年も、折に触れて、おいしいパスタを食べに行こう。
家族で、ニコニコ、ケラケラ、笑いながら。

この文章、最初に書いたのは2020年の1月半ば、ほぼ1年前でした。「下書き」に置いておいたら、コロナがやってきてタイミングを逸していました。
「25周年」がきっかけになので年内に投稿します。
ツイッターでリクエストの多かった「腹筋20万回で手に入れたもの」もちゃんと書きますので……少々お待ちを……。

追伸 Rくんへ
ちゃんと書いたよ!

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