見出し画像

Funding the Commons Tokyoまでの894日

Funding the Commons (FtC) Tokyoが2024年7月24日・25日に開催されました。事前登録で、304名以上の登録があり、登壇者やゲストを含めると目標の300名を超えた参加があり、多くのメディアで取り上げていただいた。今回DeSci Tokyoは、FtC Tokyoの共同開催パートナーとして参加し、イベントの運営(スポンサー集め、支払い、会場等の手配)を担当し、24日を中心にスピーカーの誘致を行った。

7月24日では、小池都知事、BoostVCのDomel博士、ANRIの川口博士、bitgritの向縄氏、RIKENの神田博士、内閣官房の池田氏、ResearchHubのPatrick Joyce氏、Estefano Pinilla博士などの登壇。24日は濱田が担当した。

7月25日のAudrey Tang氏、Glen Weyl氏、都知事候補の安野たかひろ氏、SmartNewsの鈴木健氏、paramitaの林篤志 氏、Ethereum Foundationの宮口あや氏、宇沢国際学館の占部まり氏などが登壇した。こちらは、takaにメインで担当してもらった。

イベント開催のロジスティクスに尽力してくれた、Fracton Venturesの守くんとparamitaのEriさん、国連大学で会場の担当をしてくださった森下さん、アラヤの金井さんには特にお礼を伝えたい。

会場は常にほぼ満員で、参加者の多くの方々に満足していただいたと思っている。続々と様々な反響をいただいている。実際のイベントの準備は、私にとっては2023年の6月から始まっており、ようやくひと段落ついたという気持ちになっている。8月中は経費精算や謝礼の支払いがあり落ち着ける感じではなかった。

FtC Tokyoはここで終わりではなく、始まりに過ぎずこれから我々が取り組んでいくことの発表の場であったのだが、始まりの終わりとして開催までの経緯を2022年から紹介したい。

この文章では、イベントまでのどんな動きがあったのか、我々がどんな準備をしてきたのかを残すために執筆しており、この規模の海外グループと連携した国際イベントを企画し実行する人の助け(お金があればプロに任せるのが一番だが)となることを期待している。


2022年 公共財コミュニティの蠢き

2022年は、私、そしてFtC Tokyoの運営者にとって大事な準備期間であった。科学の新たな支援や運営のあり方に興味があった私は、2020年から科学における科学運営のあり方について記事を書き続けていた。

その中で、DAOやブロックチェーンを活用した科学のあり方が生まれるのではという小さな期待があった。一方で、これらの分野で莫大な資産を築いた人たちが新たな科学の形を作る可能性についても可能性があると考えていた。

そこで、2月12日に見つけたa16zから出版されたSarah Hamburgによる『A A guide to DeSci, the Latest Web3 Movement』は日本における分散型サイエンスの誕生に大きな影響を与えた。ここからFtC Tokyoの直接的な文脈は始まったと言って良い。

DeSciが出てくる背景を書いたところで、多くの方々に興味を持っていただいたし、DeSci Tokyo開催までの道筋を作ることもできた。

DeSci Tokyoについては構想アイディアであって、基本的にこういった流れができているのかを紹介するにとどまっていた。私自身はブロックチェーンエンジニアでもないし、日本においてはクリプトについて詳しい人もいないので、ほとんど活動はなく過ぎ去っていった。いくつか話をいただいたが資金源がどこにあるのかよくわからない人たちが多く実質的な活動はできない判断した。

私がブロックチェーンに興味を持ったきっかけには、なぜ人が熱狂するのかという視点と、データの共有とインターネット思想としてである。2022年6月に、公共財的に科学を考えたいと思っており、Ethereumなどのパブリックブロックチェーンが果たす役割について考え始めた時期である。

https://note.com/hirotaiyohamada/n/nd90e0491c9d5

この頃に、Protocol LabsのEvan Miyazonoが主導していたFunding the Commonsを見つけており、ネットワーク財の観点から再定義した議論は非常にエキサイティングであった。というのも、大学時代よりised『情報社会の倫理と設計 倫理篇/設計篇』やクリス・アンダーソンの『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』や、ローレンス・レッシグの『CODE 2.0』を読んでいた私としてお馴染みの議論が再燃しているように感じたからだった。

別の観点で言うと、RadicalxChangeやGitcoin、Protocol Labsはクリプト界隈における思想的本陣だと理解している。

ところが、その議論を行なっている人はほぼ日本にはいないという印象があったし今でもしている。私としては、この頃の日本の議論を世界の文脈に接続することが自分の使命と考えるようになった。

