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「神がかり!」第33.5話

 第33・5話「分岐点(番外)」

 風光明媚な地方都市、天都原あまつはら市にも未成年が近づくのには不適切な繁華街はある。

 所謂いわゆる、夜の街というやつだ。
 
 深更へと向かう頃、その場所が最も輝きを増す時間帯での”ある店舗”内……

 ――ここは一世会いっせいかいが仕切る繁華街の高級バー「SEPIAセピア

 ……の裏通り。

 「……」

 ”SEPIAセピア”店舗の裏口に乱雑に並べられた酒類のコンテナとゴミ箱と、

 店舗内の華やかさとは真逆の暗黒街に佇む一人の男。

 ――不気味な……男?だよな?

 その男は一見サラリーマン風で、有り触れた紺のスーツ姿だった。

 体格も普通、これといって見栄えのしない男だろう。

 「……」

 俺は頭を軽く振り、少しばかり感じた違和感をリセットする。

 そして――

 「お客様、私どもは別に事を荒立てるつもりはありません。正規の料金さえ支払って頂ければ……」

 奇妙な男を前に、いつものマニュアル通り対応する折山 朔太郎オレ

 森永もりながという、光沢パープルのサテン生地スーツを着こなす中々悪趣味ハイセンスな小太りサングラス上司が押しつけた何時いつものトラブル処理の指示に従い、裏口から外に出た俺だったが……

 こうして、こんな”風変わりな男”と対峙する羽目になってしまっていた。

 ――”おう、さく。仕事だ!”

 ――”ゴネ客だ!裏で待たせてある。いつも通り適当に処理しろっ!”

 小太り男、森永もりながという、バー「SEPIAセピア」店長代理の男は……

 何時いつも通り俺にそれだけ告げて、後はエラそうに応接セット机に脚を放り出したまま、なにやら真剣にスマートフォンの画面と睨めっこしていた。

 目も合わさずに横柄に命令してくる、一世会いっせいかい哀葉あいば組若頭、西島にしじま かおるの舎弟、森永もりなが

 そこまでは至っていつも通り、代わり映えしない日常だったのだが……

 「……」

 現在俺の目前で、必要以上に俺の顔をジロジロと眺めてくるサラリーマン風の男は……

 顔中に包帯ぐるぐる巻きの、爛々と光る目だけをそこから出した奇妙な男だった。

 ――おいおい……あからさまに不審者だろ?

 ――いくら裏世界の店だからって、最低限の入店チェックはしろよなぁ……

 俺はそんなことを胸中に、外面は普段通り支払いをごねる客相手の取り立てをしていたのだった。

 「……」

 「お客さん、払った方が良いと思うけど?お互い時間の無駄だと……」

 ――っ!?

 次の瞬間だった!

 一瞬で……

 ――いや?どうなった!?

 俺の顔前に、ぐるぐる包帯巻きのミイラ男の眼光……

 いつの間にか鼻と鼻が触れあうほどの距離に、その奇妙な男が詰め寄っていたのだ!

 「くっ!」

 俺は条件反射で右拳を打ち出す!

 「うひゃっ!」

 それはゼロ距離からでも放てる、肘を起点にしたノーモーションの突きだったが……

 ミイラ男は奇妙な悲鳴を上げつつもそれを後ろにスライドしてかわす!

 ――ウソだろっ!?

 咄嗟だったのもあり、加減は出来ていないはずだ。

 「……」

 最初の動きといい、今の動きといい、得体の知れない相手の動きに、俺は多少なりとも本気で驚いていた。

 「ひゃひゃひゃ!これは中々の……」

 ――ちっ!

 ぐぐっ!

 バキィィッ!

 「の……のぉぉぉぉぉっ!!」

 見たことも無い奇妙な動きで後方にスライドして俺の拳をかわしたミイラ男の顔面を、再び捉えた俺の右拳!!

 ガラガラガッシャーーン!!

 今度は咄嗟に”肩を入れて”新たな射程を得た俺のパンチがミイラ男を吹き飛ばしたのだ。

 そして男は、後方に積み上げてあった壁際のプラスティック製ビールケースに派手に突っ込んで崩れたそれらの下敷きになる。

 ――なんなんだ?いったい……

 俺は伸びていた右腕を戻すと、奴がなぎ倒したビールケースの山を確認……っ!?

 ざざっ!

 いや!俺は確認せずに後ろを振り返り、バックステップで其処そこから距離を取って三度みたび、拳を構える!!

