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【読書録】 ヒルズ 挑戦する都市

ヒルズ 挑戦する都市 (朝日新書 200) 森 稔

を読んで連投ツイートをしたのでその内容を以下にまとめておく.  単なる感想文ではなく他の情報もつぎ込んでいくので読みにくいかもしれない. 

⚠️この文章は, 私の研究とは全く関係がなく, 私は専門家ではないことを明記しておきます.

ちなみに森ビルが宣伝している以下の動画もあるのでそちらを見ると良いと思う.

スマートシティと疫病で考える

アークヒルズには去年の10月から会社の移転とともに働き始めた. 高層ビルはそれほど好きでもないし, 自分みたいな基本サンダル&短パンみたいな人はいないのでキャラに合わないと思っていたけれど, 愛着が湧いてきている.

大学時代からなんとなく六本木ヒルズには愛着があって, ワイン販売のエノテカを遠目に見てはいつか行ってみたいという気持ちになった. あまり森ビルの歴史を考えていなかったが, TLに流れてきてくれたおかげで考えるきっかけになった.

興味が出てきた理由は, 最近のスマートシティとの関係がある. スマートシティ構想は, 人口が21世紀末には100億人なるという試算から, 過密になる都市をIT技術によって効率的に運用するという考えを元に世界各地で試みが行われている. AIに自分が興味を持っていたからこそ, スマートシティに興味があるのだが, TOYOTAやGoogleもスマートシティ構想を持ちながら動いているようだ (ただGoogleはコロナ禍の影響で, その構想を断念したらしい). 

そんな中, この書籍をtwitterで紹介してもらった. もう一度疫病がある中での都市設計というものを考えていかなければならない. ただそれは, 人類と疫病との戦いの過去の歴史を考慮に入れたものでなければならない. この書籍はその私の興味に合致したわけだ.

森ビルの歴史

著書によると森稔氏とその父・森泰吉郎氏(横浜市立大学商学部長)がベンチャーとしての現在の森ビルまで龍のように成長させたという. ただ泰吉郎氏は大学の運営で忙しく, 森稔氏が中心的な役割を果たした. まちづくりが如何に長い年月がかかりそこに苦労があるのかを知れた. (こちらを見ると途轍もないようにみえる一方森ビルがあくまでも港区のローカルな再開発を事業として成長してきた歴史が見て取れる.)

例えばアークヒルズは1967年に構想に着手され, 1986年に竣工されており, 20年近くもの月日をかけて完成に至ったという. 長い時間がかかったのは森ビルの成長のきっかけとなった共同建築と関係がある.

虎ノ門付近に生家がある森氏はこの付近が国の中枢を支える重要な拠点になることを見抜いており, 街づくりをしたいと情熱を燃やした.彼らの戦略は, 人気のない裏手通りの土地買い取って, 表通りの土地持ちの人たちと共同建築でビルをたて, 運営する方式だった.

開発を進めていった森ビルだったが, アークヒルズの再開発には時間がかかった.それは, 住民の強い反対にあったためで, 買い取った土地に社員を住まわせて, 地域雑誌やイベントを開くことで推進派や反対派それぞれと話し合う機会を持ったようだ. 反対派を賛成に意見を変えさせるのは10年以上かけてやるため, 時間がかかるということのようだ.

これで10数年かけるのだから気の長い話だと思うが, 精神的なタフネスに脱帽する.

森ビルの存在意義と垂直庭園都市

ここまでしてやり遂げようとしたのには稔氏なりの根拠があった. コルビュジエの屋上庭園から影響を受けた垂直庭園都市らしい.  当時のアークヒルズ周辺は一軒家の密集住宅が多く, 火事や災害が起きればすぐに逃げ場がなくなってしまうようなリスクの高い町だった.

このような逃げ出す街ではなく, 逃げ込む事ができる街を作るためには, 垂直型のビルを建て, その周辺に庭園を置く事で, 過密を避けるのが都市では合理的と考えた.