それが、柄谷行人であったり、鈴木健の『なめらかな社会とその敵』であったり、宇沢弘文の『社会的共通資本』であった。

東浩紀を中心に、批評空間からの議論やインターネットの思想はかなり熱心に読み込んでいたので、ここの理解は思った以上に役に立った。他には誰もやっていないのが悲しいぐらいだったが。

ここで、web3のパーミッションレスという観点から、財におけるexcludabilityとの共通点を指摘したスライドも公開している。

不思議なもので、takaと直接会話したのは、この際だったのでは思う。

この時には一緒に何かするとは思っていなかったが、FtC Tokyo以後に振り返ると感慨深いものだ。

https://x.com/0xtkgshn/status/1536578448872722432

https://scrapbox.io/tkgshn/%E8%87%AA%E5%8B%95%E5%BE%B4%E7%A8%8E%E6%A9%9F%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8Bpublic_chain%E3%81%AF%E3%81%BB%E3%81%BC%E6%94%BF%E5%BA%9C

ここら辺の発言からも、takaが統治に関する何かただならぬ思い入れがあるのだと思ったものだった。

2022年の年末にかけて、EthGlobal Tokyoが開催されることが決まっており、どうにかして動いていかないと、と思ったのを記憶している。

2023年 複数公共財コミュニティの勃発

転換期になったのは、1月29日のFractonHackathonだろう。DeSciイベントをEthGlobal Tokyoイベントをやりたいけどどうすれば良いだろうとFractonの方々と話していた。ここでFractonの亀井さんか鈴木さん(だったかと思う)に『まず動いてみたら』と言われて、そんなもんかと思いつつ動いたのを覚えている。この前後で、Imperial College Londonの川北さんがDeSci Londonに参加してくれておかげで、DeSci Tokyoを開催するイメージができた。

すでに動いていたのだが、仲間集めをしつつ確実にできるまで待っていた。この同時期にtakaに『動いてください!』みたいなDMをもらったのを記憶している。

takaは、Berkleyで開催されたPlurality Research Network Conference (2023年1月13-15日)に参加しておりすでにGlen Weylとは繋がっていた

イベントを開催するにあたって実は4月12日に開催されたPlurality Tokyoも支援しており、スポンサー獲得のためのMTGにも出ていた。このタイミングでCode for Japanの関さんとも知り合ったと記憶している。誰がリーダーか微妙なので決定が非常に遅れたので、『決めるべき』と言ったのを覚えている。

この後に怒涛の勢いでスポンサーを集めたり、クラファン(同プラットフォーム史上最速目標額達成, 5時間43分ほど?)を成功させたりといろいろなことがあった。その経緯についてはこちらに記してある。

この際にDeSci Tokyoの髙木さんと根本くんが頑張ってくれたおかげで、イベントを実施することができた。

すでにPlurality Tokyoについては、鈴木健氏を経由してSmartNewsでの開催が見込まれていたのだが、自分自身は繋がりはなかった。なので、DeSci Tokyoイベント開催には、このあたりで知り合った鈴木啓介さんがSmartNewsの鈴木健さんの大学の研究室の後輩ということでdiscordで繋いでいただいて、オフィスを貸していただく予定になっていた。これが3月に入ってすぐだった。(このタイミングではスポンサーが集めきらずかなり金井さんに指摘されたのを覚えている。)

この時期には、Eth Denverが開催されており、takaはここでDeSci Tokyoの宣伝をしてくれてDeSci LabsのChrisがオンラインだが登壇してくれることになった。

このタイミングで、東浩紀氏と鈴木健氏がイベントを開催されるということで、深夜にタクシーで向かってサインをもらいつつご挨拶に向かった。

鈴木氏がGlen WeylがやっているRadicalxChangeについて言及しており、ちゃんとクリプト界隈(とはいえど真ん中というわけではないが)のことについても興味があるのだと嬉しかった記憶がある (小さなxは柄谷行人の『世界史の構造』における交換様式DのXという話を持ってきていたのは嬉しかった)。ただ、鈴木さん自体は海外のプレイヤーたちと接続されているわけではないので、この接続の機会はいつかしたいと考えていた。(ここでHeatさんにも出会っていて結局彼がNemarakaの英語版作成に尽力していたので良い縁がここでも生まれていた。)

