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第二十四話:SAT法に込められた宗像の愛

宗像は著書「SAT療法」の冒頭部分に、このようなことを書いている。いまから14年前の2006年8月に発行された書籍である。

日本の病院は野戦病院にしか過ぎない…例をあげると,ある患者さんが肝炎になり入院する.その後ライフスタイルを改善することなく,やがて慢性肝炎で再入院して,さらには肝硬変になり再入院,その後肝がんで再入院するというような診療記録が多々ある.確かに入院する度に対症療法がされているが,同じ人が何度も身体症状を出して,同じ病院に入院している.ライフスタイルの変容がないと生命危機となると身体が警告しているのに,医療者も本人もそれに対処できず,今や死を迎えようとしているのだ.

私は、1981年から1997年まで、医療系システムエンジニアや医療機器の開発者として、医師とともに仕事をしてきた。しかし、現代医療の限界を感じ、1998年からは保健・疾病予防のフィールドに自分の職域を移し、2010年まで特に人の身体活動量を増やすトライをした。2012年からは、組織に介入し、ウェルビーイングな環境作りを手掛けてきた。いまの医療はどうだろう。日本人からノーベル医学生理学賞受賞者も出ているが、人は前より健康になったと言えるのだろうか…。

SAT療法開発の経緯

宗像は当時、

環境と行動の相互作用がストレスをつくり出す悪循環を止め,病気を短期間で予防,改善するシンプルな技法が必要

と、その必要性に駆られてSAT療法を体系化しているのだ。

本人以外の文書にも目を向けてみよう。
一昨年お亡くなりになってしまったが、筑波大の橋本さんが、「SAT療法」について、日本保険医療行動科学会年報 Vol.24(2009.6)に文章を寄せている。

1.SAT療法開発の経緯

SAT療法のSATとは Structured Association Technique の略であり、構造化連想法を活用したセラピーを意味する。それは、筑波大学大学院宗像恒次教授により開発されたが、その発端は30年以上前に遡る。
医療現場における再発、再入院を繰り返す患者の多さ、米国と比較し遅れていた我が国への行動科学教育の必要性を唱え、医療面接論、コミュニケーション論、カウンセリング論などを手がけた。しかしながら、日本はもちろんのこと、世界でも生活習慣病やうつ病などが増加の一途をたどっている現状を目の当たりにした。行動科学の理論は浸透したとしても、実際に現場で患者の行動変容を効果的に促すための本格的な知識や技法がないことが原因だと考えた。

そこで、環境と行動の相互作用が作り出すストレスとその悪循環システムを止め、心身の病気を短時間・短期間で改善し、更には予防を可能とする技法が必要であるという思いからSAT療法が開発されたのである。
現在、薬物療法や化学療法という物質的治療法により、脳の働きや神経系、内分泌系、免疫系、遺伝子系の働きを変えようという治療法だけでは、限界を感じている保健医療従事者は多いはずである。
SAT療法は、患者本人の中にあるイメージの力により、脳の働きを変え、行動変容を促して治療する方法である。従来の心理的なアプローチや患者教育は、患者のコンプライアンス行動に働きかけるものである。それは、正しい生活習慣への行動化を図る支援により、一時的に、検査値が改善するが、ほんの数か月で元に戻ってしまう現状がある。また、良好にコントロールできる患者ほど、その行動動機が恐怖心であり、検査値などに一喜一憂し、周りに見捨てられまいと必死になっているという現状もある。
SAT療法は、このような周りから認められるための恐怖人生への心理的アプローチの支援ではなく、自分がどう生きるか周りとどう愉しむかという自由で愉しむ人生のための心理的アプローチである。それは、単なるQOLの改善のみではなく、身体疾患にも直接的な治療効果があるものとして開発が進められてきた。

2009年から30年以上も遡るということは、1970年代後半にはSATの原型がすでにあったということか。その当時に出会っていれば、私は自律神経失調症のさまざまな症状に苦しむこともなかったのかもしれない。まぁ、でも、私はその辛さを経験することを選んで、この世に生まれたのだろう。トゲトゲの心が随分丸くなったといまは感じている。