その理念(よく稔氏は「レゾンデートル」フランス語の存在意義という)は, アークヒルズ付近の庭園や, サントリーホールなどの施設に表現されていると思った. アークヒルズ付近の庭園(四つの庭園から構成されており, その一つはコルビュジエの屋上庭園から影響を受けたであろう『ルーフガーデン』と名付けられている)は, 微妙に入り組んだ重層構造なっていて, ぐるぐると回遊する形式の庭園になっており飽きさせない設計になっている. ただ, コルビュジエが意図した屋上庭園というよりは, 回遊式庭園の方が近い印象だった.

私は, 江戸時代に作られた回遊式の庭園が好きで六義園やら, 小石川後楽園によく通っていた. 正直これらの庭園には劣るけれども, 理念としてはそういうものを意識しているのではないかと思う. また, 19世紀末にハワードが提唱した田園都市 (「明日の田園都市」著ハワード, 訳山形浩生)があり, 貧困と疫病の只中にあった都市へのアンチテーゼとして, 都市と田舎の融合として提案された. この田園都市は, 郊外型に水平に伸びる都市開発として多摩田園都市として結実したけれども, その対極にあるとも言える.

アークヒルズと街の関係

アークヒルズに併設されたサントリーホールでは月に一度無料でオルガンコンサートでひらかれており, 近隣住民やアークヒルズ勤務の人たちはそれなりにきているのではないか.また子供づれでも楽しめるように別室でモニター鑑賞もできるようになっていて優しい.

アークヒルズとサントリーホールをつなぐカラヤン広場では市場も開催されていて単なるオフィスビルではなく街に溶け込んでいる.

ベンチャーが不動産王として成長した歴史とその思想が息づく街を観察するのは楽しい.その思想は引き継がれ, 六本木ヒルズ, 上海環球金融中心, 虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーまで繋がっている.

虎ノ門ヒルズの近くに愛宕神社がありそこには出世の石段と呼ばれる急な石段がある.もしかすると森泰吉郎・稔両氏はここに時々通っていたのではないかとそう思うわせるほど面白い場所だと思った.

最後に

森ビルは成功した都市開発の例と考えて良いと思う. その身近な例が自分が勤務している場所にあるとはわからなかった. ただ学ぶべきことも多い. 

一つは, 森一族は運がよかったというだったということだろう. たまたま国の中枢の近くに生まれ, 国の成長期に不動産屋として活動していた. 爆発的な成長をするためには, ポジションどりが上手くなければならない.

二つには, エゴを超えたビジョン. 稔氏は常にレゾンデーテルはなんだと問いたようだ. 存在意義が, 常に問い世の中に必要なものを問い続ける姿は森ビルの成長を促し続けるエンジンなのだと思う.

この著作は思い出になる一冊になった.

追記

以下のことを都市開発を行う人と話す機会があればここら辺についても聞いてみたいと思う.

- ハワードの田園都市が郊外に都市と田舎の結婚として提唱されたが, 郊外型のベッドタウン(多摩田園都市やロンドン郊外)として導入されたの意図的なよみかえがあったように, コルビュジエの屋上庭園が森ビルによる意図的な読み替えによって成立しているのではないか. 

- 森ビルの開発は回遊式庭園(実際六本木ヒルズの近くには回遊式庭園の毛利庭園がある)からもインスピレーションを得ているのではないか. 

追記: 2020.5.10. 愛宕神社の下にある, チーズ屋さんは最高だったのでまた行きたい. 

追記: 2020.5.10 前のオフィスでは虎ノ門ヒルズあたりを散策していたら、小さな老夫婦のみが営む定食屋さんが散見された. こんなお店もあるのかと驚いたけれども, この本を読むとなんとなく理由がわかるきがする. 現実は思った以上に複雑だし単純化できないほどの魅力に溢れている.

追記: 2020.5.10 自分が働いていた場所も深掘りすると面白い. マッカーサー通りが虎ノ門ヒルズの辺り場所とは知らなかった.

追記: 2020.5.10 コロナが収束したら, 友人たちと森ビル散策ツワーをしたいと考えている. 

現在の案では, 第二森ビル -> 愛宕グリーンヒルズ -> 他ナンバーヒルズ -> 愛宕神社 -> 虎ノ門ヒルズ -> アークヒルズ -> 六本木ヒルズ -> 元麻布ヒルズというコースが良いように思っている. ただ端折る必要があるかもしれない. 多くのビルが近接しているので, 実際に中に入るのは3件ぐらいが良いかもしれない.

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