面白かったのが、Plurality Tokyoのイベントの後にtakaが鈴木さんに『なんでクリプトのエコシステムで動いてないんすか?』みたいな内容でキレ気味で発破をかけていたところで、鈴木さんが『頑張ります。』と言っていたのが良かった。

兎にも角にもこのイベントはいい感じで終わることができた。DeSci Tokyoが終わった次の日にGreen Pill Japanのイベントが守くんとHiromiさんが中心で代々木公園であった。そこで、またFractonの方(亀井さん、鈴木さんか、赤澤さんかすら覚えていない笑 すみません。でも守くんではなかったはず。)に『来年はFtCとかと一緒にやれば〜』と話していたのを覚えている。自分としてもやりたかったので、どうやったらやれるもんかと悶々と考えていた。

このタイミングでDe-SiloにDeSci(分散型科学)と「公共性」の関係性についてまとめ上げた記事を公開することができた。アイディア自体は、2022年の終わりからあったのだが書き終えたのはこの時期であった。科学の公共性の観点からパブリックチェーンと公共財の関係を簡潔にまとめた自信作になっている。この記事がベースとなりDeSci Tokyoは活動している。

別件で進んでいたのが、当時JSTの丸山隆一さんが、2023年5月9-10日の2日間ワシントンD.C.開催のmetascience 2023 conferenceに参加するという話を聞いて非常に良かったと思っていた。

https://www.jst.go.jp/crds/column/kaisetsu/column75.html

イベント開催後すぐに丸山さんから連絡が来てEvan MiyazonoさんがDeSci Tokyoに興味持ってくれたと言ってくれたので、calendlyで予約して話そうということになった。

Evan Miyazonoさんとが興味持ってくれたということを丸山さんから教えてもらったとき (2023年5月11日)

結局Evanさんと話せたのは、6月7日で、熊本でJSAIに参加している時だった。ここで、EvanさんにFunding the Commons Tokyoを開催したい旨を伝えた。そしたらProtocol LabsのDavid Caseyという人を繋いでくれることになった。(多分2023年のEthDenverでtakaが知り合ったのだと思うが)Davidはすでにtakaを通じてtelegramで繋がっており、Funding the Commonsの担当はDavidだとわかって、やらないかと言う議論が始まっていた。このDavidはDeSci Tokyoにも顔を出してくれていたのだが、結局イベントに集中していて会えずじまいであった。

Evanとの議論前の丸山さんとのやりとり

また同じようなタイミングで、株式会社ブロックチェーン戦略政策研究所の樋田圭一さんにご紹介していただいたのが、Ethereum
Policy & Legal担当とStanford大学のCyber Policy CenterのSteve Namさんと東京大学情報学環の髙木聡一郎先生のところの博士課程学生のOzさんだった。(東京駅のとら屋で食べたのだが、ぜんざいに餡蜜をかけるのを忘れていたのを思い出した。)

2023年の年末か、2024年の1月あたりに学術機関レベルのイベントを東大で開きたいとのことだった。

このイベントに向けてオンラインを中心として私も動いていった。ここでご一緒したのが、Decentralization Research Center(DRC)のConnor Spelliscyさんで、DAOを協同組合の観点から真っ当に議論した人の1人であった。

結局これが、2024年のFtC Tokyoを良いイベントとするために必要な動きに繋がったと思っている。

あと、社会的共通資本のテーマを取り上げたいので、宇沢国際学館の占部さんにもご挨拶しにイベント会場にも向かった。このタイミングで木下さんとか、Crypto VillageNCLparamitaの林さんについて知ることが増えたと思う。

FtC Tokyoを開催するにあたって、Plurality Tokyoで一緒に運営していFractonの守くんとHalさんなどが入ってもらうことになった。守くんたちはDAO Tokyo & ETH Tokyoのタイミングと合わせて開催を提案してくれた。ここでEDCONのタイミングでやろうという話になる。

このタイミング7月12日で、SmartNewsで、tooriさんやnuunさんたち中心に勉強を開始していた。

https://scrapbox.io/nishio/%E3%81%AA%E3%82%81%E6%95%B5%E4%BC%9A

メモによるとDavidとの8月末のコールで、AI safety/alignment絡み、人口減少オープンソースカルチャー、コモンズ絡みはどうかという話になったと書かれているがこちらのコールはほぼ覚えていない笑