SAT療法は、患者本人の中にあるイメージの力により、脳の働きを変え、行動変容を促して治療する方法である。
SAT療法は、自分がどう生きるか、周りとどう愉しむか、という「自由で愉しむ人生」のための心理的アプローチである。

この部分は、まさに、いまの私の人生観となっており、会社員生活の晩年は、いくつか職場を訪問する度に、そこで働く人々や、その責任者の方に、あなたはどうありたいのと問うていた。これを書いていて、私が6年行った「組織開発による職場活性化支援」の根幹は、実はSAT療法にあったのだということに、改めて気づかされた。

いまから10年余前の2010年5月、私はヘルスカウンセリング学会公認健康行動変容支援士という資格を取っている。

さらにその10年前の2000年の私、メタボ予防を中心とした健康づくり支援サービス事業を立ち上げたたが、少し早すぎたことと、「指導」の域を脱せなかったことから、期待した結果を十分に得られていなかった。それは、橋本の言う「患者のコンプライアンス行動に働きかけるもの」の要素が多かったのだ。
その悔しい思いが、ずっと私の中に残っていた…。
2009年から、SATの行動変容支援の勉強とトレーニングをしたことで、その年の12月、臨床スポーツ医学12月号に「特定保健指導のツール」として、それまでの思いをまとめ上げることができたのだ。

特定保健指導のツール -特集 メタボリックシンドローム対策の新しい動向

行動変容

行動変容、これまであまり聞かれたことがなかった言葉だと思うけど、コロナで一気に広まったのかな…。
保健活動に関わっておられる方には馴染みのある言葉だが、いま一度、少し説明しておきたい。

ネット検索したところ、日本歯科大学東京短期大学の野村正子さんの「『行動変容』とは?」というPDFがみつかったので、そこから学術的な表現を一部引用する。

行動変容(behavior modification)という用語は,心理学者のアイゼンクらが,1950年代後半に,不適応行動の治療理論と治療技法を,学習理論・行動理論に求めるべきであると提唱して行動療法が普及するとともに,行動療法とほぼ同義語として用いられるようになった。
行動療法とは,心理療法の一つであり,実験的に確立されてきた学習理論や行動理論に基づいて,対象者の不適応行動を消去し,適応的な行動がとれるようにするための技法の総称である。やがて,行動療法が教育やその他の広い分野での行動修正に用いられるようになるにつれて,行動変容という用語も汎用されるようになった。
生活習慣病をはじめとする多くの慢性疾患の予防と治療には,人が健康のために良いとされる行動をとり,維持することが重要である。さらに,健康のために悪いとされる行動は修正し,そちらも修正したまま維持しなくてはならない。どちらも行動を変容し維持することが,健康に繋がる。健康行動(health behavior)は,「健康の保持,増進,病気からの回復を目的として行われる行動」と定義されている。

コロナ第3波到来などと騒がれている今日、飛沫などすぐに拡散される戸外でさえ、ほぼ100%の人がマスクをしていることに、この「変容」を実感する。
ただ、私は、花粉の季節以外、外でマスクをすることはほぼない。だって息苦しいから。大切な呼吸の妨げになるばかりか、表情を隠し、コミュニケーションの障害にもなると感じるから。

先の文献で、

健康のために良いとされる行動をとり維持すること、健康のために悪いとされる行動は修正し、そちらも修正したまま維持しなくてはならない

と述べられている。
でも、この良い悪いをどう判断するか、その基準がウソだらけなら、行動変容の意味がない。それに、健康は個人に関する要素も大きく、大前提として、自分が健康であるとはどういう状態かのイメージをもち、自分自身の心身の状態をよく観察する必要がある。そしてもし違和感があるなら、その感覚を大事にし、どう行動するかを選択することを私はおすすめする。
ここで野戦病院に行けば、あなたが訴えた症状を抑え込むためのクスリが処方され、それを飲むことによって一時的に症状が軽快するかもしれないが、それが果たして「健康のために良いとされる行動」と言えるだろうか。

SAT法の体系

再び、話を橋本の論文に戻す。
SAT療法を含むSAT法の体系を説明してくれているので、追加で転記しておく。第二十二話でもお伝えしたが、SAT法とはどんなものかがもっとイメージしやすくなるだろう。

