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第六話:母体を癒す赤ちゃんの愛

第二話から第五話まで「キメラ細胞」の話に触れてきた。これまであまり聞いたことがなかったであろうみなさまは奇異に感じ、引いた方もみえるかもしれない。けれども、このキメラは「マイクロキメリズム(microchimerism)」という現象として、すでに多くの研究が行なわれているということを知ってほしい。

母体組織を修復する胎児のキメラ細胞

赤ちゃんの細胞は幹細胞であり、お母さんの身体を自分の細胞を使って修復するという話を宗像から聞き、私は2014年7月6日にブログに書いている。

改めてネット検索してみたところ、こんな記事がみつかった。昨年7月の記事だからまだ新しい。
経産婦は「キメラ」だった?…妊娠中に取り込まれた赤ちゃんの細胞は母体組織の修復を助けるかも(2018.07.03 17:00、サイエンス)

この筆者も書いている。

学校ではこのように教わったはずだ。妊娠中の母親とその胎内に宿る赤ちゃんは、胎盤を通じて栄養分、代謝物、ガスなどの交換しているが、双方の血液細胞は決して交わらないと。どうやら実際そうでもないようだ。赤ちゃんの細胞が胎盤を通して少しずつ母親の血流にリークされ、やがては母親の体内を巡って器官に取り込まれるらしいことが徐々にわかってきている。…「胎児性マイクロキメリズム(Fetal microchimerism)」は正常妊娠でも起こり、個人差はあるものの、母親が一生子どもの細胞を取り込んだままの状態でいることもあるそうだ。

そう、教科書の知識は、すでに古く、「常識」を疑わないといけない。

2015年に発表された研究では、出産後1か月以内、または出産中に死亡した妊婦26名の遺体を調査し、彼女たちの脳、心臓、腎臓、肺、脾臓と肝臓からY染色体を検出した。Y染色体は通常男性しか持っていない。26人の女性はすべて男児を身ごもっていたことから、これらのY染色体が赤ちゃんから巡ってきたと結論付けられた。…このように多種多様な器官で発見されていることから、赤ちゃんの細胞はおそらく幹細胞だと推測されるという。
母親の体内組織が損傷した際にその修復を助けている可能性や、母親の授乳を促進する役割を果たしている可能性が指摘されている。その反面、出産直後に起こる母親の自己免疫疾患の症状が赤ちゃんの細胞によって引き起こされているとの見方もある

マイクロキメリズム

もっつ知りたい方は、以下のページも参考になるだろう。
Fetal microchimerism and maternal health: A review and evolutionary analysis of cooperation and conflict beyond the womb

これが、上に示した記事の元だと思われる。


胎児の細胞が母親を乳がんから守る?

【10月4日 AFP】女性が子どもを産むと乳がんにかかりにくくなるのは、赤ちゃんを守る特性を持った胎児細胞が子宮内で母親に受け渡されるためではないかとする説が、2日発売の医学誌「Cancer Research」10月号に発表された。
米シアトル(Seattle)のワシントン大学(University of Washington)とフレッド・ハッチンソン癌研究所(Fred Hutchison Cancer Research Center)の共同研究チームは、胎児から母体に細胞が受け渡されるという現象(母子間マイクロキメリズム)に乳がん抑制効果があるかどうかを調べるため、女性82人(うち35人は乳がん患者)の血液を採取し、胎児のDNAが含まれる割合を調査した。
その結果、胎児のDNAが血中に含まれていた割合は、乳がんにかかったことのある女性で14%だったのに対し、乳がんにかかっていない女性の場合は43%にのぼった。
研究責任者は、「胎児細胞は母体に入ると、乳がんになりそうな細胞を見分けて破壊するのではないか」との仮説を立てている。ただ、同研究チームでは幹細胞に要因があるとする別の説についても調べており、今後もさまざまな角度から研究を継続する必要があるとしている。(c)AFP


Fetal Cells Traffic to Injured Maternal Myocardium and Undergo Cardiac Differentiation