9月には、DeSci.Berlinが開催されるとのことで、じゃ自分もドイツに行ってDeSciの本場がどんなもんか見に行こうという気持ちになった。偶然にもDeSci.BerlinはFtC Berlinとの同時開催で、同じ目的を共有する人たちもいるのだと思ったものだった。

ちょうど守くんも参加しているということで、FtC Tokyoについてちゃんと話そうということになった。この時の議論は、筆談をベースに議論していて、EDCONあたり(4-6月?)で開催すること、人口減少あたりのテーマをちゃんと日本から入れるかという話だった。

Davidは、すぐFtC Tokyoもやるよと書いてくれていて、なんかよくわからんけどおおやるのかと期待が高まった。一方で、自分は何もできておらずこんなので良いのかと漠然と憂鬱になっていたところがある。(あとNature Communicationsに通そうとしていた論文のreviseもしなきゃというところだった。)

FtC Tokyo開催が明確に示されたDavidの発表
FtC Berlinに参加していた日本人で
David, 守くん、自分で (なんかキュルンとなっている)

こっから誰にスポンサーしてもらうのかとか、登壇してもらうのかというところですでに考え始めており、10月29日あたりSmartNewsの会場を借りて『PICSYを世に解き放とう』という同士が集まって開催された第二回のなめら会議では、Pluralityとなめ敵本の簡単な比較みたいな発表を行った。2-3分ぐらいでFtC Tokyoやるよというのは伝えていた。(この時知財図鑑の荒井さんがイベントについて声をかけてくれたのが嬉しかったのを覚えている。)

第二回のなめ敵回で話したスライド
Glenの"POLITICAL IDEOLOGIES FOR THE 21ST CENTURY"を日本の思想に当てはめたスライドも提供している。
https://www.radicalxchange.org/media/blog/political-ideologies-for-the-21st-century/

https://note.com/ojoknek/n/n725a508a53f5?sub_rt=share_b

結局11月にEDCONが7月26日からやるということだったのでその前後でやろうという話になった。ここからFtCのメンバーのbethやannaたちと連絡し始めて、契約を結ぼうと言う話になった。

条件について議論することになり、内部での契約のやりとり含めて結局まとめ切るには2ヶ月ほどかかることになる。

ここら辺でDAO UTokyoも準備も忙しくなっており、ここで多くの登壇者に声をかけていた。私としては、FtC Tokyoのための準備としても位置付けており、日本側で面白い登壇者は私からも声をかけるようにしていた。ここで気になっていたのは、自治体ベースで活動している人たちがいなかったので日本における大きな課題に対して動いている人たちを入れないといけないと言うのがあった。

年末年始にGlen Weylが来るという話がtakaがありイベントをしようという話になっていた。流石に色々回らないので、takaにお任せしておいた。

2024年 DAO UTokyoそしてFtC Tokyoへ

1月3日にGlenが登壇したイベントで、taka、関さん中心となって開催に向かったので詳しいところはよくわからないが、運営として参加者にも声をかけている。

朝走って、今後の資金分配のプロジェクトなどを実際に動けるものをやっていきたいよねという話とかシティズンサイエンスのプロジェクトをしているのかを関さんと話していたのを覚えている。"running the commons"とか冗談言っていたら、お昼の準備に遅れてしまって守くんがほとんど準備をやってくれていた状態になっていた。
守くんごめん。

running the commonsしていた時

この時に、paramitaの林さん、Eriさん、本間さんたちがイベント後にお話しできた。そこで、1月23日・24日に三重県の尾鷲に行くことになった。あと、イベントが少しごたついたことが気になったとEriさんにフィードバックいただいて、”手伝えるよ”と言ってくれたのが心に残っている。Eriさんたちは奄美大島の龍郷でもプロジェクトをやっていると言う話があり、自分の出身だったのでその話で盛り上がることができた。

年初の話はマッチングドネーションプロジェクトにつながることになる。takaが主導しつつCode for Japan、DeSci Tokyoで支援している。Web2でのfungingを促進するオープンソースプロジェクトとしてsupermodularsimplegrantsを用いて、日本でも実践をしていこうという話になった。できればFtC Tokyoでその結果を発表したいという目論見があった。この先に、Code for Japanの関さん推奨するデジタル公共資本基金のようなプロジェクト支援の実現までの道筋を作るためにやろうという話になった。

2024/1/31 Web2 QF ツールを触ってみる

尾鷲で林さんやEriさんたちが何をしているのかを知るためにサイボウズの西尾さん、守くん、takaと濱田で向かうことになった。予定表を作成してくれたEriさん本当にありがとう。

