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「神がかり!」第15話後編
第15話「六神道」後編
カラーンカラーン
本日何回目かの俺の貴重な睡眠時間が終わりを告げる……四時限目終了だ。
授業終了の鐘が鳴り、目を覚ました俺は机から”カロリーメイド”を取り出した。
「今日は教室で食べるんだ?」
前席の男がまたもや馴れ馴れしく話しかけてきた。
「……面倒臭いことはごめんだからな」
鬱陶しがりながらも案外律儀に応える俺。
「岩ちゃん、おっと!岩家先輩には、”ほたるちゃんにはもう近づかない”って言ってたけど……最初から守る気ないんだよね?朔ちゃんは」
波紫野 剣は迷惑だとオーラを放つ俺にお構いなしで愉快そうに喋り続ける。
「ゴリラとの約束守るような殊勝な人類がいるのか?」
仕方なく俺は口元をもごもごさせながら答えた。
ははは、と快活に声を上げた剣は、直後、急に真面目な顔になる。
「それはそうと、ほたるちゃんこないね……二限目のあとはいつもと変わりないようだったから安心したんだけど……やっぱり堪えたのかなぁ?」
波紫野 剣はチラリと横目に俺を見ながら、わざとらしく独り言を言う。
――
実は四時限目の授業が始まる頃には、"守居 蛍の噂”は一年の間にも広まっていた。
「……」
俺はもぐもぐと何でも無いように昼食を進める。
「気にならないの?」
「……」
剣の言葉が聞こえないように食事を続ける。
「えっと……あのさ……朔……」
ガタッ
次の瞬間、俺は急に立ち上がっていた。
「行くの?」
なぜか嬉しそうに俺を見上げる男。
ーーけどな……
「……だれだ?」
期待の籠もった剣の声を無視して、教室の入り口付近を睨んで俺は尋ねていた。
「?」
剣も俺の視線を追うようにそこを見る。
――
そこには見慣れない他クラスの少女が俺を手招きしていた。
「折山……朔太郎くんだよね?」
「……」
「ちょっと屋上いいかな?大事なお話があるんだけど……」
「……」
――ホントに誰だ?この女?
――
―
「気分はどうだい、岩家」
蜂蜜色の髪、碧い瞳、甘い顔の美少年が歪に嗤っていた。
「う゛う゛ぅぅ……」
光の届かない薄暗い地下室の中、頼りなげに瞬く蛍光灯の下で拘束されている大男が一人。
天都原学園の一般には知られていない旧校舎の立ち入り禁止区域にその部屋はあった。
「う゛う゛ぅぅ……ぐぅぅ……」
上半身裸で、丸太のような鍛えられた両の豪腕を後ろ手に戒められた巨漢の男。
――岩家 禮雄
太い首と肩の筋肉が隆々と盛りあがった彼自慢の肉体は、ギリギリと締め付ける金属製の鎖でグルグル巻きにされ、巨体は許しを請うように跪かされていた。
「むぅ……ぐぅ……ぅぅ」
四角いゴツゴツとした無骨な輪郭は彼の面影を残すが、その目の上には”ごつい革製”のベルトが目隠しのように巻かれている。
グッタリとして生気の失せた顔は、普段の彼を知る人物なら別人かと見紛う程だろう。
「儀式のね、準備はもう出来てるんだよ。だけどその前に……」
御端 來斗は愉しそうに口元を歪め、岩家の上半身に巻き付けられた鎖に触れた。
「っ!」
ドガァァァ!
次の瞬間!岩家の巨体が天地逆さまになり、顔面をコンクリートの床にめり込ませる!
「が、がは……」
――どさりっ
頭を下に!地面に突き刺さった杭のようにピンと硬直して伸びきった足が直ぐにダランと重力に垂れ下がった後、崩れ落ちる巨体!!
「ぅぅ…………」
最早、抵抗することを諦めた男は、ただ怯えたようにハニーブロンドの美少年に為すがままにされていた。
「あっ!今思い出したよ。君も色々と僕のことを言っていたよね?異人の混血とか……」
バキィィ!
先ほどとは反対の方向に回転した巨体は、今度はコンクリートの床に後頭部を打ち付けていた。
「ぐっ……か、勘弁……して、くれ……」
為すがままの物体がようやく絞り出した人語。
「……」
その許しを請う男を見下ろすのは、冷たい青い瞳。
合氣を操る御端 來斗に掛かれば、どんな体格差の相手であろうとも魂の無い木偶人形同然、扱うのは容易い事であった。
「勘弁?とんでもない!君はこれから至高の存在になるんだよ!六神道最強の至高の存在……すごいじゃないか!」
笑いながらパンパンと両手のひらを打つ蜂蜜色の髪の美少年。
「……まぁ?試したことは無いから……死んじゃうかもしれないけどね」
「っ!?や、やめて……くれ……俺を実験台に……するのは……」
「実験台?そうか!そうそう!じゃあ”至高”じゃなくて”試行”の存在!!いや寧ろ”思考錯誤”の存在だね!くれぐれも”死亡削除”にならないと良いね!ふふ……ふふふっ上手いこと言うなぁ、岩家 禮雄くんは!!」
殆ど自分で口にした戯れ言に御端 來斗は嘲けてケラケラ笑う。
「…………」
何を言っても無駄だ……
この男は狂っていると、岩家は諦めたように口を閉じた。
「あれ、諦めちゃったの?面白くないなぁ」
岩家は相手の言葉に反応せず、動かない。
「…………まあいいか?お前を完成させたら次は六神道の連中を葬って、その後はついでに守居 蛍か?」
「っ!」
その名前にはピクリと反応を示す岩家。
「ふふ、良いように利用されたのに、馬鹿だねぇ君は。もてない男はこれだから……」
「み、御端 來斗……おまえ一体……何を……」
ドカァ!
「ぐはっ!」
今度は岩家の顔面に蹴りがヒットした。
御端 來斗には珍しい打撃系だ……
先ほどまでの投げ技と違って未熟な素人の蹴り。
しかし、それだけにその男の苛立ちが如実に読み取れる。
「その名で呼ぶんじゃ無い!ゴリラ!」
そう怒鳴りつけると、御端 來斗はその場に転がっていた鉄パイプを手に取った。
「散々いたぶった後に楽しい人体実験の時間だ!で、その完成の暁には六神道、そして守居 蛍……全部壊してやるよ……あはは、あはははっ!」
「…………」
怯えて地べたに丸まったままの巨体。
もちろん素人の蹴りによる打撃などさして効いてはいない。
だが――
尋常では無い男を前に自由を奪われた自分。
これから与えられるであろう理不尽を否応なく想像させられ、体が縮みあがった岩家はもう反抗の気力の欠片も無くしてしまっていた。
「あ……ぁ……ぁ……ぁぁ…………」
恐怖に打ち負かされ、ただ震える男の体は一回りも二回りも小さく見えた。
「じゃ、始めよっか?い・わ・い・えぇぇ!」
御端 來斗の端正な顔は薄暗闇でもう一度、愉しげに歪んだのだった。
第15話「六神道」後編 END
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