2.SAT療法とは

SAT療法は、SAT法の一つであり、
それはSATカウンセリング法とSATイメージ療法を合わせたものである。そして、SAT療法とSATソーシャルスキル法を合わせてSAT法と呼ぶ。

カウンセリング法は、悩み事を作っているクライエントの中にある欲求や感情の矛盾を、より少なくし、自分本来の欲求や感情に素直に生きられるように支援し、人格成長を促す方法的な人間関係である。
人に矛盾する欲求や感情を持たせている原因となっている現在の自分の欲求や感情と過去の未解決な欲求や感情が混同してしまう「時間性の混同」と自分の欲求や感情と他者の欲求や感情が混同してしまう「社会性の混同」への気づきを促し、再解決するイメージを持つことで、「今ここで」のあるがままの自分の欲求や感情に素直に生きられるように支援する。
SATカウンセリング法では、一般的なカウンセリング法では扱うことのない胎児期記憶や世代間伝達、生物間伝達された潜在記憶を扱い、その潜在記憶の中にある他者や自己との気づきや区別を促すという特徴を持つ。

そして、その方法の上に更にSATソーシャルスキル法により、こだわりのないクライエント本来の生き方をできるように気質コーチング法や健康コーチング法による行動目標化や人間関係ストレスマネジメント力や問題解決力、上手な主張力や交渉力などのソーシャルスキル支援を行う。

心理療法では、症状の軽減をする「治療」を主とした目的においているが、SATカウンセリング法では、人格を育てる教育的アプローチにより「人格成長」を主眼とするので、問題症状はあってもよいというスタンスを持っている。また、SAT療法で用いるカウンセリング技法は、もっぱら心理的な問題を扱う従来の心理カウンセリング法とは立場を異にし、身体性を重視し身体症状を入口にして、身体と心の問題に関わっていくため「ヘルスカウンセリング法」と呼んでいる。
SAT療法の一つであるSATイメージ療法は、1999年に開発されたものである。
それは、言語的コミュニケーションのみならず、身体症状や顔表情、動作、血液検査値などに表れた身体性を重視し、潜在意識がもたらす問題の再解決を促しつつ、SATソーシャルスキル法による環境改善やソーシャルスキル改善の支援を行う。


昨今、世の中には、癒しのツールがたくさんある。ただ話を寄り添って聴いてくれる、そんなカウンセリングも少なくない。あるいは占いのように、あなたは○○だから、こうした方がいいよ、アドバイスをくれるものもある。けれども、それらは、刹那の癒し。根本解決が図られていないため、しんどくなる度に頼りたくなる、施術者に依存させる方法だ。やる側にとっては、継続顧客を取れる美味しいビジネスだったりする。

それらに対し、SAT法がすごいなーと思うところは、イメージ療法で癒すだけでなく、カウンセリング法を使うことによって相手の心の欲求を引き出し、さらにはコーチング法によってその欲求を満たすための行動変容を促すとともに、人間関係などの環境改善を図る技術・ソーシャルスキルを訓練し、行動できるようにしてしまうこと。クライアントを自立・成長させる、問題解決のすべてが揃った理論体系と実践ツールなのだ。

ただ、それでも万能ではない。SAT法は基本言葉を介して行うため、それが通じない相手には難しい。言葉を使うということは左脳、イメージを処理するのは右脳。SAT法は左脳・右脳をバランスよく使って癒す方法ともいえるのだ。
この体系を学んでみたいという方は、ヘルスカウンセリング学会に尋ねられたい。

いまは「宗像塾」というものもあり、年に一度だが、宗像本人による集中講座も行なわれている。また、私・横地も、来年また、同学会公認ソーシャルスキルトレーナーとして、SAT法のソーシャルスキル勉強会を再開するし、希望があれば個人セッションを始める予定なので、お問合せいただけたら幸いである。


お待たせしてしまったが、2023年、「サッ!とメントレ塾」として、Webを通じ、日本のどこからでも、在宅でソーシャルスキルを学べるよう取り組みを始めたので、興味を持たれた方は覗いてみてほしい。


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