山の杭打ちに向かったFtC Tokyoチーム
尾鷲に行ったメンバーで最後撮った写真 尾鷲の柴山さんも一緒に
(左からtaka、西尾さん、守くん、林さん、Eriさん、濱田)

https://scrapbox.io/nishio/%E5%B0%BE%E9%B7%B22024-01-23~24

NCL・paramitaの取り組みは本当に地に足つけた良いものだと思ったので、2月6-7日DAO UTokyoのイベントにもぜひ林さんやEriさんに参加してほしいとお伝えした。FtC Tokyoでも重要な登壇者になると考えていた。

日本における文脈

結局FtC側と色々やりとりして契約を結んで正式にイベント開催になったのが、1月末であった。こっからスポンサーが取れるのか心配だったが、やるしかないなということになった。

この後イベント会場を、決めてスポンサーを集めていくことになる。

FtC Tokyoのメインテーマ

今回当初はDeSci TokyoとFtC Tokyoは二日間を分け合う形でイベント開催する予定であった。ただ、FtC側が協力できなくなるため、途中でFtC Tokyoのプログラムの一部として扱うことになった。メインのテーマとして『公共財のための再生的メカニズム (regenerative mechanism)』を設定し、DeSciやデジタル公共財の構築のような取り組みは、地球自体は限りある資源=コモンズであることが明確になった世界で新たなインフラを作る動きだと思っている。今回さらに踏み込んで、そのインフラを作るために必要な仕組み、メタインフラを作っていくというのが大きなテーマだった。

私が期待するDeSciTokyo/FtC Tokyoの成果は以下の三つであった。
1. 世界におけるDeSciや公共財絡みの取り組みを日本に紹介
2. 世界で活動しているトッププレイヤーを日本のプレイヤーに接続
3. 日本の取り組みや思想的文脈をクリプトの世界に紹介する

ここで最も重要視した文脈として、先に述べた2000年代のインターネット思想の再考がある。鈴木健氏の『なめらかな社会とその敵』はその中でも特別な思いがあった。鈴木健氏は独自の思想を構築しつつも柄谷行人から影響を受けた。オードリーも柄谷行人から影響を受けており、柄谷行人の影響関係を広く受けた1人である。

柄谷行人の弟子・影響関係

また林氏のLocal Coopは独自の価値があり、この文脈と取り組みはより注目されるべきと考えていた。林氏自体は『地域再生文脈で捉えられたくない』ということをことあるごとに話しているが、新たらしいポスト資本主義社会の新たなOSレイヤーを構築する取り組みであり、Local Coopはその一つのアイディアであり、Network Schoolとともにポートフォリオを形成していることをより幅広い人たちに知ってもらいたいと思っていた。

DeSciの文脈では、日本ではトークン発行が難しいためトークン発行以外の方法でそのあり方を実現する必要がある。そのため今回は、海外文脈としてIPトークンやグラントDAOのあり方、査読論文にトークンインセンティブをつけるなどの議論をBoostVCMoleculeAthenaDAOCerebrumDAOResearchHubの登壇者にしてもらった。日本からは分散的にあるリソースをいかにまとめ上げ新たなイノベーションの種=分散型イノベーションコモンズとするのかという文脈で、市民科学、サンドボックス制度、クラウドラボ、データサイエンスプラットフォーム、プレプリントサーバーの議論を共有してもらった。これらは全て、新たなイノベーションの種を作るための仕組みに関する取り組みであって、サイエンスの観点から公共財のためのメカニズムとして取り上げている。

水面下でのやりとり

今回のイベント実務的な難しさに、アメリカのFunding the Commonsチームとはオンラインでやりとりするのみで、彼らが求める設備やクオリティ、優先度が確認できないところがあった。また最初にチームメンバーの役割が見通せない状態で始まったため、逐一コミュニケーションが始まってしまう問題があり、タスクが流れてしまったことも結構あった。ここは大きな学びであった。

国連大学、サブ会場のGEOC、スポンサーディナー会場、アフターパーティ会場、スポンサー、FtCチーム、ケータリング業者、通訳業者、経理メンバー、ボランティアメンバー、登壇予定者と直接私がやりとりすることになりかなりコミュニケーションコストがかなりかかったことを覚えている。スタートアップでもそうだが、一緒にやるメンバーの特性を分かった上でやることができない以上こういった問題は多く出てくる。