 「ほほぉーー?すーごいですねーー!!人間わざじゃないでガスよぉぉ!」

 ――初見と同じ!?

 いつの間にか俺の後方に立っていたミイラ男は、両手をパンパンと叩いて大げさに感動を表現していた。

 「……どっちがだ……ミイラ男」

 俺は油断なく両拳を構えたまま距離を……

 ――っ!

 そう距離を詰めようとした瞬間!

 ミイラ男は両手を前面に差し出して、それをゆっくりと頭上に挙げて万歳していた。

 「……」

 ――なんだんだ……いったい、この男は……

 そして警戒しつつ様子を覗っていた俺に、その包帯ぐるぐる巻き男は話しかけてきた。

 「敵意はないですよぉ!ほんと、これっぽっちも……というか、どちらかというと”助言”に現れた次第でありますですよ!」

 ”可笑おかしな言葉遣い”で意味不明の事を告げるミイラ男。

 「しかし……すごいもんでガスねぇぇ!”この世界”で”我が輩”を……この”幾万いくま 目貫めぬき”に真面まともに攻撃を喰らわせやがるなんてぇ。フテイ存在がいやがるとわぁぁ?こ、これは流石に予想外ですにゃーー」

 ――この世界?

 ――幾万いくま 目貫めぬき

 「いやいや、そんな訝しげな顔はやめてぇ!ケンカは止めてぇ!二人を止めてぇぇ!ひゃひゃ……なにね、貴方あなた様に幾万 目貫わがはいは必要ないとはガッテン承知でガスが……すこぉしばかり面白い趣向を……とね。ああ、お気になさらずに!お気に召すまま!?暇つぶしともいうかもしれにゃいですがぁぁ」

 ――何を言っているのか全く意味不明だ……この男

 ――けど……

 「只者ただものじゃ無い事だけは確かだ、お前。いったい……」

 「ふぉふぉ」

 俺の言葉にミイラ男の包帯から覗いた眼が怪しく光った。

 「だぁかぁらぁ、我が輩は幾万いくま……は、まぁどうでもよいですにゃ。問題は貴方あなた様が選択肢を誤らないように、なにかと気を遣うわけでガスよ??”本道”の世界を憂える傍観者アナザー・ワンとしては……」

 ――”本道”の世界?選択肢だと?

 ――傍観者アナザー・ワン

 「日本語話せ、ミイラ男……時間が勿体ない」

 俺は拳を構えたまま距離を一歩詰める。

 「ほんと、トント、貴方あなた様やぁ”隻眼のはがねくん”には、幾万 目貫わがはいは必要ないとじゅうじゅうじゅうぅぅっ承知でガスがぁ……人一倍手間が入り用の”盾人間の盾也たてなりくん”の例もあるですもんで……余計なお世話にまいった次第、まいった、まいった、なんちて?」

 「……」

 ――無理だな

 言葉遣いも、言ってる事も……

 かく、意味不明。完全なる人格破綻者だ。

 「……」

 ――とりあえず、ぶっ飛ばして、金を回収……

 「解っているとは思いやがるですが?貴方あなた様の”選択肢”は”瑠璃ラピスラズリの魔眼姫”……六花むつのはな てるの一択でガスよ?……折山おりやま 朔太郎さくたろうくん」

 ――っ!?

 再び詰め寄ろうとしていた俺は急遽!つま先に力を込め、前のめりに踏みとどまっていた。

 「ゆめゆめ、血迷った行動は控えるがきちキチばんばん、よほぉ」

 「おまえ……なんでそれを」

 ――なんでてるの事を知っている?

 しかも六花むつのはなと……旧名まで。

 ――いや、それどころか”瑠璃ラピスラズリの魔眼姫”?

 その名称は初耳だが……

 てるのあの”治癒能力”や、その時に発現する神秘的な瞳の色まで何故知って……

 「ああ、お気になさらずに。”この世界”、貴方あなた様の人生にはこれっぽっちも関係ないことばかりですから、流行の異世界、使い古された多重世界の物語でやんすよ」

 「……」

 ――さっきから持って回った言い方を……こいつ

 「で・す・がぁ!」

 包帯ぐるぐる巻きのミイラ男は、人差し指を立ててそれをメトロノームよろしく左右に振る。

 「多種多様な世界はその根底で複雑に煩雑に粗雑に繋がっているモノなのですよぉぉ!我が輩、全てはこことは別の世界、お話、”あかつきの世界”の為に動いている次第で。ですので今回は、今作は、徒のお節介で、特に気にとめて頂く必要は無いデスヨ、これホント……つまり……」