妊娠したマウスに心筋梗塞を起こさせ、そのときの心臓付近の細胞の状態を調べたところ、胎児由来の細胞が心筋梗塞を起こしていないマウスと比べて多く集まっており、さらにその細胞の50%が心筋細胞に分化したという研究。

Naturally acquired microchimerism

この論文には、多くのマイクロキメリズムに関する研究がまとめられている。妊娠中にリウマチが改善した例も紹介されているので、参考にされたい。

マイクロキメリズムから見た妊娠と自己免疫疾患の関連
-分子遺伝学的アプローチー

2007-2008年、長崎大学で、こんな研究が行なわれている。

自己免疫疾患の多くは女性に多く、妊娠により症状が変化するが、そのメカニズムは不明である。本研究では妊娠中に胎児細胞が母体血中に混入して母児の融合細胞を生じる現象(マイクロキメリズム)に着目し、自己免疫疾患のひとつである全身性強皮症患者を対象として患者血中から胎児DNAの検出を試みた。全身性強皮症患者では、他の自己免疫疾患患者と比較して血中に胎児由来のDNAが高い割合で検出され、マイクロキメリズムが発症に関与していることが示唆された。 


宗像は言う。

SATセラピーにおいて、問題解決度が改善しづらいとか、自己否定感が改善しづらいという女性の場合、キメラ細胞の続柄が自分の子ども(自然流産、人工流産)であるケースが隠れていることがある。本人に流産の自覚がない場合、胚のまま亡くなった稽留流産が考えられる。結婚していなくとも、誰でも性交経験があれば、稽留流産はあると考えなくてはならない。子どものケースを扱う場合、罪意識が伴いやすくプライバシーへの配慮が求められるが、とくに本人が未婚の場合の子どもや結婚前の子どもや配偶者の子でない子どもの場合も含まれるので注意を要する。言いづらいといっても、これを克服できないと、問題解決度や自己否定感が改善できない。これを説明し、クライアントに協力を求めることが必要な場合がある。

無自覚でも、自分の子どもを助けられなかったことによる罪意識は、相当のものがあるのだろう。それを扱うSATセラピストに、クライアントに十分配慮しながらも立ち向かえ、それがセラピストとしての愛だと説くのだ。

おわりに

今回は、母体に入ってくる赤ちゃんの細胞に、お母さんの身体を修復する働きがあるということをお話しした。2014年7月にブログでお伝えしたNatureの記事は、残念ながら、すでにInternetでは見られなくなってしまっていたので、改めて、ほかのページを検索してみた。これを読んでくれたみなさんに「マイクロキメリズム」のことが少しでも伝わり、そのすごさ、キメラの「愛」が伝わったなら幸いである。
私の修めるヘルスカウンセリングでは、SATセラピーで、このキメラ細胞を代理顔表象化することで、いつも自分と共にある「味方」を身近なものにする。第五話では、その中のキーパーソンの話をしたが、実際に赤ちゃんが、おなかの中から母親を助けてくれるということを知っておくと、さらに愛も深まるよね。

宗像から教わった「愛」の温かい話を綴ろうと始めた、この企画。その第二話から第六話まで、あろうことか「キメラ」の話ばかりになってしまった。今年(2019年)3月・4月と連続で受講したヘルスカウンセリング学会のカウンセラー・セラピスト研修が、あまりに衝撃的で、私の心を揺さぶり、再びこれを伝えたくなったからなのだ。自分の中に味方がいて、いつでも見守り応援してくれる、それが感じられたらどれほど心強いことか。どれだけ凹んだって、その自分をよしとし、認め、愛し、何度も問題に立ち向かっていける。これは体験したものでないと解らないかもしれない。自分が気づき、自ら行動を変えることで、自分自身を癒していく。私はそんなセルフセラピーのできる人を、この令和の時代に増やしていきたいと思う。
ただ、いまの世の中には怪しいスピリチュアルも蔓延り、クライアントと「共依存」の関係を作ることによって、お金を騙し取るような商売も横行しているように感じる。多くのカウンセラーも似たり寄ったりで、クイックマッサージのような「刹那の癒し」ばかりではないだろうか。それでいい人はそれでいいが、散財しないよう祈るばかりだ。

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