さらにFunding the Commonsチームから最初、DeSci Tokyoのウェブサイトに載せた情報がよくわからないので話したいと言われたこともあった。そこで思想的な流れを共有するとこれらの話に非常に興味を持ってくれた。この瞬間にチームが一体になった感触があった。

2月から徐々にスポンサーを集めるために声をかけ始めたのだが、見込みとして考えていたところは全くダメで一個もスポンサーを取れず新たに開拓する必要があった。4月からようやくいくつか声をかけて徐々にスポンサーが集まってきたが、予算の額にすら全く届かないほどだった。風向きが変わってきたのは5月末で、著名スピーカーの予定を抑えられ始めたのが大きな転機になったと感じている。ただ想定している額には届いていない状況であった。

さらに、一部のスピーカーからは渡航費と滞在を求められたが、かなり経費が増えることになり、その分を捻出できる状態にないため追加で声掛けをすることになり、赤字にならないかのギリギリの戦いになった。見通しがないまま続けざるを得なかった。

ここで登壇者として呼んだ人たちにもスポンサーになって頂くべく再度声をかけた。徐々に支援をしてくれる人が集まって、なんとか経費を賄うことができる見通しがたった。スポンサーになってくださった方々には感謝しかない。最終的に声がかかり赤字は避けるだけのスポンサーを集めることができ、駆け込みで多少の利益は出るようになった。

7月はほとんど調整業務だけになったためそちらについては守くんにお任せすることにした。そしてイベントのロジについてはEriさんにアドバイザーに入っていただいた。

デジタル民主主義の追い風

イベントの大きな追い風になった一つに、デジタル民主主義に関する英語書籍出版されたのと、都知事選に安野たかひろさんが参加されたところがある。

Audrey Tang氏とGlen Weyl氏らが書いていたデジタル民主主義に関する書籍、通称『Plurality本』が4月に出版されることになり、世界的にも注目されることになった。これによって本の宣伝という形で彼らを呼ぶのが楽になったところがある。

西尾さんが所属するサイボウズ社が、このPlurality本の日本語訳を作成するプロジェクトも進みデジタル民主主義を議論する土壌ができつつあった。年内に翻訳が完成するのではという話を聞いている。
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/books/plurality/

安野さんは、AI安野や、Talk to the City (TTTC)というツールを用いた都民の声の可視化などデジタル民主主義を掲げて先進的な取り組みをし注目された。Plurality本に呼応するような形で、日本の取り組みがAudreyやGlenにも知られるところになった。

都知事選以後安野さんの活躍を見ない日はないほどの色々なイベントが企画されている。

そしてFunding the Commons Tokyo

7月のイベント前は私自身本職が忙しく、調整仕事は多くの方にお任せることになった。ボランティア募集は一緒にやれるメンバーだと思う人を事前に声かけていたおかげでかなりスムーズにいったし、当日のロジスティクスについて全体を見れるEriさんがいてくださったおかげでかなりトラブルのリスクを下げることができた。一個ダブルブッキングの問題がのちに判明したがそれぐらいだった。

あと都知事が登壇したいという話があって会場場所やらプログラムに何分入れて欲しいとかそういう打ち合わせがった。イベント一週間前とかの調整が急に必要になったりもした。担当者を経由して話してもらったけれど、なぜ小池都知事がこのイベントに興味を持ったのかはいまだによくわらかないでいる。

DigDAOのマッチングドネーションについても6月末ぐらいからtakaがリードしつつ、第一回の実験を実施した。「DigDAOマッチングドネーション #1」は、2024/7/17~24に実施され、179,962円110人の寄付者によって18件のプロジェクトを支援することになった。

イベント中

 前日はプリント印刷等の作業が入っていたけれども、配信以外のパートは基本的に問題なく進められたと記憶している。イベント前日の準備では、配信準備以外はスムーズに進むことができた。配信のリンク情報等が事前に共有されておらず配信準備が直前までできなかったため、Kimと担当してくださった業者の方々は寝ずの作業が続いたと聞いている。イベント周りのロジは守くんが担当してくれていて、午後8時ぐらいまで作業していたので何かトラブルがあったかもしれない。

裏では、AudreyとGlenたちのクローズドイベント(WIRED universityを含む)と一部登壇者を対象にしたインタビューを守くんとKimが回しており、イベント単体だけではない盛り上がりを作る仕組みは用意できていた。