 ――もう……いい

 俺はこれ以上は不毛の上塗りでしかないと、殺気を放った。

「金を払って消えろ」

 相手の言葉を遮って”それだけ”言い捨てる。

 「……」

 「……」

 ――俺は色々と忙しいんだよ……

 況して今は六神道ろくしんどうだの怪物だの……変な事に巻き込まれてホント散々なんだ。

 これ以上”厄介ごと”はごめんだ。

 「なるほど……にゃるほど……けど……」

 「金だ!」

 俺は引き際をわきまえない男を再び睨む。

 「けど、するんでしょ?しやがるんでしょ?電話?」

 ――!

 いつの間にかミイラ男の手には俺の……

 いや、東外とが 真理奈まりなから借りたままのスマートフォンが握られており、それを天高く掲げて此方こちらを見ていた。

 「そうかよ!」

 俺はもう……決めた。

 そうだ、そもそも長々と相手をしたのが間違いで、現在いままでの俺のやり方を通すだけで良い!

 ババッ!

 ――つまり暴力だ!

 「深層心理?判断を決する為にその前に相談?する相手は重要デスにゃ。あの女?この女?……勿論おすすめはてるちゃんですよーー」

 ――ちっ!?

 無視して相手の懐に踏み込んだ俺は、躊躇せず拳を振るうも……

 「因みに……血迷う場合は……”剣道女”ならタイトルにEの文字ルート。素直じゃ無いところが中々に面倒臭い”あの娘”はMの文字ルート。それを進めていくとよいですにゃー」

 ――は?

 突き出した拳をアッサリかわされた事よりも、俺はその意味不明さに戸惑う。

 タイトル?Eルート?Mルート……なんだそりゃ。

 「だから、おまえ……何を言って……」

 ――っ!?

 と、俺が気がついたとき?

 いや、俺は”ずっと”ミイラ男を見据えていたのだが……

 それでもその男の姿は……

 ――俺の前から忽然と消えていた

 「……」

 目を逸らしたわけでもないから、消えたところを見たわけでも無い。

 つまり――

 ”消えた”という状態の変化も起きていない。

 記憶は有るのにそれが現実で無いと強引に認識させてくる……

 なにか得体の知れない巨大な意思のようなもの。

 不可思議極まりないがそれは……

 ”ソレ”は最初から其処そこには居なかったのだ。

 「…………」

 俺は二度ほど、瞬きする間だけそこに立ち尽くしていたが……

 やがて両の拳をゆっくり降ろし、両拳それを無造作にポケットに突っ込む。

 ――もう俺の目の前には奇妙なミイラ男はいない

 「……」

 そしてそこには、替わりとでもいうのだろうか?

 代金である一万円札が数枚……アスファルト上で小石に挟まれて置かれていた。

 俺のポケットの中の右手には何故か元通り、東外とが 真理奈まりなのスマートフォンがある。

 「………………くだらねぇ」

 俺は――

 いつもの台詞せりふを吐き捨ててから、回収した金を持って店内に戻ったのだった。

 第33・5話「分岐点(番外)」END

 *この話はあくまで番外です

 時系列的には本編三十四話の前日譚になります。

 またこの話に出演する”謎のミイラ男”は本作のストーリーには直接関係ありません。

 本作「神がかり!」含め、他作品「たてたてヨコヨコ。.」「黄金の世界、銀の焔」などは「魔眼姫戦記-Record of JewelEyesPrincesses War-」という作品のパラレルワールド的な位置づけになっているので、設定的に薄らと繋がっていることになっております。

(各ヒロインが”魔眼の姫”として重要な役割で登場します、各主人公も一応出演します)

 しかし各作品が独立しているので特に他の作品は解らなくても物語上大丈夫にもなっております。(作者が「魔眼姫戦記-Record of JewelEyesPrincesses War-」という作品を書きたいがために、設定上作った世界をせっかくなので別作品の小説として書いているだけなので)

 また、作中で幾万いくま 目貫めぬきから説明がありましたように、本作はこの後分岐します。

 ヒロインによって多少話が変わりますが、正史的なルートは勿論”てる”ルートです。

 他の真理奈まりな(M)、嬰美えいみ(E)ルートはお遊びでオマケ的なルートと受け取って頂けたら幸いです。 

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