24日には午前8時前に集まって最終調整を行なっていた。その時間前後には朝食用のスナックや飲み物も届いていて、安堵していた。

いよいよイベントが始まると、都知事が予定より早く到着したという情報があり、早めに進行することになった。むしろ早く進みすぎて追加で休憩時間を入れたほどだった。司会 (Master of Ceremony, MC)を担当してくれたRachelは非常に力強く、有無を言わせぬ進行で時間を調整してくれるのでイベント全体が引き締まった(ぜひ彼女の声に注目して動画も見てほしい)。

今回のイベントでは思った以上にたくさんのトークが予定されていたためタイムマネジメントが必要になったのだが、Eriさんのアドバイスもあってかなりタイトな登壇マネジメントをしている。プロの仕事はやはり違うと実感することができた。以下にリストとして残しておく。

  • 登壇のタイトルとスライドの事前共有

    • こちらは何度も事前に登壇者に伝えておりスライドを確保していた

  • 通訳との登壇前の事前ミーティング

    • これは通訳業者からのサービスで実施してもらった

  • 登壇者のタイムマネジメント

    • 事前の登壇時間共有

    • 次の登壇者のスタンバイ

      • スタッフは登壇者の顔と名前が記録された資料をバインダーの中に入れており把握できるようにしてあった

    • これらの指示を速やかに実施するためにトランシーバーの確保

    • 残り時間の表示のためのスケッチブックの用意

私は全体のチェックのためにメイン会場とサブ会場を行ったり来たりしつつ、登壇者やスポンサー様への挨拶をしていた。中には挨拶できなかった相手もいて、当日には臨機応変でやれることは危機対応のみなのだなと実感するばかりであった。

25日に実施したアフターパーティでは、全く関係のない分野の方(美容関係だったと思う)がお礼の挨拶だけしたいと思い参加してくれたようで挨拶をしてもらったことを覚えている。

その後、鈴木健さん、林篤志さん、林ゆうすけさん、Eriさん、taka、Heatくんやイベント参加者などのメンバーで反省会を実施できた。イベントとして本当によくできたことを確認できたし、今後この文脈をどうやって広げていくか短い間だが話すことができた。林ゆうすけさんにとってもよい日になったようだ。

その週の土曜日 (一日間をおいて) FtC TokyoのメンバーでKernel Hongoに集まって実施した。Davidから事前にこういったセッションを実施したいといってくれてメンバーともども良かったと思っている。2時間半ほどの間に今回のイベントの反省点をかなりリアルに伝えることができた。FtCの今後の活動も期待できることがあり今後の活動に期待したい。

このレベルのイベントを海外でやり続ける体力はすごいなと思いつつ、この文脈を世界へ引き継いでいってほしいなと思うばかりである。

7月24日の集合写真
Funding the Commons Tokyoのメンバーでフィードバックセッション後の集合写真

目標達成について

最初の想定よりお多くの登壇者、参加者、そして盛り上がりを得ることができたし、赤字もなくイベント自体大きな問題なく終えることができた。この点で言えば、申し分ないイベントであった。この結果には満足している。だがより大きな目的が達成されたかどうかがより大事である。

改めて、今回のイベントの目的について取り上げよう。
1. 世界におけるDeSciや公共財絡みの取り組みを日本に紹介
2. 世界で活動しているトッププレイヤーを日本のプレイヤーに接続
3. 日本の取り組みや思想的文脈をクリプトの世界に紹介する

1.については、重要なプレイヤーを揃えることができ登壇に導くことができたしその内容を動画を含めて残すことができた。ここについてもこれ以上現状ではできなかったと思うし、よくやることができた。後悔はない。

2.と3.の目標として、鈴木健氏をAudrey Tang氏、Glen Weyl氏、Ethereum Foundationなどと接続するというのが具体的目標の一つだったのだが、そちらも後に示すように接続することができた。また9月現在、鈴木氏の元には今後の取り組みについて色々話が来ているようだ。具体的な取り組みに落とし込みの議論が始まったばかりなので、着実に進めていく必要を感じている。

3.については、まずFtCの主催者メンバーに柄谷行人とPluralityまでの流れ、『なめらかな社会とその敵』について紹介することができた。そのうちの1人についてはイベントまでの読書リストの一つとして『世界史の構造』をあげることをしてくれたほどだった。思いがけずではあるが、デジタル民主主義を都知事選で実現しようとした。また、理研の神田元紀氏のクラウドラボの取り組みについても興味を持ってくれる登壇者が出てきていた。

2.と3については、これからさらに結果が見えるところなので、焦らずに結果を待ちたい。それまで地道に自分たちの取り組みを進めていくのみだろう。

FtC Tokyo以後の世界

FtC Tokyoをやった意義は少しずつ広がり反響も少しずつ感じ取ることができている。

WIRED Japanがあった日はGlenにとってプロとして最も良い1日を提供することができたようだ。健さんが最後いろいろ繋いでくれたからというのがある。本当にありがとうございます。

Audrey Tang氏のインタビュー動画。Tokyo Women's Plazaのこの和室も25日の午後しか空いていなかったが見つけることができた。やはりここを選んで良かったと思っている。

健さんは最終的にVitalikに会うことができたようで、2時間ほどいろいろ話したと聞いた。最終的にVitalikのブログにも言及があって、想像していた世界線の一つが実現された。

Vitalik Buterin氏のブログにKen Suzukiの名前が出た。

https://nameteki.kensuzuki.org/book-summary-enja

Heatくんが頑張ってなめてきの英語版も作ってくれたようでこちらも大変良かった。

安野さんについてもテレビでも見ない日がないぐらいの活躍で日々ブロードリスニングを取り上げてくださっている。英語圏での注目度も上がっているという話も出てきている。

林さんからも我々の想いを感じてくれてparamitaとしてスポンサーもしてくれた。『要は、もう「地方創生」や「課題先進国(地域)」といったフワッとした言葉を並べるのはやめて、ラディカルに実装していこう!ということが言いたい。』同じことを日本や科学に感じており少しでも変えたいと思い動いてきた。熱い言葉を受け取ることができた。

今回AI alignmentについて台湾の事例と合わせて議論してくれたPeterとは、イベント後に1時間だけだが話すことができた。もともとTalk to the cityを作っているAI Objective Institute(AOI)にAudreyがアドバイスしていたこと、その縁で台湾とAOIには良いつながりがあることを知ることができた。

FtC Tokyoでも登壇したJia-wei (Peter)と共に

https://x.com/melnykowycz/status/1836439312470053326

今回議論されたものが実装される検証される社会がくることを期待しつつ私の活動に一旦区切りをつけたと思う。もう2度とこのレベルのイベントを自分でやりたくないなと思うが、やるとしたらもっと仲間を集めた上でやりたい。一方で、その際にはこれだけの熱量を持ってやれるかと言われると疑わしいとも思うぐらい奇跡的な流れが今回あった。

2024年9月現在、次の打ち手がないというのもがあるけれど、私自身イベントをやり切ってバーンアウト気味になっている。お世話になった人たちにお礼しつつ、自分ができることを整理しつつまずは休むことにしたい。

謝辞

まず、イベントを一緒に作り込んでくれた、takaと守くんにお礼を伝えたい。2人のおかげで国内外の著名なスピーカーを呼んで実施することができた。もちろんFtC Tokyoを実現させてくれたFtCのメンバーJessica Bock, Kim Buisson, David Casey, Beth McCarthy, Taka Matsui, Anna P Medinaにも深く感謝したい。イベントパートナーとしてイベントのサポートしてくれた、関さん、根本くん、鈴木雄大さんには非常にお世話になった。他にもDeSci Tokyoのメンバーとして参加してくれた岡島さん、高木さん、白崎さん、ボランティアスタッフとして、イベントを完璧にオペレートしてくれたEri Kawai、Rachel Brissenden、Stashu Tomonaga、Mari Izumikawa、Takumu Matuura、 Hiromi Ouchi、Yuki、Haruto Kakizawa、Oishi、Leo Nelki 、Kiba、このイベントの会計を担当して裏方として支援してくれた千葉さん、清水さん、イベント実施を許し支え続けてくれた金井さん、Plurality/デジタル民主主義を盛り上げてくれた安野さん、西尾さん、イベントのきっかけを作ってくれた丸山さんとEvan Miyazono、イベントの支援者として協力してくださった久能さん、鈴木さん、岡田さん、白川さん、大日向さん、林さん、金光さん、荒井さん、山内さん、向縄さん、志水さん、高部さん、彼らに全てに感謝を伝えたい。

スポンサー企業

最後に、この一年私の愚痴いつも付き合って心身ともに支えてくれた妻の亜美に深く感謝したい。

サポートよろしければお願いします!